令和の虎555人目 専用サイトで車椅子ユーザーが気軽に安全に外出できる世界へ レポート
1.動画概要
難病を抱え、車いすでの生活を送る障がい者・簑輪恵利子(52)による「障がい者や高齢者の車椅子での外出の助けになりたい」希望金額200万中、50万円でALL IN。
・今回の虎
矢神サラ(社団法人アジア包括支援センター 代表理事 六本木 GENIEオーナー)
トモハッピー(株式会社カードン 会長 株式会社ハッピー商店 社長)
宮本 聖菜(ecxia株式会社 代表取締役)
桑田龍征(NEW GENERATION GROUP オーナー)
安藤功一郎(GA technologies (Thailand) RENOSY (Thailand) 代表取締役CEO)
・司会
バン仲村(YouTuber 経営者 ケンカバトルロワイアル代表)
・今回のルール
今回の通常の形式とは異なり、ソーシャル版タイガーファンディングとなる。「ALL IN」方式が採用されており、出資者からの支援額が目標金額に到達しなくても、集まった金額を持ち帰ることが可能となる。また、本プランでは希望金額が100万円に設定されていることから、これを超える場合は「EXCEED」として扱われる。この額を超える支援は受け付けられない。
2.動画考察
・志願者の経歴から見るポテンシャル
志願者は2歳になる前に小児喘息を発症し、その後も喘息の発作による入退院を繰り返していた。さらに、幼少期には両親が離婚し、小学校を7度転校するという不安定な環境で育った。このような背景から学業が追いつかず、高校以降への進学は叶わなかった。成人後は結婚し、3人の子どもを出産したが、現在は離婚している。
2018年に大腿骨を骨折。この怪我は完治しなかったため、以降、車椅子に頼る生活となった。その後、熱中症で救急搬送された際、ウェルニッケ脳症(※1)およびコルサコフ症候群(※2)と診断されている。最近では小脳萎縮症(※3)の症状が現れ、現在国の専門機関で検査を受けている。診断当初は話すことも、起き上がることもできない状態だった。リハビリを重ねた結果、一定の改善が見られているものの、働くことは難しい状況にあり、現在は生活保護を受給している。
志願者は「令和の虎」を好み、安藤氏やヒカル氏、DJ社長氏といった個々の出演者について触れるだけでなく、今回出演している他の虎についても言及している。ヒカル氏の家に訪問した回や、サラ氏がタイから帰国した話など、それぞれのエピソードに対する細やかな感想を述べたことで、虎からは好感触を得た。
本収録にあたり、言葉に不自由があるため、介護士歴10年の妹が通訳として同席しているが、志願者は妹に頼ることなく自身の言葉で自己紹介を行った。
※1…ウェルニッケ脳症とは、主に脳の視床下部や小脳の機能が障害され、意識混濁、運動失調、眼球運動障害といった症状が特徴の疾患。
※2…コルサレフ症候群とは、記憶障害が主症状の神経疾患であり、ウェルニッケ脳症の後遺症として発症することが多い。新しい記憶を形成する能力が著しく低下し、過去の記憶にも影響を及ぼすことがある。
※3…小脳萎縮症とは、小脳の神経細胞が減少し、機能が低下する疾患である。小脳は運動やバランスの調整を担うため、歩行障害、言語の滑らかさの低下、ふらつきといった症状が現れる。
・志願内容と、その評価
本プランは「外出先の車椅子ユーザーや高齢者の車椅子ユーザーが安心して外出できるよう、出かける場所の安全性を確認するためのボランティアを募り、その情報を発信するホームページを作る」という内容で、希望出資形態は融資、希望金額は200万円。志願者は、全国各地を訪問して直接ボランティアを募ることを計画しており、資金はその渡航費に充てる。
現在、車椅子利用者向けの情報は発信元が分散しており、一元的に閲覧できるサイトが存在しない。志願者はこの問題に対応するため、全国的にボランティアを募り、車椅子ユーザーが利用できる施設や場所の情報を見やすく整理し提供するプラットフォームを構築することを計画している。
施設の現状としては、車椅子ユーザーが随伴者の助けを必要とする場合が多い。例えば、バリアフリーのマークが掲示されていても、実際には障がい者用エレベーターのボタンの前に階段があるなどの設計上の問題が見られる。このような現状を踏まえ、車椅子ユーザーが安心して施設を利用できるよう、正確で信頼性の高い情報の提供が必要であると志願者は考えている。
