産業廃棄物のお姫様 あやめ外伝 吉澤家での暮らし 1
午前中に架空東海地区に新幹線に乗って行ったはずのあやめ。夕方には架空東海地区から架空都市部に向かう新幹線に彩菜と2人で乗っている。義母以外のあの場にいた全員想定外の事が起きたので仕方がない。
まともに話も出来ない状態だったので帰ってから義母が介入出来ない通話かパソコンのメールでやり取りするしかないなと彩菜は思った。
「お母さん…あたし…何処に行っても要らない子なのかな…。」
あやめがぽつんと呟いた。
『何言ってるの?私が龍一と蓮二とあやめちゃんのお母さんになってあげるから何も心配しないで。この世に要らない子なんて何処にもいないわ。あやめちゃんのことは私が責任を持って大切に育ててみせるわ。』
彩菜はあやめをぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう…お母さん…」
あやめはまた泣いてしまった。おばあさんが怖かったので緊張の糸が解れた。
そして母がこんなに頼りがあって暖かい存在なんだと初めて知った。
「あのおばあさん怖かった…」
『あんなのに【お】も【さん】もつける必要ないわ!【ババア】で十分よ!』
「ババア…うん。そうだね!」
あやめは少し笑った。
『ちょっと口が悪いけどね!いいのいいの!どうせ聞こえてないんだし!あやめちゃんは今日からずっとウチに住むんだから本当のお母さんだと思って接してくれればいいからね!困ったらなんでも相談するのよ!』
力いっぱい抱きしめる彩菜。あやめはその大きな胸に身を委ねた。
「…お母さん…電話した時リュウ何か言ってた?」
『何も言ってなかったけどあやめちゃんが泣いてたから心配で着いて来るって言うから連れて行くと話がややこしくなるから裏拳で黙らせといたらうずくまってたわ。それよりあやめちゃんはあのババアのせいでウチで面倒見る事になったけど四ノ宮さんに縁を切られたとか捨てられた訳じゃないのよ。そのことは心配しなくていいからね。』
「せっかくパパの家に行けたのに結局麗華さんにも妹にも会えなかったなぁ…」
楽しみにして来たのにとんでもない目に遭った。結局裕二とババアにしか会っていない。
しばらくしたらあやめは泣き疲れて寝ていた。予想外の事が起きてずっと泣いていたのだ。そりゃ疲れもするだろう。
架空都市部に着いたので彩菜が起こす。
あやめは眠気まなこのままタクシーに乗って吉澤邸に戻って来た。
外はすっかり夜になっていた。
彩菜が玄関を開けるや否や龍一が大きな声で話しかける。
『あやめ!何があったんだよ!』
と言って飛んで出て来たがあやめはまだ半分寝ている状態だったのでフラフラしていた。
『しー!』
彩菜が龍一に注意した。
彩菜はヨタヨタしているあやめを部屋まで連れて行ってベッドに寝かせてからリビングに戻って龍一に今日の話をした。
『何だよそのババア!あっちに住むことにならなくて良かったよ!母さんの得意な裏拳かましてやればよかったのに!』
龍一は怒っている。
『ババアに裏拳かまして怪我でもされたらますます何言われるかわからないわよ!こんな事になったからこれからあやめちゃんはウチで面倒見る事になったし中学にも通ってもらわなきゃ。』
これから色々準備しなければいけないので平日はしばらく忙しくなりそうだ。
『あやめ…学校に行くんだ…』
龍一がポツリとこぼす。
『当たり前でしょ!いくら義務教育だからって言っても理由もないのに全く学校に行かないのはおかしいでしょう?勉強なんて出来なくてもいいから小さな社会勉強を知ることが大切なんだから。月曜日から準備しないといけないから忙しくなりそうだわ。流石の私も今日は疲れたわ〜。これからお風呂に入ってもう寝るわ。あやめちゃんも今日はもう起きないと思うから起こすような事しないであげてよね!わかった!?』
彩菜は龍一が電話したり邪魔をしないように釘をさした。
『え…ちょっとはあやめと喋りたかったのに…』
龍一は残念そうな声で呟いた。
『締め技でもかけられたいの?これから毎日居るんだから話がしたいなら明日でいいでしょ?あ、そうそう!明日の午前中ゲーム機買って来て欲しいの!…プレストVT?とか言うヤツ!四ノ宮さんがあやめちゃんに用意してたのにババアが踏んでぐちゃぐちゃにしてたのよ!そんな壊れた物渡せないからこっちで買うって言ったのよ。アンタでも蓮二でもいいから買って来て欲しいの。ゲームのソフトもいるだろうし5万位あれば足りるかしら?あのババアのせいで今日は散々だわ!人の気持ちまで平気で踏み躙る事を出来るなんてどうかしてるわ!相手は子供なのに!』
彩菜はゲームの事など全くわからないのでとりあえず龍一に5万円渡した。
『…あやめが何したって言うんだよ!酷ぇ…可哀想だよ。俺、明日の午前中ゲーム買いに行って来るよ。』
『お願いね。』
一日で架空都市部と架空東海地区を往復だけでも疲れるのに怒りでいっぱいだったから余計に疲れが増した彩菜。もうフラフラだ。
それぞれが色んな思いで寝て時間が経ち朝が来た。
あやめは夜中に目が覚めてシャワーを浴びてパジャマに着替えて二度寝した。朝また目覚めて部屋に置いてあった菓子パンを食べて家着に着替えて三度寝に入ろうとしていた。
昨日はとんでもないことが起きてしまったけど彩菜の勢いと優しさであやめは救われた。
