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キミの形

私は環境に恵まれていて幸せに生きていると思う。
でも心にはぽっかりと穴が開いている、と思う。
その穴は、定まった形はなくてぐにゃぐにゃしている。

高校生になるまで恋愛とは縁がなかった。
正しく言えば、縁がなかったわけではなくみんなが言う友達への“好き”と違う“好き”がわからなかった。
でも今は違う。幼稚園からの幼馴染だった奏人のことが好きだと気が付いた。
奏人は、家も近くてよく一緒に遊んだ。
私のことをいじめてくるけど本当は優しくて私が辛いときにはずっと一緒にいてくれる。
今は友達の“好き”と違う“好き”を持っているのがわかった。

高校二年生の夏、私のお母さんの不倫がきっかけで両親が離婚してお父さんと二人ぼっちになった。
お父さんは私へ当たることが多くなった。
元々お母さんっ子だった私は毎日が辛くて苦しかった。
そんな時、奏人は何も聞かずに、何も言わずに私を外に連れ出してくれた。
毎日奏人と散歩することが日課になっていた。
散歩を始めてから二週間がたったある日、奏人から告白された。
両親のことがあったから、奏人のことは好きだけど誰とも付き合わないと決めていた。
でも、奏人は絶対に私だけを好きでいると言ってくれた。
私は、奏人を信じることにした。

高校二年生の冬、奏人に用事があってクリスマスは一緒に過ごすことはできなかった。
でも、毎日電話したり遊んだり仲良く過ごしていた。
奏人と付き合って一年が経った、高校三年の冬。
受験もあり、学校以外で話すことも少なくなっていった。
でも、私は奏人のことが好きだし、奏人も私を好きだと言ってくれた。

高校三年の冬、奏人と大学が離れることになった。
1000㎞以上の遠距離恋愛だ。
でも、奏人も私も好き同士だから乗り越えられると信じていた。

大学一年生の春、拓海くんと出会った。
拓海くんは同じサークルの先輩でわからないことをいろいろ教えてくれる。
奏人とは遠距離ですれ違うことが多く喧嘩も増え、話すことも少なくなっていた。
拓海くんは私に彼氏がいることを知って、いつも距離をとって接してくれる。
でも、拓海くんは私の中で大切な人へと変わっていってしまった。
私は拓海くんと話すのが好きでよく一緒にいた。
拓海くんは私以外とは距離を置いていた。
だから、特別だと感じてしまった。
このまま奏人と付き合い続けるのは奏人に失礼だと思って、奏人に別れる電話をした。

奏人はもう私に冷めていると思っていた。
でも、最後まで私を好きだと言ってくれた。
もう付き合い続けられない。
私の心は奏人のところにはないのだから。

大学一年生の夏、拓海くんに告白された。
拓海くんはとても優しくて、欲しい言葉をたくさんくれた。
たくさんの時間とたくさんの愛もくれた。
喧嘩もなく幸せな日々を過ごしていった。
ずっとこの人と一緒にいたいと思った。

私の心の穴は奏人の形になっていて、その形は奏人と別れても元に戻ることはなくて、拓海くんがいくら埋めてくれてもそれは拓海くんの形で、ぽっかりと空いた穴はもうきっと二度と埋まることはない。

拓海くんと付き合って4年後が経った。
心の穴は溶けて拓海くんの形になった。

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