志願者は、協力するボランティアを全国的に集めるため、北海道から沖縄まで各地でビラを配布する計画を立てている。ビラ配布の際には、「一緒に協力してください」と直接伝えることで、活動への共感と参加を呼びかけたいと考えている。
本プランは、車椅子ユーザーや高齢者に向けた安全情報を提供する取り組みとして、特に障がい者である志願者自身が主体的に取り組む点で、その社会的意義が高く評価された。しかし、全国規模で展開する計画については、志願者の身体的な状況を考慮し、実現性や持続可能性に課題があると考えられた。このため、計画を段階的に進め、まずは草の根的な活動や地域限定のアプローチから着手することが推奨された。さらに、地方の基盤を持つ政治家や社会的地位のある人々を巻き込むことが、全国展開への近道となり、最終的にプランが目指す規模の拡大を実現する現実的な方法であるとの提案がなされた。
・志願者の人間性
志願者は、車椅子ユーザーが社会で活発に活動できる環境を整えることを目指し、強い熱意をもって行動している。現在の身体状況が維持できるのは10~15年程度と見込んでおり、その間に計画を固め、基盤を構築することで、自らの動ける時間を最大限に活かしたいと考えている。
一方で、志願者の活動には頑固な一面がある。全国規模での展開の難しさや持続可能性について懸念が示され、現実的な方針転換として地域限定での取り組みから始めることが提案された。しかし、志願者は「自分の動ける時間が限られているからこそ、今、全力で行動したい」との考えを強く持ち、自ら直接足を運んで協力を呼びかける姿勢を崩さなかった。
ラストステートメントでは「まずは関東から始め、一定の数値を達成した後に他地域へ展開する」と述べ、計画に現実性を持たせる内容を示した。しかし、志願者の頑固な姿勢は虎に強く印象付けられ、最終ジャッジでも熱意の裏に柔軟性の不足があるとの指摘されるに至った。
志願者からは、自分自身の経験を原動力とし、同じ立場にいる人々を支えたいという思いやりが感じられる。一方で、自分の信念を強く持つがゆえに、周囲の意見や現実的な助言に対して柔軟に対応することが難しい一面も見られる。
・出資する意義、メリット
志願者の提案には社会的意義が認められるが、その計画には現実性や持続可能性の課題があり、ビジネスとしては不向きである。また、志願者が生活保護を受給している状況を考慮すると、融資をしても返済が期待できない可能性が高い。
しかし志願者のような社会的に意義のある活動に取り組む人物を支援することは、自身のブランディングに寄与するというメリットがある。「ソーシャル版TF」のルールに基づき、全額出資に至らなくても少額の支援が可能であるため、それが宣伝費としての価値を持つと判断できる。経営者としての視点を保ちながら、支援を通じて社会貢献と自己ブランディングを両立する選択肢が見出せる点で、出資のメリットがあるものと考えられる。
3.まとめ
志願者は5人の虎からそれぞれ10万円ずつ、合計50万円の融資を獲得した。出資の理由には、活動のための交通費の支援や、志願者への応援の意図が含まれていた。
本プランは、伝え方によっては、旅行を目的とした印象を与える可能性があることも否定できない。また、コルサコフ症候群の特性として、記憶の曖昧さや虚偽記憶(実際に起こっていないことを記憶しているかのように語る現象)が提案内容に影響を与える可能性も考慮する必要がある。このため、提案の背景に誤解や曖昧さが含まれている可能性があることを慎重に見極めるべきである。こうした事情を踏まえると、虎たちが提示した少額の出資は、やはり自己ブランディングを目的とした宣伝費、または寄付に近い意図が含まれていると考えられる。
さらに、同じ生活保護受給者を取り上げた回においても、再生数の差が顕著であることが印象的である。例えば、2024年4月6日に放送された回は約180万再生を記録したのに対し、2024年4月17日の放送回は約16万再生にとどまっている。今回の放送が「ソーシャル版TF」のルールを適用した回であったことから、運営側にとっては番組の社会貢献性と再生数の動向を測るテスト的な意味合いもあったのではないかと考えられる。