東樹 詩織 / Shiori Toju

✍️アート/本/食/旅など | 📘ZINE maker ashumanfootprints.com ▷ photos, text | 🌏passionate about Asian cultures | 📍東京⇔信州上田で2拠点生活 | 本業は食と旅のPR & branding

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最近の記事

結局、人間って|ヨルゴス・ランティモス監督『哀れなるものたち』

「WHITE CINE QUINTO」で、話題作の『哀れなるものたち』を観てきた。 どこまでも美しく、コミカルで、残酷。古さと新しさが絶妙にブレンドされたファンタジックな世界観に、目を奪われ続けた140分。長いよね。でも、ストーリーが目まぐるしく展開するから、眠くなるような隙もない。むしろ、体感では5時間分ぐらいの密度があった。 リアリティを抑えた演技、大げさな演技が多く、まるで舞台を観ているようだった。シュルレアリスムの絵画に引っ張りこまれたような、訳のわからなさが心地

    • まさに完璧な日|ヴィム・ヴェンダース監督『PERFECT DAYS』

      憧れている人がおすすめしていたから、という理由で、予備知識もなしに『PERFECT DAYS』を観た。結果、自分史上1、2を争う素晴らしい映画だった。 映画は、人生への向き合い方を変えてしまう力を秘めているんだな、と改めて思わされるような。 ・・・ まず、一つひとつの音がいい。まるで耳元で聞いているかのような衣擦れ、ため息、東京の音。 冒頭は、役所広司さん演じるトイレ清掃員の「平山」が出勤の準備をする単調なシーンが続くが、カメラワークとライティングにキレがあって見飽き

      • 2023年に出会った、忘れられない10冊

        今年は、大人になってから、最も多く本を読んだ年だった。眠りにつく前も、ごはんを食べている間も、たった一駅の移動中でも。時間さえあれば、貪るようにページをめくった。 思い返すと、中学時代、通学路を歩きながらいつも本を読んでいた。歩きKindleがやめられない近頃は、あの頃にタイムスリップしたかのようで笑ってしまう。(危ないから来年はやめるように) 元々、読む本においては雑食だが、これまで以上に手に取るジャンルが広がった気がする。アートが主題の本や、批評、文学作品、哲学書など

        • 「感性」とは何か

          最近、頻繁に映画を観るようになった。 起伏に富むストーリーや、激しいアクションがなくてもいい。もやもやしたままで終わってもいい。 ただ、手のひらからこぼれてしまいそうな儚い美しさや、人間のどうしようもない不完全さに触れて、打ちのめされたい、と思う。 ・・・ 辞書的な意味、歴史の中で積み上げられてきた定義は一旦置いておいて、「感性」とは、何かに触れた時に感動できる心であり、思考できる頭であると思うようになった。 言語化し難い感動にすっぽりと覆われるのか。それよりも、思

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        • 映画の夜
          3本
        • 本の山、本の海
          4本
        • もふもふぺろん
          18本
        • ひたすらアート
          2本
        • えにっきみまん
          5本
        • ひたすらごはん
          10本

        記事

          無邪気さと決別した私たち|土井裕泰監督『花束みたいな恋をした』

          はじまりは、おわりのはじまり。 恋の生存率は、恐ろしく低い。 それなら、傷つくことのないように、恋愛を器用に避け続けることはできるだろうか。 愚問。恋が死ぬ度に「そんなもんだ」って思いながらも、私たちは懲りずに落ちてしまう。やがて悲しみに着地する穴に。 生き延びた恋が奇跡的に穏やかな愛に変わったとしても、生物である限り、別れは必ず訪れる。 だったら、結末のことなんて忘れよう。どれだけ言葉を交わして、どれだけ笑ったか。どれほどの時間を隣で過ごしたか。 「あの時、本当に楽

