調味料たちと戯れたい
新宿伊勢丹の地下で、調味料類を買うのが好き。売り場が洗練されていて、棚に並ぶものたちをじっくり眺めていると胸がきゅんとする。
「世界を旅するワイン展」に足を運んだついでに、地下に降りて、切らしかけていたお醤油と鰹節を買うことにした。見始めると、「そういえばだいぶ前に山椒もなくなってたな」なんて思って、色々欲しくなってしまう。
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昔から、とにかく調味料に目がない。特に高速道路のサービスエリアがとても好きで、必ず一つ、何か買わずにはいられなかった。「いしる」とか「地元の山椒を使ったポン酢」とか、そういう「ここでしか手に入らないかもしれないもの」に惹かれてしまう。
自分の知らない味が存在することが悔しいし、もう二度と出会えなかったらと思うと恐怖すら感じる。食への好奇心が強いと言ったら聞こえがいいかもしれないけれど、まあ、単純に食いしん坊というか、食い意地が張っているというか。
そうやって集めた調味料って結局最後まで使い切れなかったりする。冷蔵庫や流しの下に、賞味期限がうんと前のボトルを見つけて、「ごめんなさい、さようなら」することも多かった。
だから最近は、調味料収集も落ち着いて、「これはどんな料理に使えるだろう。1ヶ月で何回使えるだろう」とよく考えてから買うようになった。新しいものばかりに手を出すのではなく、気に入った調味料をリピートすることも増えた。
たとえば、お酢だったら「千鳥酢」。みりんは「三州三河みりん」。七味唐辛子は「八幡屋礒五郎」のもので、ごま油は加熱用が「九鬼 純正胡麻油 こいくち」、非加熱用(卵かけごはんなどに使う)が「今井のごま油」。
でも醤油やオリーブオイルなどは、未だに一つに決めきれず、ジプシーを続けていたりする。
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今回伊勢丹で買ったのは、お醤油(再仕込み醤油と白醤油)、鰹節、粉山椒。
お醤油を選ぶ時は、いつも「杉樽(木桶)仕込」と書いてあるものにしている。微生物、自然の力を借りて伝統的な製法を続けていらっしゃる作り手さんを応援したいな、と思う。木桶を作る職人さんも、今はほぼいらっしゃらないという記事を以前読んだ。一人の消費者としてできることはあまりに少ないけれど、それでも、そうした背景を踏まえて、意思を持って食べるものを選びたい。
今回は、香川県小豆島の再仕込み醤油を買ってみた。塩水ではなく濃口醤油を仕込み水に使って作ることで、より旨味が強くなるという再仕込み醤油。美味しいお野菜とこのお醤油があれば、シンプルな炒めものでも充分ご馳走になりそう。
醤油蔵の見学に行ったりしながら、いつか「これを我が家の一本にするぞ!」という、そんなお醤油に巡り会えたらな、って思う。
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ヤマシンの白醤油は、以前友人から結婚祝いにもらったもの。これは、卵かけごはんに欠かせない。欠かせないのに、使い切ってからずっと買い足せていなくて、卵かけごはんを食べる度に少し憂鬱になっていたのだった。
白醤油は愛知県発祥のお醤油で、大豆と比べて小麦の割合が非常に高い(ヤマシン醸造の場合は、小麦:大豆が9:1とのこと)。これにより、濃口醤油より甘みが強くなっている。
白醤油独特の旨味や風味が、とにかく卵かけごはんに合う(何度も言うようだけど)。色も薄くて見た目がきれいに仕上がるし、卵かけごはんがお好きな方には、ぜひヤマシンの白醤油、試してみていただきたい。
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粉山椒は、やげん堀のものを。親子丼を作った時に、家に粉山椒がないことに気付くと卒倒しそうになる。粉山椒と七味があってこその親子丼なのだ。
鰹節はどれを選べばいいのかまだ方針が定まっていない。とりあえず、一番安くもなく、一番高くもないものを、という行動経済学の教科書に載っていそうな選び方をしている。それでも、新しい鰹節はなんだかうきうきする。お出汁の香りで家中を満たしたい。そしていつか、鰹節削り器を買って、お家ですりすりしたいな。