私の心を捉えて離さないワインのこと
新宿伊勢丹でやっていた「世界を旅するワイン展」に行ってきた。
人が多すぎてただただ圧倒される。世界各国のワインを扱うブースがずらりと並び、心ゆくまで試飲できてしまうものだから、あちこちに人だかりができて前に進めない。
私も夫もイタリアに心酔しきっているので、まずはナチュラルワインゾーンでイタリアのワインを探すことに決めた。選択肢が多すぎるので、意思を持って回らないと何を買っていいのかわからなくなる。
イタリアの何にこれほど惹かれているんだろう、と時折考える。同じ価格帯のワインでも、イタリアよりフランスの方が複雑味があってレベルが高いと感じることは度々ある。それでも、芸術作品のようなフランスのワインより、酒場が似合うイタリアのワインが好きで、気づけば夢中になっていた。
サンジョベーゼの遠慮のない酸味やタンニンが好きだし、特別な日にはアマローネを飲みたい。最近は白ばかり飲んでいるけれど、イタリアの白は料理の邪魔をせず、むしろ一層美味しく食べさせてくれるものが多い印象がある。
とはいえ、ワインを飲み始めたばかりの私が語るワイン論なんて箸にも棒にもかからないし、フランスワインの世界もイタリアワインの世界も、想像できないぐらい深遠なのだろう。もちろん、その他の国のワインだって。
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イタリアの土着品種、モントニコ・ダブルッツォ100%の自然派ワインを1本カゴに入れて、次にふらりと立ち寄ったのは南アフリカの自然派ワインを扱うブース。ラベルがとてもかわいい。
「アフリカンブラザーズ」というインポーターさんのブースで、「南アフリカから初めて自然派ワインを入れたのが僕です」とおっしゃっていた。陽気なお兄さんに勧められるまま2種類のワインを試飲し、「O.T.O.M.E」という可愛いスパーリングワインをお持ち帰りすることに。自然派らしい癖がありつつも、酸味が控えめで色んな料理に合いそう。
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昨年末の「芸能人格付けチェック」を観ていた時に、GACKTが言っていたことが印象に残っている。「正解し続けられるのは、勉強を続けているからだ。ワインも、ただ飲んでいるだけでは何もわからない。どうしてこのワインはこういう味になるんだろう、ということを一つひとつ調べて覚えているから、それが知識になる」。そんなことを話していた(うろ覚えだけど)。
たまにワインの本を手に取るものの、気まぐれに入れる知識はするりと抜けていく。飲んだワインを記録するアプリ「Vivino」に登録したワインの数は349になったけれど、私は手当たり次第にイタリアワインを飲み散らかしているだけで、それは自分の血にも肉にもなっていない。
普段、漫然と飲んでいる時はそれでも全然構わないのだけど、今回のようなイベントに来ると、ふと悲しくなる。インポーターさんと、みんな何をそんなに話すことがあるんだろう、どれぐらいの知識を得たらあの輪の中に入れるんだろう、って。考えすぎなのかもしれないけれど。「このワインはサルデーニャ島で作られたんですよ」という言葉に、「へえー!」としか返せず、情けなさにくらくらする。ワインって、そういう敷居の高さはやっぱりある気がする。だからこそ面白いと思ってしまうんだけどね。
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さすが伊勢丹。ショッピングカートからボトルが転げ落ちてしまいそうなほど、大量のワインを買っていく人がそこかしこにいる。それを見ていると自分の感覚も麻痺して、もっと買っちゃおうかな、なんて思う。
イタリアの陰干しブドウを使った赤と、樽をしっかりきかせた白もカゴにいる。「濃厚な白」という言葉に弱い。試飲してから購入できると、ハズレを引くことがないからやっぱりいいな。
人だかりができていたモルドバのブースで足を止める。「香水ワイン」という謳い文句のオレンジワインが気になってしまったのだ。モルドバの位置もよくわからないまま試飲をさせてもらう。あとで調べたところ、ウクライナの南、ルーマニアの北東に位置する国がモルドバだった。とはいってもどんな国なのかまったく想像できない。
本当に香水を口に含んだような、むせ返るような花の香りが気に入った。こんなワインもあるんだ、って新しい発見をする時が一番楽しい。ワインの持つ、香りや味の豊かさ、幅広さは、他のどんなお酒をも圧倒すると思う。
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とにかく人が多すぎて、5本選んだところで離脱を決意。もう少し人が少なかったらいいな、と思いながら、それでも好みのワインにたくさん出会えた幸せな時間だった。
家に帰って、どのワインから開けようかな、なんて考えている時間はもっと幸せ。今年は、自分の血肉になる飲み方をしたいな、って思う。