for serendipity1058 「草によろしう言うてくださいませ」
田中優子さんの『苦海・浄土・日本-石牟礼道子 もだえ神の精神』(2020)より。たしか宇根豊さんの本だったと思うのですが、石牟礼道子さんが「草に伝言」する人について書かれていて、驚いたことがあります。以来、それは僕を形成する忘れられない話となりました。田中優子さんと石牟礼道子さんの対話集でもある『苦海・浄土・日本』にもそのことが触れてあります。
田中 麦にも草にも、ものを言うのですね。
石牟礼 (中略)母が病気になって畑に行かれないとき、寄ってくれた近所の人が、「きょうは畑に行きますばってん、ハルノさん、なにか言伝(ことづて)はありませんか」って聞くんです。すると母は病床から、「草によろしう言うてくださいませ」って返事するんです。母の言伝を預かったその人は、草によろしう言いに行かなければならない。日頃から、よろしう言わなければならないものが、身の回りにたくさんある。そいうものたちで世界は成り立っていると思いこんでいたし、今もそう思っています。(54ー55p)