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すけさんの焼きうどん
傷ついて空っぽ冬の夜に、冷たい重たい身体を起こしてすけさんに来た。もちろんひとり。むしろ人と行ったことなどほとんどない。
丸一日なにも食べなかったので、さすがに体調が悪い。
自分のために白滝をふたつ、焼きうどんと。好きなものを好きなだけ食べれば、元気になれる。そういう体に生まれた。
ぬるいつゆにほんの少しのからしを溶かして白滝を平らげる。からしで薄く濁ったつゆも飲み干した。
焼きうどんが来るまでは傷心の原因を忘れるために犬のショート動画を見た。偶然にもハートブレイクなサタデーナイトで救いようがない。笑えない。
思ったとおりの、いつもの焼きうどんがじゅーじゅーやってきた。半熟の目玉を麺の上で壊す。ぷつんと、というやつ。
どうせ壊れるんだったら早いほうがいいもんね。なんてことを考えて箸で壊した。
ああ卑屈。とろける黄身を見ていたら涙も一緒にこぼれて驚いた。すけさんで泣くのは初めて。
今日のわたしには、この焼きうどんだけがわたしの味方でいてくれるように思ってしまう。焼いただけのうどん風情にうっかり涙を見せてしまった。ただ、咀嚼して飲み込む。味は覚えていない。いつも通りだったと思う。
うどんには心ひらけども、カウンター横のお兄さんにはこんな私を見られるわけにはいかなかった。私にだって守るべきプライドがある。嗚咽しつつも息を殺して、食べた。
最後まで熱い鉄板の上で待ち続けて焦げてしまった豚肉と野菜が自分と重なった。また、咀嚼して飲み込む。黒くて苦い。こいつらを残さず食べることが自分への優しさだった。鉄板はもう冷めていた。
から揚げトッピングしちゃった。あなたにこっそり教える。呆れ顔をするかなぁ。これから、そんな楽しみをいくつも、諦める。
ひとりで焼きうどんを食べた。
遠まわりして帰る。