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突発掌編

5
突発的に書いた短い小話。
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記事一覧

微熱

 彼はいつも、僕のことを「甘い」と言う。
 それは僕の態度のことであり、決して僕自身の血肉の味のことでないことは、承知している。僕は彼の口に含まれたことがないから。
 しかし、思うのだ。
 甘味というものは、温度が高くなると感じやすくなる。
 だから、きっと今の僕をかじったら、彼の口にはさぞかし甘いんじゃなかろうか、と。
「またくだらないことを考えているだろう」
「なにも言わないうちから、ずいぶん

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天雨

 目を閉じていてさえ眼裏を灼く、無遠慮な光が嫌いだった。

 その日は彼女の、一世一代の晴れ舞台だった。
 日の神を祀るこの村で、一番の神楽巫女。これまでの神事でも度々見事な舞いを納めてきた彼女が臨むのは、一二〇年に一度の特別な神事だ。
 村の古老が、前回のそれを見たという親からの口伝をもとに場を整え、衣装を誂える。……たった数人の古老も、その神事を直に見たことはないのだ。

「正しく舞えるかしら

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甘い

 口に甘く感じるものは、生きるために必要なものだ。
 例えば糖。脳の燃料だ。これがなければ考え事もできないし、体を動かすこともできない。
 例えば脂。これもエネルギーになる。足りなければ肌も荒れる。
 甘味料はともかく、糖や脂は必要量を摂取しなければ健康でいられない、生きるのに必須の栄養だ。
 甘い、が幸福に直結するともいわれるのは、命を保つために必要なものだからだろう。なければ死ぬ、あれば死なず

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くじらのほね

古傷だらけのくじらがあった。
くじらはあるとき力尽き、海の底へと沈んでいった。
仲間のだれも届かない、ふかいふかい海の底。
仲間の声も届かない、しずかなしずかな海の底。

沈んだくじらを、追う者がいた。

するどい牙が、傷あと連なるくじらのかわをはぎ取った。
大きなあぎとが、くじらのにくをむしった。
かわも、にくも、はらわたも、いつしかすっかりたべつくされた。

沈んだくじらに、棲む者がいた。

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ブループ

 深い水の中から、大きな泡が浮き上がったような音。
 例えば鯨のような大きな生き物が、末期にひとつ息を吐いて沈んでいくときのような。そうでなければ、水底で静かに眠る生物の、たまにつくため息のような。
 わずかに尾を引いた、低く響く音がどこから聞こえているのかはわからない。だが、この音を出しているのが生き物なら。その生物のそばでなら、よく眠れるような気がして、私は「彼」を探している。
 沈みゆく生き

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