          無邪気さと決別した私たち|土井裕泰監督『花束みたいな恋をした』

          10年前のロードムービー

          思えば、ちょうど10年前だった。 2013年の9月、初めて一人で飛行機に乗った。 元々は新幹線で広島に行こうと思っていたけれど、天候を見て急遽福岡へ向かうことにしたのだった。有給中の平日だったから、当日でもエアアジアの航空券が安く取れた。 朝に搭乗の予約をして、昼頃には空の上にいた。福岡から、熊本、大分、徳島、香川、愛媛、広島を巡る一人旅の始まりだった。 動画が残っている。毎日の道程を少しずつ記録したショートムービーだ。旅の撮影データをおしゃれにつなげてくれる、HOND

          10年前のロードムービー

          ケセラセラな男

          ろくに天気予報も見ずに家を出たら、雲が「あー、夕立が来るかもしれないな」という色をしている時ってあるじゃないですか。 折り畳み傘を取りに家に戻っても、予定には間に合う時間。ただ、エレベーターで上がって家の鍵を開けて傘を探してまた降りてくるという行為がとても面倒くさい。 そんな時、「今降ってないからいらないね。降ったとしてもなんとかなるでしょ」と傘を持たずに出かけるのが夫。「もし降ってきたら最悪だから、面倒だけど念のためカバンに入れておこう」と家に戻るのが私。 このレベル

          ほんのちょっと前の台湾 | 2022.12.30 高雄・台南

          年末年始に訪れた台湾のことを書こうと思っていたら、怖いぐらいあっけなく半年が経ってしまった。だからこれは、「ほんのちょっと前の台湾」のアルバム。 旅をした6日間、私たちは、2人で3,574枚もの写真を撮った。 久しぶりに吸った台湾の空気。初日の感動は、以前書き留めた。 今日書くのは、滞在2日目の記録。写真はたくさんあるので撮って出し。 ・・・ 2022年12月30日(金) 台南 → 高雄 → 台南 せっかく南の方まで来たので、日帰りで高雄に行くことにした。どうやら、

          ほんのちょっと前の台湾 | 2022.12.30 高雄・台南

          真っ暗闇の中で|角川武蔵野ミュージアム「タグコレ 現代アートはわからんね」

          時々、「まっくら」に出会う。 夜のキャンプ場で、お手洗いからテントに戻る途中、ふと足を止めて懐中電灯を消すと。 耳が痛いほどの静寂と、木々の向こうには今にもこぼれんばかりに震える星。ニット帽とネックウォーマーの隙間から少しだけ覗く肌が、冷気できゅっと縮む、そんな冬の夜。 足元は光で照らせても、数メートル先は黒々として、歩きだせば、ざくざくと雪を踏みしめる足音だけが響く。白い息が闇に溶けて、一人ぼっちの不安と幸福を同時に噛みしめる。私だけがこの世界にいるような。むしろ、私

          真っ暗闇の中で|角川武蔵野ミュージアム「タグコレ 現代アートはわからんね」

          色彩に憧れる場所|DIC川村記念美術館「芸術家たちの南仏」

          キャンプをするついでに、キャンプ場の近くにある美術館へ立ち寄る、という楽しみが増えた。 先日は、千葉の一番星ヴィレッジでキャンプをして、帰りにDIC川村記念美術館に寄った。同じ千葉県といえども、市原市にある一番星ヴィレッジから佐倉市にあるDIC川村記念美術館までは車で40分かかる。少し足を延ばす感覚ではあるが、キャンプに行くだけ、美術館に行くだけ、よりも満足度が高い。 DIC川村記念美術館は、ずっと行きたいと思いながらも、なかなか機会がなかった美術館の一つ。ちょうど開催し

