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【バイオリン留学】18歳でドイツの音大に留学した私の体験談


今回は、私自身の体験をもとに、どのようにしてドイツの音楽大学に留学したのか、そのきっかけや経緯などをお話しし、これからドイツの音楽大学への留学を目指す方へのアドバイスをお伝えしたいと思います。


ドイツの音大にバイオリン留学した理由・きっかけ


私がドイツの音楽大学へ留学を決意したのは、12歳のときに参加した『国際オホーツク音楽セミナー』で、キャパス・ゲザ先生と出会ったことがきっかけです。この時から、心のどこかでドイツ留学を志すようになりました。


高校生になった私は、まずは日本の音楽大学に進学することを目標に、入試の準備を進めていました。しかし、その頃、拒食症という心の病に悩まされ、さらに音大の入試本番では演奏中にバイオリンの弦が切れるという予期せぬトラブルにも見舞われました。この不運な出来事が重なり、私は日本の音楽大学への進学を断念せざるを得なくなりました。


進路が決まらない焦りと不安を抱える中、私はどうしても状況を打開したいと考え、思い切ってキャパス・ゲザ先生に直接メールを送りました。この時の突拍子もない行動がきっかけとなり、高校卒業後に単身ドイツへ渡ることを決意しました。

ゲザ先生と私(高校2年の頃)
アーヘンでレッスンを受け、
当時の私は先生に
「日本の音大を経て、
ドイツの音大に編入したい」
と話してました。


しかし、ドイツに渡ることを決意したものの、音楽大学への進学が決まったわけではありません。当時、演奏学科を志望していた私は、ドイツ中の音楽大学に出願し、数多くの入試を受けましたが、合格したのはハンブルクの音楽大学の教育学部のみでした。希望していた演奏学科ではなく、楽器を専門的に教える教員を養成する学部への入学となりました。


これが私がドイツの音大にバイオリン留学した一連の流れです。


私の幼少期のエピソードやキャパス・ゲザ先生との出会いについては、こちらのページで紹介していますので、ご興味のある方はチェックしてみてください。

ドイツの音大へ入学する方法

受験資格



ドイツの音楽大学に入学するには、日本の高校を卒業していることが条件(受験資格)となります。公立・私立を問わず、また学科の種類にも制限はありません。ただし、注意すべき点として、ドイツの音楽大学には年齢制限が設けられている場合があります。



たとえば、4年制の音大の入試に申し込む際、申込時点で25歳を過ぎていると、申込みが受理されないことがあります。とはいえ、学科によっては例外もあり、ポップミュージックや古楽、音楽理論、作曲などの分野では、年齢制限がない場合もあります。



なお、受験時に必ずしもドイツに住んでいる必要はなく、日本に住んでいても受験資格はあります。実際、私が高校卒業後にまだドイツに渡っていない段階でドイツの音大を受験した際、日本の住所を使用して問題なく受験できました。試験結果も日本の住所宛に届きましたので、私のように音大への進学が決まる前にドイツに渡る必要はありません。

受験方法



私がドイツの音大の入試を受けた2007年から2009年は、まだオンラインでの申込みが主流ではなく、希望する音大のホームページから申込要項をダウンロードして、印刷、そして必要書類を揃えて、ドイツまで郵送する必要がありました。

当時、4年生バチェラーの演奏学科のバイオリン専攻を受験した時に必要だった申込み書類は、全部で5つありました。

1. 自筆の履歴書
2. 高校卒業証明書
3. ドイツ語のスピーキングレベルを証明する書類
4. 入試時の演奏プログラム
5. 受験料の領収書

それぞれの書類について解説します。

1. 自筆の履歴書



1つ目の書類は、「自筆の履歴書」です。履歴書には、高校生までの学歴の他に、参加したコンクールやこれまでのバイオリンに関する活動履歴などを、すべて書きました。ただし、受験する音大によっては、履歴書の内容を証明する書類や顔写真を添付しなければいけないケースもあります。

2. 高校卒業証明書



2つ目の書類は、「高校卒業証明書」です。私は卒業した高校にお願いして、英語に翻訳した証明書を作成してもらいました。ただし、音大によっては、ドイツ語の証明書が必要になるケースもあります。

余談ですが、
卒業した高校の制服を
いまだに持っています笑

3. ドイツ語のスピーキングレベルを証明する書類



3つ目の書類は、「ドイツ語のスピーキングレベルを証明する書類」です。ドイツの音大ですので、当然ドイツ語が必須になります。少なくとも、入試時点において日常会話レベル (B1) のドイツ語は必要になります。

