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要約『幼児教育の経済学』ジェームズ・J・ヘックマン(著)
はじめに
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裕福な家の子どもは小さい頃からピアノを習って、塾に行く―。
早期教育や教育投資の考え方は昔からありました。ですが、早期教育が低年齢化し、教育内容のすそ野が広がったのは本書掲載の論文の登場以降です。
それは論文の内容が
1.大人になって豊かな人生を送る子どもは、計算や語学のような認知能力でもなく、家が裕福かどうかでもなく、我慢強さや共感性のような「非認知能力」が高いこと、
2.非認知能力の成長は0~5歳までの乳幼児期への教育効果が最も効果的、
という内容だったからです。
この論文によって「非認知能力」が注目されました。その結果、教育プログラムは多様化し、年齢と種類のすそ野が一気に広がりました。また、子どもを資本とみなし、教育を投資として、そして投資効果を利益として評価する、教育を経済学的に考える思考スタイルが一般にまで浸透しました。
本書は、子どもが賢くなるとか、親子関係が良くなるという類の本ではありません。しかし、政府や企業の政策や戦略に与えた影響は大きく、知っておくことで、彼らの視点を持つことができ、親にとっても教育サービスや学校選びを考える視点を持てるはずです。
1.貧富の差、その要因は「幼少期の教育環境」
「子どもが豊かで幸せな人生を送れるかどうかは、”幼少期の教育環境”が大きく関与する」とヘックマン氏は主張します。前向きである、おおらかである、気遣いができる、これらは生まれ持った性格や素質というよりも、幼少期に豊かな教育を受けてきたことによるものだと言います。
以前からアメリカでは貧富の差が社会問題となっていました。その要因に「教育機会の不平等」があげられています。貧困な家庭に生まれた子どもは十分な教育を受けられずに成長し、低賃金で働き、子どもの教育に時間やお金をかけられず、その子どももまた十分な教育を受けられずに成長していく、そしてそのまた子供も、という悪循環です。
そこでヘックマン教授は貧困家庭の子どもに教育の機会を与える政策ができれば、貧富の差はなくなるのではないかと考えました。
2.人生における成功は、賢さではなく「非認知能力」に左右される
では、貧富の差の元となる教育の機会の差や、「豊かな教育」とはなんでしょうか?
アメリカの最近の公共教育は、学力テストの結果、つまり「賢さ」を重要視しています。しかし、子どもが豊かで幸せな人生を送れるかどうかは、賢さではない、忍耐力、集中力、自制力、協調性、社交性など、「非認知能力」といわれる社会でうまく生きていくための要素が大きいことを、ヘックマン氏は数十年にわたる調査で論証しました。
また、非認知能力の有無は、賃金や就労、大学進学率、十代の妊娠、犯罪率などに大きく影響していること、そして、非認知能力の1つである「自制力」が高かった子どもは低かった子どもに比べ、大人になったときに「社会的地位」「所得」「健康度」のすべてが高かったという調査結果も論証しました。
3.「非認知能力」の高さは就学前の教育で決まる
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