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活動報告を書いていたら、いつの間にかラブレターになっていた
その日、私は鎌倉にいた。
朝起きてテレビの電源をつけると、ニュースキャスターが「10年に一度の記録的な寒波です。ご注意ください。」とシリアスな面持ちで話している。
SNSでも、前日に強風・大雪で立ち往生した帰宅難民たちが悲鳴を上げていた。
「困ったなぁ、今日撮影なのに」
と思いカーテンを開けると、穏やかな日差しが差し込んできた。海も凪。
「あれ?さっき見たのは違う国のニュースかな?」と思ってしまう程の、綺麗な晴れ模様。
今日は、そんな奇跡みたいな撮影の1日について書こうと思う。
沙織さん、という人物
この日お仕事をお願いしてくれたのは、稲垣 沙織(いながき さおり)さん。
彼女は普段、大手企業にて企業研修やマナー講座を開催したり、『粋な女子道』というオンラインコミュニティを主宰している。
〇〇業界の〇〇社で営業をやっています!とかだと明確にその人の仕事のイメージがわくと思うのだけど、私の周りには肩書きや経歴を聞いても「??」となる人が多く、彼女も例に漏れずその一人だった。
沙織さんはこれまで出逢った人の中でも 5本の指に入るほど、心身ともに筋の通った人であり、美しい。
だからと言って話しかけ難さはなく、「みんなのお姉さん」みたいな雰囲気を醸し出している。
道に迷った時に、つい声をかけたくなる、そんな感じ。
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この彼女の描写こそが、彼女の活動を体現しているとも言えるかもしれない。
彼女は『子ども達が憧れる素敵な大人創り』をミッションに、
日本の美意識である『粋(いき)』の概念を軸としたライフスタイルの提案をしている。
『粋』、という言葉を知っていても、それが何か、を語れる人は多くないだろう。
『粋』という言葉は江戸時代に生まれた言葉で、ものすごく噛み砕いて言うと、「かっこいい」が意味合いとなる。
ただし、現代の言葉でいう「すごい」「やばい」と同様で、その「かっこいい」にも様々な意味合いが詰め込まれている。
「粋(いき)か野暮(やぼ)か」というのは沙織さんの口癖でもあるが、要は、「それはかっこいい行動なの?ダサいの?どっちなの?」という判断基準を自分の中でしっかり持とうね。
そして、正しい判断をするには、まずは自分が整っていないとできないよね。
だから、「粋」の精神をライフスタイルに取り入れて、自分の幹となる心と身体をきちんとお手入れしようね。
これが、沙織さんが活動を通して伝えていることだと、私は解釈している。
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2021年 春、出逢い
沙織さんとは、実はこれが初めてのお仕事ではない。
2021年の3月に、お互い登壇者としてとあるイベントでご一緒したことが出会いだった。
そして、そこからしばらく経った2022年5月。彼女とアメリカ・ニューヨークで撮影をすることになった。
これについても、せっかくなので少し触れたい。
2022年 初夏、ニューヨーク
2022年5月、沙織さんはアメリカ・ニューヨークのJFK空港に降り立った。
大きな目的は「海外では日本文化がどのように受け入れられて、どのように発信されているのか」これを学ぶ視察。そしてその過程をドキュメンタリー映像として撮影しよう、というものだった。
近年欧米でも「Zen(禅)」「Ikigai(生き甲斐)」「Bushido(武士道)」などの日本語の言葉や精神性が浸透しており、このままの言葉で意味が伝わる場面が増えてきている。
沙織さんは、この一環として「Iki(粋)」も文化の一つになっていくのではないか。そう考えて、海外での展開をしたいと考えていた。そして、この視察がその第一歩だった。
視察では、日本の文化に惚れ込み、それを起点にニューヨークで起業した3名のアメリカ人を訪ねた。
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視察の詳細が気になる方は映像を観ていただくとして、沙織さんは視察を終えて帰国したわずか数日後、旅から得たインスピレーションとエネルギーを背負って、とある出版社の代表に会いに行った。
そしてトントン拍子で出版の話がまとまり、出版の為に挑戦したクラウドファンディングも大成功。
ものすごい行動力が成し得た快挙としか言いようがない。そんな激動の数か月だった。
その流れからの、今回の鎌倉での撮影。
「ついに、ここまで来た」
これが、素直な感想だった。
ウォーミングアップは万全。あとはシャッターを切るだけだ。
奇跡の1日
今回は書籍に掲載する写真の撮影だった為、事前の打ち合わせや資料作成を入念に行った。
目指すトーンは?