トゥルルル…
内線電話がかかって来た。
吉澤家は広いので家族とのやり取りを内線電話で行う。
「はい…」
あやめはまだぼんやりしていた。
『あやめちゃん?ごめんね。寝てた?何か食べた?』
相手は彩菜だった。
「うん…部屋にあった菓子パン食べた…。」
『あ!そうなの!ちゃんと食べたのね!食べてなかったらサンドイッチでも持って行こうかと思ってたけど。起こしてごめんね!』
起きて来ないあやめを気にして電話して来たようだ。
(お母さんってすっごく暖かくて優しくて色んな意味で大きくて抱きしめてもらった時包まれた気分だったなぁ)
あやめは内線を切ってからベッドに戻ってタオルケットを体に纏わせてミノムシのような格好で寝始めた。母に包まれた気持ちになって。
一方で龍一は近くのショッピングモールのおもちゃ売り場に行ってプレストVTのソフトを眺めていた。
(…あやめって何のゲームするのか全然知らねぇ!とりあえず本体だけ買って後で本人連れて来るか…)
龍一はとりあえずプレストVTの本体をプレゼント包装にしてもらって家に持って帰って来た。
家に着いてからとりあえずゲーム本体とメモリーカードは買ったけどあやめの好みのゲームがわからなかったので帰って来た事を話した。
ソフトは彩菜が四ノ宮家に落として帰って来た事にして後で龍一と2人で買いに行けばあやめの好きなソフトが買えていいんじゃないかと龍一は彩菜に提案した。
龍一と彩菜は間違わないように打ち合わせをしてから内線電話であやめにキッチンに来るように伝えた。起きていたらしく直ぐに3階まで上がって来た。
「お母さん…とリュウ?どうしたの?その箱なあに?」
キッチンのテーブルの上にプレゼントの箱があったのであやめが寄ってきた。
『あ、コレね、四ノ宮さんから預かってたのよ。昨日あやめちゃんすぐ寝ちゃったから渡せなくって。』
「パパから?いつの間に?お母さんずっと怒ってたのに?」
意外と行動を見られていたことに驚きながら話を誤魔化す彩菜。
『ほら、あやめちゃん泣いてたから気が付かなかっただけで四ノ宮さんにタクシーに乗る前にそっと渡されたのよ。これをあやめにって。』
タクシーに乗る前に裕二が外に出て来た記憶がないあやめは不思議な感じがしたけど目の前にその渡された物が置いてあるので間違いはないんだろうと思った。
「ホントにあたしのなの?開けてもいいの?」
『そりゃあやめちゃんの物だからね!』
彩菜は嘘が苦手なタイプだったのでサッサと手に渡って欲しいとしか思ってなかった。
あやめは包装紙を丁寧に剥がして箱を見た瞬間
「わぁ!プレストVT!!ウソ!嬉しい!こんなの絶対買えないし持てれないと思ってた!」
とても喜んでいる。やっと笑顔が見れた。
『それがね、私ったらソフトを落として来たみたいで何処にもないのよ…だから龍一と一緒に買いに行ったらいいわ。龍一にお金渡したから。』
嘘が下手なりに頑張った彩菜。
彩菜は2人がゲームソフトを自然に買いに行く流れが出来てホッとしていた。
「うん!今から着替えて来る!」
『じゃあ玄関で待ってる。』
龍一とあやめは近くのショッピングモールのおもちゃ売り場のゲームコーナーに行った。
『なぁ、あやめって何のゲームするの?』
龍一は素朴な疑問を投げた。
「え?何でもするよ!パパがいっぱい持ってたから色んなゲームしてたよ。」
『へぇ〜そうなんだ。で?何買うの?』
「リュウはオンラインでゲームしないの?プレストVTってオンライン出来るよね?豚が猿達とやってるの見たことある。」
『俺はあんまりゲームしないからな。確か蓮二はやってた気がする。』
「リュウはしないんだ…じゃあ1人でプレイするゲームにしよ!」
あやめは気になっていたサスペンス系のアドベンチャーゲームを買う事に決めた。
「ねぇ…お母さんにゲームソフトなんて買ってもらってもいいのかな?」
龍一は一瞬本体の事かと思ってドキっとした。
『本体だけあっても仕方ないし…ソフト落として来たって言ってたしあやめが気になってるソフト買えたんだしいいんじゃないの?』
「んーそっかぁ…じゃあ今度何かお手伝いしてお返ししなきゃね!」
あやめは龍一の顔を見てにっこり笑った。
『前のあやめだったらカツアゲした金を母さんに渡しそうなのに変わったな!』
ニヤニヤしながら話す龍一。
「もう!カツアゲの話はもうしないで!もうすぐ中学校に行くんだから!もう金髪もやめたし不良とは関わらないんだからね!」
龍一の前で髪を払う仕草をする。
『わかってるって!だけど新しい環境に慣れるのかな…あやめって人見知りすんじゃん?また友達がいないって言って変な奴らと…』
「大丈夫だよ!だってあたしにはリュウも蓮二も友達でいてくれるから1人じゃないもん!3人だもん!」
出会った当時のあやめとは全く表情も仕草も変わったなと思う龍一だった。
「ねぇリュウ。森本のおばちゃんに会いに行きたい!あたしおばちゃんの家から架空東海地区に行って帰って来た時からリュウの家に住んでるから挨拶もせずにお別れしたのが気になってて…」
クルッと振り返った時シャンプーのいい香りがしてやっぱりあやめは女の子なんだなと龍一は改めて思った。
『じゃあ帰りにコンビニ寄るか!』
龍一は家に行くよりコンビニに行った方が森本さんに会う確率が高いと思ったので2人でコンビニへと向かっていった。