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わんころちん #トシキ

犬のことをわんころちんと母は言う
猫のことをにゃんころちんと、たまに言う。
私の人生八割はわんころちん、八割柴犬。

わんころちんの話、2つ目はダンシーバ
赤毛の美しいイケメン柴犬、トシキ。
初めての息子のように溺愛していたはず…

母が2回の入院を経て、仕事を辞め家に入った
チャンスだ…この機を逃してはダメだ!!
そう思って、ペットショップへ行った。

最初は別のコをと思っていた、それは…
バイトして稼いだお金の額の都合だった。
ただ、ペットショップ店長はトシキを薦め
交渉の結果、トシキは格安でうちのコになった。

連れて帰った日、ずっと座布団の上で寝てるので
ただそれを眺めていた、全然飽きないのだ。
受験勉強もせず、何時間も眺めていたと思う
まだ携帯もスマホもない頃で映像は残って無い。

トシキと名付けたのは、私だ
犬に人の名前なんか変だと、当時言われた。
でも、それも一瞬だったように思う
みんなすぐに慣れて、違和感なく呼んだ

トシー、おいで。

そんなものだ…ただ、一人だけ
その呼び方ヤメてくれや…と、言う。
自分が母親に呼ばれる時と同じだそうだ
だとして、やめられるわけがない。

トシキはトシだから、変えられない。

子犬から飼うというのは、初めてで
室内飼いするのも初めてのこと
買ったのは、トイレやペットシーツ
おもちゃもいくつか買ったけど
トシキはなかなかトイレを覚えず…
おもちゃも遊ぶのは、一つだけ

赤くて突起のあるボール
どう遊ぶか、突起を噛み千切るのだ
正解かどうかは知らないけど…
楽しそうなので良きかな。

外に散歩に出ると、用を足す
それを覚えると、家ではしなくなった
柴犬が自分の寝床を決して汚したくない
自分の寝床から離れた場所に大をする
そんなことをなんとなく理解した飼い主。

歯磨きは、嫌い
耳掃除は、もっと嫌い
爪切りは、まだマシ
シャンプーは、嫌だけど我慢
そんなトシキが、毎日可愛かった。

散歩に連れて行くのが楽しかった
赤毛の美しさは、自慢の1つだし
飼い主はドヤ顔で散歩してた。
犬バカの始まりだったかも知れない

しつけは、待てとおすわりとおいで
お手やおかわり伏せまではできたかな…
他に多彩な芸を教えようとはしなかった
飼い主には、そこまでのやる気はなかった。

散歩に連れて歩くことが何より楽しいのだ
日帰りで遠出もした、連れて行くのが
本当に嬉しいし、楽しかった。

だけど、私はトシキを置いて上京した
3年経って帰ったのだけど…
トシキの態度は一変してた。

気に入らない事に、咬み付いて抵抗
何度も咬まれたけど、置いて行った私が悪い
しばらく無視することはあっても
噛まれてトシキを怒ることはできなかった。

トシキとまた寄り添いたくて、散歩した
できる限り長く…
当時は、仕事で夜遅かったりして
夜中まで家で作業したり…
真夜中に思い立って散歩したり

一度、思い悩み少し遠くの大きな橋まで
真っ暗な川をじっと見下ろしてたことがあった
でも、トシキが立ち止まり…帰る!!…と
そう言われた気がした。

それからあんまり咬むことは無かった気もする

トシキには何度か脱走歴があった。
いつもすぐ見付かったり、あっさり帰ってきたり
あまり心配しなくても…なんて考えてた
それは、とても危険で甘い考え
トシキは自動車は乗るもので
止まってくれるもの、そういう認識だったのかも

気が付けば…トシキも、14歳だった。
先代犬シロが、12歳になれなかったから
嬉しく思っていたのに
もっとよく理解していなければいけなかった
高齢犬なのだということを

ある日、足を踏み外し下水溝に落ちたのだ
前を見て歩いていたのに、ストンと落ちたのだ
トシキは目がよく見えなくなったのか?
そして、そこからなかなか上がれず
上げてくれと…鼻を鳴らした。
あんなに散歩中の抱っこを嫌がってたのに

気にかけ、よく見ていてやらなければ…
でも、元気よくスタスタ歩くのだ
まだまだ元気だ、大丈夫…そう思ってた。

トシキも眠そうにしてることが増えた
なんとなく反応が鈍い感じもあった。
ただ…トシキは元気よくスタスタ歩くのだ
大丈夫と思ってしまっていた

ずっと夜中に描いていた絵が描き上がり
勢いで散歩に繰り出した、真夜中なのに
なんだかすごく気持ちよく散歩してた…
わんころちんも喜んでると思ってた。

家に戻り、玄関ドアを開ける前に
リードを外し…玄関ドアを開けたあと
振り返ると、トシキは外へ向いて進み出し

トシ!…ダメ

一瞬振り返ったトシキは走り出した
全然間に合わない、全然…間に合わない…
なんで??まだあんなに走れるの!?
急いであとを追いかけたけど…
全然、追いつかない
あっという間に見失って…

その後、散歩で歩く道をあちこち探した
でも、見付からない…少し遠くも探したけど
夜が明けても見付からない
その日は、仕事中も気が気じゃなかった
ちょうど、有線放送で柴咲コウの曲が流れ
歌詞と気持ちがリンクして…泣いてた

仕事帰りも遠回りして
泣きながら、トシキの姿を探した
ずっと雨の中何時間も探したけど
見付からない、あちこち電話をかけたり
保健所にも問い合わせたり…
ネットも見た、できることみんなやった

でも、みんな手遅れだったのだ

教えてくれたのは、新聞配達員の方から
柴犬が道路に倒れてたけど、お宅のコじゃない?
急いでその場所へ行った…どうか違ってて…
トシキが行ったこともない場所だった

トシだ…

その後は、言葉にならない後悔…
止まらない嗚咽、だけど早く連れて
早く連れて帰りたい…
トシキは帰ろうとしていたと思う
でも、帰れなかった
自動車に跳ねられたんだろう…裂傷が酷かった
肉球まで割れて腹部は皮が剥がされてた…

ごめん、ごめん…トシ、ごめん、ごめん…
謝っても、謝っても…返事は無い

なんてことをしてしまったんだろう…
震えが止まらない手で、体を拭き整えた
その日一晩と思ったけど…
もう亡くなって、一晩経過してるから

ごめん、ごめん…トシ…ごめん
泣きながら送り出し、荼毘に付す
遺骨を受け取りに行くと、お寺の方に
遺骨を見せてもらい

立派ですね、こんなにしっかりと形の残るのは
みんなバラバラに崩れちゃうんです
大事に可愛がられてきたんですね…と。
顔が見えなくなるほど、溢れた涙と感謝の言葉

ありがとうございます

帰り道、骨壷の中から1つトシキの欠片を食べた

どこでも一緒に行こうトシ










     


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