誰に読んでほしいのか?
どんな文章に対して、どんな写真を添えるのか?
ロケーションは?服装は?撮影する時間帯は?
決めるべき項目に、丁寧にこだわりをもって、一つ一つ答えを出していった。
また、沙織さんは撮影の数日前まで執筆に向き合っていたのだが、『粋』の定義に明確な正解がないからこそ、彼女は意味と解釈を分解して、長い時間をかけて言葉に落とし込んでいった。
そんな準備を重ねながら、迎えた撮影本番。
前述の通り、日本全国が大寒波の中、それが嘘のようにくっきりと富士山が佇んでいるのが見えた。
これは、きっといい写真が撮れるに違いない。
思わずそう過信してしまうくらいに、奇跡のように恵まれた天候と撮影環境だった。
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ニューヨークの撮影から実に9か月ぶりに、ファインダー越しに沙織さんを覗き込む。
驚くべきことに、それは9か月前の彼女と、全く別人のようだった。
自信に漲っているのだ。
ニューヨークで共に時間を過ごした彼女は、言語の壁や社会情勢も手伝って、終始不安があった。同時に、この時点ではまだ、『粋』をどう言葉で表現するのか、というところに揺らぎがあったように思える。
しかしこの数ヶ月間、書籍の執筆にひたすらに向き合ってきたことで、彼女の言葉には力が宿っていた。
1mmのブレもない、最適解の言葉を探し続けたのだろう。
そしてその言葉たちは、確実に、彼女を根幹から強くしていた。
撮影現場での沙織さんは、「うまくいかない訳が無い」と言わんばかりに楽しそうに、明るい未来だけを見ている、そんな印象だった。
泊まりがけの1.5日に及ぶ長丁場ではあったが、疲れを全く感じない程に、わたしもエネルギーに溢れていた。そして、ひたすらにシャッターを切り続けた。
そうして完成した、一冊のフォトエッセイ本
タイトルは『IKI TOTONOE』
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本を本として見たら、それはもちろん、ただの本なのだけれど。
でも、沙織さんがこの言葉に、この表情にたどり着くまでには、たくさんの冒険が詰まっている。
怖いと思う気持ちにも、逃げてしまいたい時間にも、ちゃんと一つ一つ向き合ってきたからこそ生まれた一冊だと、私は思っている。
『粋』の精神を人々に知ってほしい。このメッセージが届いたら、きっと誰かの人生が好転するかもしれない。
そう信じる気持ちが、彼女を最後まで突き動かし、ここまで来られたのだと。
まさに、人生をかけた冒険に、彼女は挑んだ。
そして、やっと、出版という一つ目のゴールに辿り着いた。
この本に綴られた言葉だけを見たら、きっと沙織さんという人物は完璧な人間のように思えるかもしれない。
けれど、少しでも、1ページ1ページをめくる中で、彼女の冒険の日々を想像してもらえたら嬉しい。
彼女の勇気のきらめきを感じてもらえたら嬉しい。
その想像力はきっと、挑戦者の背中を押し、いつか自分の勇気になるから。
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最後は、共にたくさんの冒険を歩ませてもらった感謝を込めて、沙織さんへのメッセージでこのnoteを締めようと思います。
沙織さん、初の出版、おめでとう!
そして、心からのありがとう!
また次の冒険を、楽しみにしています。