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私的なバブル時代の終焉

数日前に仕事で甚だしく落ち込んだことがあった。

想定していた以上に傷つき、大人なのに23時の電車で「オーンオーン」と声をあげて泣いて帰った。あの、昔話とかで悪いことをしてこらしめた動物の泣き方だ。みんな見ていたがそんなことはどうでもよかった。本当に動物の本能のように辛く苦しかった。

アラフォーにもなりなぜこんなに、その出来事に反応してしまったのか。確かに何度か、数年に一度こういう落ち込みが定期的に来ることがあった。これはなぜなのか。これまで流してきた理由をその日一晩ずっと考えていて、思い当たったことがあり、ひたすら調べ、一冊の本を読んだ。

「鈍感な世界に生きる敏感な人たち」 イルセ・サン著

HSP(High Sensitive Person) についての理解は正直浅い。自分が尊敬する大変バリバリと仕事をしている人が「自分はHSPである」と公表していて、正直なところめちゃくちゃ社交的な人に思えていたため、とても驚いた。そのときになんとなく本当は心の中で少しよぎったことがあったが、敢えて調べることもなく、そのまま「そうだったんだ」程度に通り過ぎていた。しかし今回、泣きながら思い出したのは、その時読んだHSPの特徴についてだった。

本を読み始めて、思っていたことがやはり的中した。私のこれまでの生き方は、そこに描かれていたHSPならではの生き方に近かった。多くの事例に、「この気持ち、日々感じる」と納得し、「これ、自分が今まで抱えてきたことだ」と理解した。

HSPの特徴として、人に高く共感してしまい相手の気持ちを追体験してしまったり、人と一緒にいる時間が長すぎると疲れたり、大きな音や強い光に反応し、気持ちが辛くなるということがあるらしい。

幼少期から幼稚園バスに乗りたくないと激しく泣いていた男の子がいて、その泣き声が怖くて自分もバスに乗れなくなってしまったことや、他の人が責められているのを見ていて血の気が引いてくることなど、いろいろと思い当たることは多かった。高校を退学しているのもあまりにいろんな人の情報量が多くなりすぎて、自分がいつも通りに行動できなくなってしまったからだ。

それを人に伝えると「気にしすぎ」「弱い」と言われやすいので、余計に自分が異常なのだとわかって怖くなり、

大学に入ったころから私の憧れはプロレスとか、好きな女優はジーナ・ローランズとか、拳法だと思いカバディサークルに所属したりと、(単なる勘違いでカバディは拳法ではなかった。)何より「タフになること」にこだわって生きてきた。

仕事をしてからも私の評価シートの「我慢強い」だけはどの上司からもA評価だったし、ずっと歯を食いしばって何かをし続けてきた。今も比較的タフなふりを出来る方だと思う。

でもものすごく疲れる。正直なところ。

疲れがたまってくると、普通の人がしないようなミスを犯す。(今日も電気ポットをガスコンロに掛けた。)自分が何もできない人間で、人に迷惑をかけて生きているという気持ちで耐えられなくなり、なんとか仕事の山場は乗り切るが、その翌日は横になって眼だけ開けているのが精いっぱい、という姿になる。1ミリも人望がなくダメな人間だという罪悪感にかられる。アルコール度数9%の缶チューハイに向かってしか自分のそういう怯えを話すことが出来ない。

HSPであることを理解せず、私は万能選手に憧れ、タフでマッチョになろうと思っていて、そのギャップでいつも自己肯定感をなくし続けてきていた。完璧であろうとするのもHSPの特徴の一つだという。

「弱い」「気にしすぎる」「繊細だ」と、何気なく放たれた言葉だったはずなのに、私からするとそれは「必ず改善しなくてはならないこと、しろと言われていること」、脅迫観念だった。

でも私はプロレスラーにはなれない。

私はプロレスラーにも、ジーナ・ローランズにもなれないし、ブルース・リーにもブルース・ウィリスにもなれないし、宇宙に行って小惑星を爆破し、地球を救うことも出来ない。

そう思ったとたんに、外向的で「アッハハ!!大丈夫だ!!なんでもみんなの面倒を見てあげる!」というような、憧れてきたリーダーシップは私の守備範囲外だと素直に理解し、その部門で戦うのはもうやめようと思った。

出来ないこともあるし、出来ないからわかることもある。

ベッドの中で毎日アイスを食べたり、本当は一日中観葉植物とか石をボーとみながら暮らしたいなと思っている自分が、もっと尖っていける方向性もどこかしらにあるんだろう。

そういうことに気が付いた瞬間、これまでの数十年間入れていた肩パッドが外れたような気持ちだった。大変な変化というほどの衝撃ではないけど、「なんで肩パッド入れてたんだろう」という程度の。

すなわち私的バブル時代は、自らがHSPであると理解をすると同時に終焉した。別に、これが生きづらさの全解決ではない。

ただ、これからしばらくは90年代渋谷系みたいに力が抜けていて、しかしながらちょっとせつないようなNEW ERAなのだ。





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