入試当時に提出していた
B1の証明書


4. 入学時の演奏プログラム



4つ目の書類は、「入試時の演奏プログラム」です。これについては後ほどお話しますが、申込み時に入試で演奏する曲を、前もって伝える必要があります。

5. 受験料の領収書



5つ目の書類は、「受験料の領収書」です。現在、ドイツの音大の受験料は50ユーロほどかかります。ちなみに、私が受験した頃は確か30ユーロほどだったため、だいぶ値上がりしていますね。為替の影響も考慮すると、私が受験した頃の約2倍の受験料が必要になります。ちなみに領収書は、銀行から発行される支払い証明の紙を印刷したものを郵送しました。

以上、上記5つの書類が必要でした。ただし、現在はオンライン申込みが主流のため、郵送必須対象になっている書類も減っているかもしれません。


詳細については、受験を希望する各音大のホームページで確認してみてください。

試験内容



試験内容は、音大によって異なるため、入試を受ける音大の試験内容をご自身でチェックしておく必要があります。たとえば、ドイツの音大では、時代別《バロック•クラシック•ロマン派•近代-現代》に必要な表現・歌い方ができているかを試験官は見ているため、用意しなければいけない曲目は非常に多いです。

具体的に、私が受験した時の試験内容について紹介します。


まず、ヨハン・セバスチャン・バッハの「無伴奏ソナタとパルティータ」から、ゆっくりした楽章と速い楽章を、それぞれ1つずつ選びました。卒業試験にも必ずといって良いほど、弾かれる機会の多い作品です。



そして、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトのヴァイオリン協奏曲から第1楽章と、その終わりに出てくる「カデンツァ」を選びました。


カデンツァとは、楽章の終わりに演奏されるパッセージのことで、自身の演奏レベルやテクニックをアピールすることができる重要なパートです。



また、先ほどお話ししたように、バロック、クラシック、ロマン派、近代、現代の各時代を、バランスよく取り入れる必要があります。そのため、重複しない時代の協奏曲、または異なる作曲家による協奏曲から、第1楽章または代表的な楽章を選ぶ必要があります。ここは少し専門的な内容になるため、もし質問があれば遠慮なくお問い合わせいただければ幸いです。



さらに上記の演奏に加えて、音楽理論、副科ピアノ、聴音の試験が行われます。また、ある音楽大学では、外国人の受験者に対してドイツ語の試験が課されることもあります。実際、私もドイツ語の作文を約1時間半かけて書いて提出しました。



また、受験の流れは大学によってさまざまで、例えば、まずバイオリンの試験を行い、それに合格した人だけが音楽理論や副科ピアノなど、比較的重要度の低い科目の試験を受けるという形式もあります。一方で、私が受験したドレスデンの音楽大学では、すべての試験を1日で行うシステムが採用されていました。



以上が、2007年から2009年の時期に私が受験したドイツの音大の試験内容になります。15年近くもまえの記憶からで、一部不明瞭なところもありますが、参考にしていただければと思います。

ドイツ音大時代の体験談

入学式



ドイツの音大には、4月スタートの夏学期と10月スタートの冬学期があり、それぞれの学期が始まる月に、入学式が行われます。入学式は音大が開催するコンサートと一緒に行われます。



ドイツに渡った当初はアーヘンに住んでいましたが、ハンブルクの音楽大学に合格した後、ハンブルクのアパート探しを始めました。実際、家探しは非常に困難で、引っ越しの忙しさも重なり、入学式には参加できませんでした。

ハンブルク中央駅。
引っ越しは業者を使わず
電車で運んだので
大変でした💦


レッスン・講義


私が入学したバイオリン講師を養成する教育学部では、履修しなければいけない講義がたくさんありました。

実技科目
・バイオリンレッスン
・オーケストラ
・副科ピアノ
・室内楽

その他の科目
・一般音楽教育学
・バイオリン理論・指導法
・バイオリン作品史
・指揮法
・音楽理論・聴音
・音楽作品分析
・総譜学
・合唱


以上の科目は履修必須で、上記以外にも以下のような講義を受講していました。

・卒業論文の書き方を学ぶ講義
・ドイツで音楽関連の職に就くために必要な制度(芸術家のみが加入できる保険団体など)に  ついて学ぶ講義
・一人の作曲家に焦点を当てた音楽学
・バロック時代の作品の演奏装飾法
・24回分の聴講
(内訳:
*バイオリン初心者レッスン8回
*バイオリン上級者レッスン8回
*バイオリン以外の楽器レッスン4回
*子供グループレッスン4回)
・音楽学校に勤務する先生の監修のもとで行う公開バイオリンレッスン10回


