映画グランツーリスモ 解説:どこまでが実話なのか?どこからが本当なのか?

オレは思うわけヨ
もし実話がベースと言い張るのなら
ドコまでやっていいんですか──って
なにをやっちゃいけないんですかって

登場人物も戦績も、そして時系列も
ドコまでが改変を許されるんですか──
どこまでやったら実話じゃなくなるんですかって

創作でしかないんですヨ──やっぱ
小説よりも奇なる事実はそう滅多にない──

だから映画の視聴者サマ、ときどき目をそらしてください
間違ってる我々のコトから──


“世界一過酷な夢への挑戦”
“熱き者たちの感動の実話”
“奇跡の実話”

おえっぷ。

映画グランツーリスモ。
公開から5ヶ月ほど経過しましたね。

Amazonプライムビデオのセール対象にもなりましたから、これを機会に視聴されたかたも多いんじゃないでしょうか。
かくいう私もこのタイミングで視聴しました。

まずは映画ではなくゲームの話になります。

私はグランツーリスモが大好きです。
26年前のあの日、兄が初代グランツーリスモを買ってこなければ、私はたぶん別の人生を歩んでいたでしょう。
どんな人生かを想像もできません。車が好きじゃない自分というものは、想像することも困難だからです。

「じゃ、そんなに好きなのになんで公開日に劇場で見てないんだ?」

というと、とある動物の名前の人が書いた酷評のnoteを見たからです。

まあ、こうなることはなんとなく分かっていたので、答え合わせみたいなものでした。俺はクソ映画に詳しいんだ。有名監督だろうがクソを撮るときは撮る。金が必要だとか、クソを撮りたくなったとか、誰もやりたがらなかったプロジェクトの火消しに急遽採用されたとかいう理由で。

なので気分が悪くなったら途中で視聴を打ち切れる配信で、かつ、なるべく興行収入に貢献しない形で観たかったのです。
妻と2人で強い酒を飲みながら、相席食堂の「ちょっと待てぃ!!」ボタンを真ん中に置いて観ました。

別の人から「知らないほうが幸せだから見るな」とも言われたんですが、だって…!吹替が…豪華だから…!本当に…超豪華だから…!

しかしこの映画、本編よりも感想を観たときのほうが愕然としました。

みんな、この映画を実話だと思って観てるんですね。
正気ですか?週刊実話くらいの実話度ですよ?

「これが実話だなんて信じられない!本当に実話なの?」
って、そりゃそうですよ。実話じゃないんですから。

と思ったら、公式が #実話だから熱いグランツーリスモ のハッシュタグでプロモーションしている…
そして、そもそもの英語の原題もGran Turismo: Based on a True Story

いや、最初は冗談かと思いました。

自分からしたら「メリーランド悪魔憑依事件は実話。だからそれを基にした『エクソシスト』も実話」と言われているようなものです。当たり前ですが、人間の首は180度回らない。この映画、自分の中ではモータースポーツ版「恋空」であり「プロレススーパースター列伝」です。えっ?ウラウナ火山って実在しないの?そもそも不死身仮面アズテカも?

でも、よく考えたらみんな知らないんですよね。カーレースのことなんて。

感想のなかには、ヤンの乗っている車をF1だと思っている人もいました。
不思議じゃありません。日本のF1ブームって何年前でしたっけ。
そりゃいくら大きな嘘をついても、ついただけ得というものです。

映画批評サイトは妙に絶賛の嵐。
グランツーリスモをやったこともやってみる気もない記者がグランツーリスモを絶賛し、知らないのかそれとも目を背けているのか「実話」をやたらと強調。


一転、ゲーム系やモータースポーツ系サイトは奥歯に物。
「脳の重要な部分を数時間オフにして、寛大な心で観てほしい」
「現実のヤンをいったん忘れてもらってからご鑑賞いただければ幸いだ」
って、MIBじゃないんだからそんな都合よく記憶が消せますかいな。


でも、じゃあいったいどこがどう違うのかをまとめた記事はない。

思えば「実話を元にした」ほど製作側に都合のいいフレーズはありません。どこまでが実話なのかを説明する責任はないし、何も知らない視聴者側は「そう言うからにはあれもこれも実話なんだろう」と、勝手にいい方向へ解釈してくれます。

そう、まさか全篇にわたって不都合な事実がトリミングされ、時系列を入れ替えられ、荒唐無稽な創作が混ぜられ、勝者もチームメイトも存在ごと消され、他人の栄誉が盗み取られ、黒歴史は葬り去られ、史実とは別物に改竄されているなんて思いもしませんし、それを確かめる術もありません。

もちろん「どこまでが実話なのか知りたい」という感想もありました。ですが映画を楽しんだ視聴者の感動をぶち壊しそうな、金にもならない長文記事をわざわざ書く暇人は、いまのインターネットにはいなかったみたいです。ソニーからのPR案件も失いそうですしね。

なので、私が書くことにしました。

もちろん私も、モータースポーツ誌の記者のように詳しいわけではありません。あくまでもグランツーリスモのいちプレイヤーであり、モータースポーツのいちファンの視点からの解説だと思ってください。

  1.  オンライン選考会編

  2.  GTアカデミー編

  3.  レース登竜門編

  4.  挫折とルマン

という、4編にわたるだいぶ長い解説記事になりましたので、GT7のメンテナンス中にでもお読みいただけますと幸いです。なお、こんな長い記事は読んでいられないという人向けに、各編の目次を読むだけでもどこが史実と違うのか分かるようにしてあります。

以下、注意点です。

・記事中は敬称略としていますが、現実の人物に言及する場合はリスペクトの意味でも「選手」などをつけて映画内の人物と区別しています。

・当然、視聴済みのかたに向けたネタバレありの解説記事です。基本的に映画に対するツッコミと解説のみなので、並行して本編を視聴されることをおすすめします。ファスト映画にならないよう解説不要かつシナリオ的にコアな部分については省略しています。

・モータースポーツに馴染みがない人が読むことを想定して、専門用語は極力減らすか別の言葉で言いかえてあります。どうしても必要な用語については都度説明を行ないました。読んでも分からない箇所があったとすれば、それは分からなくてもいい小ネタです。

・字幕と吹替で見て、字幕で省略された箇所や解説が必要なところを極力拾うようにしています。たいていの人は吹替で見たでしょうけれど…

・ですが、それでも足りないところや見逃しはあると思います。申し訳ありません。コメント欄で教えていただけると嬉しいです。

・サメは出てきませんでした。出てきてたら教えてください。


誤解しないでほしいのですが、私はこの映画が嫌いなわけではありません。

嫌いになれるわけないじゃないですか。だって、自分の人生を変えたかもしれない、子供の頃から好きなゲームのタイトルがついた映画ですよ。

劇中の車のチョイスにはニヤリとしてしまうし、吹替も素晴らしいです。
記事では茶化していますが、仮想と現実が混ざるCGもハイクオリティです。
劇場で観れば音響も最高だったそうですね。
また、これだけのレースカーを用意するのも大変だったと思います。
おっさんは可愛いし、澤選手もドリブルが上手い。

だからこそ、プロモーションが気になるのです。

これは映画でエンタメだと振り切っているのであれば、ポップコーンでも食べながら笑って観ていられたでしょう。ポップコーンムービーの描写にいちいちツッコむのは無粋です。

ですがこれが「実話」だと宣伝され、現実のこちらの領域まで踏み込んでくるのであれば。

やはりそれは、どこからどこまでが実話かを、誰かがはっきりさせておくべきではないでしょうか。

現実で、そしてプレイステーションで戦った人たちの名誉のために。



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