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大切なものを手に入れるためには大切な何かを手放す必要がある

とても大切にしていた腕時計を無くしてしまった。
しかも、原因は完全に私の不注意だった。
無くしそうだ、と思っていたのに、その時に対処しなかったからだ。
外で腕時計を外す時は、必ず入れる場所があるし、
ベルト式のものはバッグの取っ手に巻き付けるようにしていたのに。
余りにも急いでいたため、ちょっと目を離したのだった。

時計のない学校に通っていたせいか、腕時計は欠かせない。
今の環境では、時計なぞ、あらゆるところにあるし、スマホもあるが、
やはり私は腕時計をしていたいのだ。

その腕時計は、
一目見て心を打ちぬかれ、いったんはお店を出たものの、
どうしてもあきらめきれずに半日考えてからお店に戻って、
金額的にも頑張って買ったお気に入りの時計だった。

ありとあらゆるところ、立ち寄ったと思われるところをくまなく探したが影も形も見当たらない。
あんなに大きくて重たい時計なのに、文字通り忽然と消えてしまった。
三日ほど落ち込んで、自分の不注意を呪った。
諦めきれなかった。
ひとりで後悔の念に苛まれている時に、
「大事なものを無くした時、大事なものを手に入れる」
と聞いたことがあるのを思い出した。
私が腕時計を無くした、とくだんの優しい彼に告げた時
どんなに大切にしていたかを黙って聞いてくれ、
とても熱心に探してくれ、激しく落ち込む私を穏やかに慰めてくれた。
私の誕生日が近いこともあり、
同じものはもう手に入らないけれど、同じタイプの時計を贈りたい、とも言ってくれた。
スピリチュアルなぞというものは信じてはいない。
けれど、無くなった腕時計は何かを私に告げているような気がする。
今までの過ぎ去った時間のことは忘れて、これからの新しい時間を過ごしなさい、ということなのだろうか。
今までの人生を特別幸せだとも、特別不幸だとも思ったことはない。
きっと、人生なんてこんなもので、淡々と過ぎていくものなんだろうと思っていた。

伏線というものがあるのならば。
きっとこういうことなんだ。

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