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No NAME

僕は暗い街灯が照らす道を一人歩いていた。
チカチカと光る街灯が点々と置いてある道を彷徨っている。
見知らぬ建物、見知らぬ公園が存在した。
かろうじて僕が僕であることだけは分かった。
佐々木朔夜(ささきさくや)、24歳。去年大学を卒業し、今年から社会人1年生だ。
僕は昔から、眼が良かった。

僕は見知らぬ公園に入った。
木で造られたブランコに腰かけてみた。
グラグラと揺れ大変座り心地が悪かった。
しかし、次第にその不安定さを気に入った。
ここで少し、足を休めよう。

ぼんやりと空を眺めていると、僕の友人という男が隣に座った。
彼はひとりでに話し始めた。
松本悠平(まつもとゆうへい)、24歳。僕と同じ大学を出ていて、広告代理店の仕事をしているらしい。
彼は僕と仲良しだったと言うが、僕はこの人のことを知らない。

僕は空を見ていた。
月明りに照らされて、雲が速く動いているのが見えた。
それは僕を寒く思わせるものと同じだと感じた。
生い茂る草も眼に見えない『何か』に揺らされているようだった。

僕は何かを忘れたようだ。大切なものを失ったような感覚に陥った。
なぜ僕は覚えていないのだろうか。
こんなにも僕にたのしそうに話してくれる彼のことを。

彼は言った。
君は記憶喪失なのだ、と。

隣の彼が急に質問してきた。
「今日は風が強いな」
かぜとは不可視な、肌に触れる何かのことのようだ。
「恋とは何だと思う」
不可視な、僕や彼とは違う特徴を持つ者との間に生まれる何かのことのようだ。
「愛とは何だと思う」
不可視な、力の源のような何かのことのようだ。
「感情とは何だと思う」
不可視な、僕や彼が持つ何かのことのようだ。
「俺は誰だ。」
可視することができる、僕の…

僕は何も知らない。

彼は黙り込む僕を見て途端に手を叩き、下品な笑い声を上げ、ブランコから降り、僕の前に来た。
「お前は、『眼』に頼りすぎた。眼に見えるモノだけを認識していった結果、眼に見えているモノすら忘れてしまったではないか」
彼の言っていることが理解できなかった。
そのままの意味で、『理解』するには彼が発する何かを知らな過ぎた。
「これは傑作だ」
彼は僕の座っている何かの金属のような何かを掴み、僕の正面に立った。
それはガシャンと大きな何かを出していた。
「お前は誰だ」

僕は、××だ。

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