特に、入学後の最初の3年間は、履修科目が集中していて提出課題も多かったため、進級に必要な中間試験にも必ず合格しなければならず、その結果、4年間日本に帰国する余裕すらありませんでした。

キャンパスライフ



授業や課題、そして中間・卒業試験に追われていた私は、アルバイトをする時間すらなく、華やかなキャンパスライフとは程遠い学生生活を送っていました。それでも、大学3年生になる頃には、ようやく週に1人だけのプライベートバイオリンレッスンの仕事を始めることができました。



また、ドイツ留学のきっかけを与えてくださったゲザ先生に師事したいという思いから、毎月片道5時間半をかけてハンブルクとアーヘン間を電車で往復し、月に4時間のプライベートレッスンを受けていました。

ハンブルクーケルン間で
インターシティ(IC)に乗り
そこから普通列車(RB)で
アーヘンに向かっていました




その結果、ハンブルク音大で学ぶ曲とゲザ先生のレッスンで学ぶ曲、つまり常に2倍のバイオリンレパートリーを抱え、それに合わせた練習時間も必要となり、まさにバイオリン漬けの学生生活を送ることになりました。



体力的にも非常に厳しく、20代であっても多くのストレスを感じましたが、ゲザ先生や音大での講義を通じて、バイオリンの演奏能力や指導力を身につけることができたおかげで、現在ではハンブルク公立音楽学校の常勤講師として働くことができています。



現在も音楽学校で週25時間のバイオリンレッスンを行いながら、週末には自主開催のコンサートやオーケストラでの演奏、さらにはバイオリンの代行レッスンも行い、卒業後も「音楽(バイオリン)が日常にある生活」を続けています。 

音大でもドイツ語は必須



当然のことながら、ドイツ語ができないと進級はもちろん、ドイツでの日常生活もままならなくなるため、音大進学前にドイツ語の勉強を始めておくことを、強くおすすめします。


ここでは、私がどのようにドイツ語を学んできたかをお話ししたいと思います。



まず、高校を卒業した後、ドイツに渡る前に東京にあるゲーテ・インスティトゥートという語学学校に、3か月ほど通っていました。ゲーテ・インスティトゥートは、ドイツ政府が設立した公的な国際文化交流機関で、非常にレベルの高い授業が行われていましたが、授業が終わると日常生活のほとんどが日本での時間となるため、東京で語学学校に通うだけで、ドイツ語を習得することは簡単ではありませんでした。




その後、語学ビザを取得してドイツの語学学校に通ったり、ハンブルクではベルリッツという語学学校で、個人レッスンを受けたりしていました。また、TestDaFやゲーテのドイツ語試験など、さまざまな試験の準備コースにも、参加しました。



現在は仕事をしているため、仕事の前後に自主的にドイツ語を勉強することが多いです。ただし、ハンブルク公立音楽学校では、レッスンだけでなく、年間30時間の研修や試験の審査員会議への出席、年に一度の保護者面談、オープンスクールスタッフなど、語学力を常に鍛える環境が整っています。そのため、現在の職場にいることで自分のドイツ語力が常に向上していると感じています。



さらに、少しずつでも語学の勉強を続けることで、普段のメール作成や連絡時に辞書を引く時間が短縮されるなどのメリットも、感じています。


今後も無理のない範囲で、仕事を続けながら勉強を積み重ねていきたいと考えています。

【Q&A】ドイツの音大に留学を考えている高校生にアドバイス



最後に、最近ドイツの音大に留学を考えている高校生の方からいただいた質問に、答えていきたいと思います。

質問①:日本の音楽大学や他の4年制大学を卒業した後に、ドイツの音楽大学に入学することは可能でしょうか?



もちろん可能です。ただし、卒業した大学が音楽大学でない場合(例えば、文学部など)、在籍年数は認められず、ドイツの音楽大学では1年生からのスタートになります。

質問②:先生を見つけるにはどうしたらいいのでしょうか?