          色彩に憧れる場所|DIC川村記念美術館「芸術家たちの南仏」

          「日本の美意識」について、ずっと考えている

          「日本の美意識」という言葉が、頭の片隅にこびりついて離れなくなった。 きっかけは、去年の9月、一人旅の途中で原研哉さんの『日本のデザイン』を読んだことだ。本に登場する「エンプティ」という言葉に導かれるようにして、京都へ足を運んだ。「シンプル」ではなく「エンプティ」。それは、日本文化に通底する美意識を説明するのに、ぴったりな単語の一つのように思えた。 秋晴れの嵐山で、福田美術館に出会った。緊張感すら覚える静謐な空間に、丁寧に飾られた日本画の数々。その静けさと美しさは、西洋絵

          「日本の美意識」について、ずっと考えている

          芸術起業論が、ふにゃふにゃになるまで

          古典美術を面白おかしく解説するYouTubeチャンネル「山田五郎 オトナの教養講座」で五郎さんが紹介していた、村上隆さんの『芸術起業論』を買った。気付いたら、夫が先に読み始めていた。 「最近、現代アートとの向き合い方に迷ってるんだよね。ウィリアム・モリスは、日常の中で、大衆に対して芸術があるべきだと言っていて、知的芸術だけが商業的にもてはやされることに異を唱えてる。逆に、村上隆さんは、芸術ってそういうもので、日本が世界で勝っていくには知的芸術で突き抜けるべきだ、て言っている

          芸術起業論が、ふにゃふにゃになるまで

          一つのお別れがあって、そして

          今日、祖父を見送った。92歳だった。 最後に一緒に食事をしたのは、一昨年の秋だったらしい。信じられないぐらいの速さで時が過ぎてしまった。久しぶりに目にした祖父の顔は、とても小さかった。それでも、私の名前を呼ぶ祖父の大きな声は、耳元で聞こえるかのようにありありと思い出せた。 美しい柩の中、色とりどりの花に彩られて横たわる祖父の姿には生の名残があって、そのことは私を少しだけ安心させた。もう何も話すことができなくても、祖父はまだここにいる、と思えた。 だから、火葬炉の扉が開い

          一つのお別れがあって、そして

          本の山を登り、本の海を泳ぐ

          文字どおり、本に埋もれている。 机の上に、スピーカーの上に、カウンターチェアの上に、絶妙なバランスで積み上がった本。ジェンガのように、素早く引き抜くことが上手くなった。 ベッドの上、枕のそばに散らばった本。本が占めるスペースの分だけ、私の足先はベッドからはみ出す。 いつでも手を伸ばせば届くところに本の山や本の海があって、小腹を満たすスナックを選ぶかのように、その時の気分にぴったりの本を探り出す。1章だけ読んでみたり、物足りなくなって3時間ぐらい読みふけったり。 1冊ず

          本の山を登り、本の海を泳ぐ

          いまの台湾 | 2022.12.29 台南

          これは、久しぶりに触れた「いまの台湾」をひたすら貼っていくアルバム。 旅をした6日間、私たちは、2人で3,574枚もの写真を撮った。 3年という長い時が過ぎたけれど、台湾はそれほど変わってはいなかった。 思いがけず変わっていたのは、私たちの方だった。 ・・・ 2022年12月29日(木) 台湾桃園国際空港 → 台南 肌寒い台北を素通りして、南へ向かう。 台南。 古さと新しさが無秩序に入り交ざるさまに、理屈なく胸が震える場所。 3年前は、食べることにしか興味がなかった

          いまの台湾 | 2022.12.29 台南

          心の悲鳴と「写真論」

          2022年9月27日(火)晴れ 1日中、何の予定もない休日があったら何をするか? 睡眠は5時間ぐらいでいいから、朝、まだ陽が低いうちに目を覚まして筋トレと家事をする。家の中が整ったら、中華料理店においしいランチを食べに行く。ビールかグラスワインを1杯飲む。それから、東京都写真美術館をゆっくり観てまわる。母校の図書館にこもって本を読む。青春の味がするつけ麺を食べたら家に帰って、Unityの教科書をなぞって、Blenderで3Dモデリングをして、少しだけ絵を描いて寝る。 誰

          心の悲鳴と「写真論」