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SDTraining

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【SDTraining】は、私がTwitterの物書き仲間と一緒にやっている描写修行作品です。2週に一度、提示されたお題画像をもとに情景描写文を作成し、締め切りに準じて提出、公開…
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2021年8月の記事一覧

2108C志乃【夏草】

 いつの間にか居住区域が蒸籠の中に移っていたらしいことを、冷房の効いた部屋から一歩外に踏み出したことで知った。ひどいものだ、吸い込んだ空気で肺から蒸しあがりそうな日和である。
 さっさと所用を済ませて帰るに限る、と歩き出せばじわじわと滲み出した汗が頭皮を伝って、顔の凹凸で川になった。顎を通り首筋を流れ、服の襟にしみ込んでも微塵も涼しくならない。
 西へ傾き始めた日差しに目を眇め、建物の影を選んで跳

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2108B志乃【山道】

 古いアスファルトのヒビを踏んでよろける足を引き戻して、ハアと大きく息をついた。
 下草や垣のように茂った細い笹を刈り取った直後なのだろうか、土と草の匂いに包まれて急坂を上る。道にはみ出してきた分だけを刈ったようで、道の脇は手を差し込む隙間もないほど細い木は草刈りを免れた笹が、みっしりと壁を作っていた。
 見上げれば午後遅くの傾きかけた日が頂上を眩しく照らしている。登り切った先がなに一つ見えないま

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2021Su志乃【橋竜】

2021Su志乃【橋竜】

 しとしと、水気を吸ってしんなりと地面に重なる枯葉を踏んで歩く。落ちた小枝も若木の枝のようにやわらかく、靴底に圧されても曲がるばかり、折れようとはしない。
 息ができる水の中にいるような潤った空気は、すぐ近くに滝があるからだ。高く空の上から落ちるような滝は、その足もとに涼しいながらも年中雨が絶えないかのような、特殊な気候を作り出している。
 透き通るような緑の木々に、無造作につかんだ宝石をまき散ら

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