自分の経験からアドバイスさせていただくと、音大ホームページに載っている先生の連絡先に直接電話し、フォアシュピール(先生に演奏をきいていただき、音大入学できるか、空き学生籍があるか、その場でたずねる機会)にいくのが良いと思います。

ただし、ドイツでは、仕事内容のメールであっても読まれない(チェックされない)ことが多いため、電話でアポイントを取る方が良いかもしれません。実際、私もメールを送っていましたが、返信がなかったため、電話でアポイントを取るようにしていました。


もし電話でもアポイントが不安な場合は、興味のある先生が出演するコンサート情報などをチェックして、実際に足を運んで直接会いに行くのもありだと思います。もしくは、その先生に師事している、現役の学生を探して相談するのもOKだと思います。


私の場合、セミナーで知り合い、師事したいと思っていた先生がドイツの音楽大学で働いていたことから、ドイツに留学することを決めました。ただ、ハンブルク音楽大学で実際に師事することになった先生 (ピーター•ハイドリッヒ先生)とは、入学前にコンタクトがなかったため、入学と同時に新たに師事する形になりました。


ハイドリッヒ先生夫妻と私。
一緒に共演した彼女(左)も
私と同じく彼に師事していました。
コンサートに駆けつけてくれ、
喜ぶ私たち😊


最終的に私は2人の先生に師事しながら、学生生活が送れたので、忙しくも学びが多い、有意義な学生生活になりました。

質問③:ドイツでは大学の練習室を使えますか?



もちろん可能です。ただし、練習室の利用には予約制を採用している大学が多いです。現在私が働いているハンブルク公立音楽学校でも、練習室の使用は予約制です。

ハンブルク公立音楽学校の練習室。
窓から隣接する教会がうつってます😊

質問④:ドイツの生活で1番苦労したことはなんですか?



私事ではありますが、拒食症という心の病を克服することが、何よりも大変でした。当時の私は、「日本で病気になったのだから、ドイツに行けば治る!」と考えていました。そのため、日本に戻りたくないという思いから、当時持っていた1年有効の語学ビザが切れる前に、どこかの音楽大学に合格し、学生ビザを取得する必要がありました。



ドイツでは、希望する音楽大学や学部、専攻楽器の受験が2回までと制限されており、日本のように何度も浪人することができません。



実際にドイツに住み始めると、さまざまな場所で体調が良くなるきっかけを見つけ始めました。健康を取り戻し、バイオリンを学びたいという強い願いを持っていた私にとって、ドイツの音楽大学受験期間は非常にハードなものでした。



拒食症が治るまでの体験談については、こちらの記事に綴らせていただきました。興味があれば、ぜひご覧ください。

質問⑤:ドイツの音大には学生寮はありますか?



ドイツの音大には学生寮があります。私は学生寮を利用しなかったのですが、友人が寮生活を送っており、様々なタイプの学生寮があり(例えばグランドピアノ付きの簡単な音楽ホールが設備など)、遊びに行くのがとても楽しかったです。

質問⑥:ドイツの音大に入学する前に日本でやっておけば良かったと思うことはありますか?



特に思い当たることはありませんが、音楽活動や音楽を職業にすることについて、もっと事前に知ることができれば...と感じています。高校卒業後すぐにドイツに渡ったため、音楽で生計を立てる手段やコンタクトが弱く、自分が日本で音楽業を通して、経済生活を送れる姿を、全くイメージができていませんでした。



現在、ドイツで音楽に関わる仕事をしている私は、ドイツ人のように休暇の日にはプライベートを大切にする習慣を取り入れています。春夏秋冬の長期休暇中には、仕事よりも心に残る体験に時間を費やすことを心がけています。


旅行や人との楽しい食事や会話、読書、そして少しだけプライベートレッスン(バイオリン)などです。

長期休みは自然に触れて
次の仕事再開に向けて
パワーチャージ😇💪


ドイツでは仕事漬けの毎日🇩🇪
だからこそ
日本ではプライベートを大事に😌



また、心の病気の完治が難しかったことから、できればそのような病気にかからない人生を送っていたら…と思うこともあります。



しかし、その病気がきっかけでドイツに渡ることになり、今の自分がいるのだと思います。


たとえ現在の状況が良くなくても、それが後に良い結果をもたらすかもしれないと信じて、一日一日を大切に生きることが重要だと感じています。

以上、参考にしていただければ幸いです!

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最後までご覧いただきありがとうございました!

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