「新概念創出力」ということばと新しい人生と
●21世紀の2大問題
大学まで何も考えずに生きてきたが、フェリシモという会社に入った1年目、「2つの難問」に出会った。時は平成の世が始まった、まさにその年のことだ。
難問の1つは「地球環境問題」だ。当時は都市部に住むサラリーマンだったのだが、環境、食、農業、暮らし方など、持続可能性について考えるようになる。もう1つは「天職問題」と呼んでいるのだが、どう生きるか、どう生きれば納得いく人生になるのか、という問題だ。小4のとき、母が病気で42歳という年齢で亡くなったことも大きかったのかもしれない。
環境問題と天職問題。20代のときにぶち当たったこの2つの難問を僕は「21世紀の2大問題」と呼んできた。いま若い世代に尋ねても、きっとそれは変わらず難問だろう。
●新概念創出力との出会い
2つの難問時代をどう生きたらいいのか。そんなことを考えるようになったある日、「新概念創出力」という言葉に僕は出会うことになる。入社2年目ころ、それは企業人材教育系の雑誌にあったことばだ。
「新概念創出力(ニューコンセプトを創る力)」。それはなんだかとても大事な力である気がして、以来、方向性を示す言葉(概念=コンセプト、キーワードなど)に関心を持つようになる。
いつか自分でも作れたらと思うようになった1993~94年ころ、「半農半X」(エックス=天職)というコンセプトが生まれた。「半農半X」とは簡単に言うと、持続可能な農ある小さな暮らしをベースに、天与の才(X)を世に活かす生き方だ。
おかげさまで半農半Xは2003年、日経新聞で紹介され、それを見た出版社が本にしようと声をかけてくれ、無名の者が書いた本『半農半Xという生き方』が同2003年に出版され、多くの人の目にとまるようになった。台湾の若い女性によって「これは台湾の人に読んでもらいたい」と台湾の出版社にもたらされ、『半農半X的生活』と題され、中国語訳された。それが中国大陸にもたらされ、うれしいことに韓国語やベトナム語にもなっていく。英語本はまだないが、アメリカ人がおこなっている環境系のポッドキャストにゲスト出演すると、聞いてくれたカナダの若い世代が「英訳したい」といま英訳中だ。
●次のコンセプト、考えてる?
いまという時代なら、「コンセプト」ということばは小学生だって使うことばだ。AIが何でも創ってしまう時代なので、それなりのコンセプトも創ることはできるだろう。でも、新概念創出力はこれからも重要な力ではないかと思っている。
以前、つれあいから「半農半Xもいずれ当たり前の世になるよ。次のコンセプト、考えてる?」と問われ、ドキッとした。そんなプレッシャーもあり、日々、グッドコンセプトをメモし続けている。僕の熱源は何か。それは先駆的な言葉に学びつつ、ビジョンを失ったようなこの国、この世界に新概念を提示できたらと思っているからだ。人生を振り返ってみると、僕は「新概念創出力」ということばによって、自分のエネルギーを注力する方向性を得ることができた。「想像していなかった未来」への行き方を尋ねられたら、僕なら自分だけのコンセプトをつくろうと言うだろう。
(2024年11月27日/半農半X研究所 塩見直紀)