見落としがちな「滑舌」のワナ
実は、ここ数ヶ月の間に"滑舌"に纏わる苦い現場に何度か遭遇しました。皆さんは、自分の滑舌を誰かにチェックしてもらったことはありますか?おそらく、読みの癖などの改善点を指摘されることはあっても、滑舌を細かく指摘される機会というのは案外少ないかもしれないなと想像します。
それは、プロのナレーターであれば「できて当たり前」だからです。だからこそ、ディレクターさんたちはナレーターに滑舌の指摘はどうもしづらい…。もちろん細かく指摘してくださる方もいらっしゃいますが、例えるならば、プロの料理人に「包丁さばきが下手ですね」、アナウンサーに「声が出ていないですね」というのと同じような感じでしょうか。(例えが下手ですみません笑)
その結果、「自分の滑舌に問題はない」と思い込んで過ごしている人が多いのかもと、ここ最近気づいた私は『人の振り見て我が振り直せ』と、自分にも改めて厳しくするようにしたところ、毎週の朝の生放送ナレーションもすこぶる調子が良いではないですか…!
このように、自分の甘さに自分で気付く、あるいは指摘されて自ら改善できる方なら良いのですが、滑舌には落とし穴にもあるなと。その辺りを今日はお話ししていきます。
“苦い現場”
基本的にナレーターのお仕事は声優さんとは異なり、一人で収録を行うことが多いですが、数か月前、ある現場で先にボイスオーバーの部分だけ収録をされる別事務所のナレーターさんがいらっしゃって、その方々の収録の様子を見させていただく機会がありました。
読みを聞く限り、おそらくメインのお仕事はナレーションではなく、アニメの声優や外画の吹き替えをされている方なのかなと思うのですが、ここだけの話、お声の雰囲気はとても素敵なのですが、残念ながら滑舌が…
・「カナダで」「スーパーなどで」 ➡ ナ行とダ行の連続
・「鮮やかに」 「基礎を大きく」 ➡ 同じ母音の連続
これらの音が特に難しいようで、かなり苦戦しておられました。悲しきか、サブ(副調整室)のディレクターさんの背中からは「仕方がない、この辺りで良しとしよう…」という諦めを感じ取りました。
こうなってしまうと、よほどのことがない限り、残念ながら次回は呼ばれないでしょう。いつ自分の身に起きてもおかしくない展開なので、『人の振り見て我が振り直せ』、この時も自分に言い聞かせました。
落とし穴
しかしながら、滑舌には、自分の滑舌の甘さに自発的に気づくのが難しいという性質があります。先に登場したナレーターさんは、ディレクターさんが何度リテイクをお願いしても残念ながら改善ができなかったので、おそらくですが、自分のベストな明瞭音が体感としてないのだろうと察しました。
私のように、例えばアナウンサースクールやテレビ局の先輩に厳しく指摘してもらったことがある人間は、滑舌が甘ければ自ら努力して改善する、もしくは、どうしようもなければ上手くごまかす(←これも実は必要な技術かもしれないですね)など対処ができますが、どの音が明瞭な音なのかというのを体感したことのない方ですと、もしかすると指摘されても分からないのかもしれないなと。
何十年もその音とともに特に不自由なく生活してきていますから、「あなたは、ナ行とダ行が組み合わさった音が苦手ですね」などと言われたことがない限り、滑舌の甘さに自ら気付くのはなかなか難しいものがあります。
まとめ
滑舌の状態は日々変化します。ですので、仕事の前にはたった5分でも良いです。あえて「必ず」と言う言葉を使わせていただきますが、どんな方でも自分はできていると思わずに、滑舌練習は必ずすることをお勧めします。
そして、もし時間に余裕があって、外郎売を使って練習するのであれば、「今の音は甘いかも」と思った際には、始めからやり直すか部分的に戻って言い直すなど、自分に厳しく徹底的に取り組んでみてください。そして、定期的に人に自分の滑舌を聞いてもらいましょう。
滑舌には自ら気付きにくいという落とし穴がありつつも、練習した分だけ確実に良くなります。滑舌よくスムーズに収録が進めば、現場の空気が良くなるばかりか、収録時間も短縮でき、省エネルギーで仕事を終えられ、次の仕事も良い状態で臨むことができます。
KBC九州朝日放送のアナウンサーの先輩方に鍛えていただいた私の耳でよろしければ、ぜひ滑舌チェックのお手伝いをさせてください。
最後までお読みいただきありがとうございました!
ナレーター 石井しおり
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