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むしゃむしゃモンスター24〜優しくてまずい気の抜けたキャベツ〜

どんどんとおかしくなっていた。
自分でも分かるほどに。

昔から妙に自信家で天真爛漫で楽観的。
それが私だった。
真面目で集中力がずば抜けている。
それも私だった。
ところが、そんなもののカケラもない人間になっていた。
まだ引きずっている失恋のダメージなのか
それともお金に追われる日々のストレスなのか
心が疲弊していた。
3日に一度ほど頑張って仕事に行って、
稼いだお金を狂ったように食べては2日間でゼロにする。
それの繰り返し。
何の為に正社員を一旦やめ、
何の為にこんな仕事をしているのか。
何の為に働いて、なんの為に生きるのか。
この頃から常に寒気との戦いで、
顔は常に青白く、会う人会う人に、
「今日体調悪い?」
と、聞かれた。
悪いといえば悪いけれど、
いつも通りっちゃいつも通りの体。
体温計で何度測っても決まったように35℃を示すけれど、
体感は常に10℃ぐらいだった。
冬ともなれば更に体は冷え、
寝る時は電気座布団が手放せなかった。
見かねた友人達や、何も知らない大人達は、
「ちゃんと食べて、ゆっくり休んで」
そういったが、それが出来ないからこんなに苦しんでるのだ。
そう心の中で言い返す日々だった。

朝になっては、たくさん泣いては、
よし、今から頑張ろうと思うのに、
一口食べ物を口にした瞬間全てが変わってしまう。
止めるボタンのないマシーンのようだった。
日々食べ物に追われ、日々お金に追われ、
人にはいえないストレスを抱え込み、
今までの落ち込み様なんて比べものにならないほどに憂鬱な日々が続いた。
限界だ。
そう思うのに、頑張らなければならないことは次々とやってきて、
壊れて仕舞えば良いのに壊れない体が、
より一層心を追い詰める。
1人の時は泣いてばかりいるのに、
誰かが隣に来た瞬間、笑顔で優しい子に変身する自分が大嫌いで、
でもそんな良い子でいないと、
いよいよ世間から見放されるのではないかと怖かった。

12月になっても治る気配のない体と、
明るくなってくれない心に途方にくれながら帰っていたある日、
遠方に住む友人から電話がかかってきた。
以前からいい感じだった彼と付き合うことになったようで、
意気揚々と話す彼女の話を聞きながら、
なんとなくこれが最後の使命だと思った。
彼女は私の体のことも現状もよく知っていて、
今の心境を話せば、必ず寄り添ってくれるだろう。
けれど、彼女が幸せなまま電話を切りたい。
なんとなくそう思った。
もう声も張れず、小さな声でうんうん、よかったねと彼女の話に相槌を打ち、
1時間ほど話終えた後、
私は涙が止まらなかった。
乗り換えの多い駅で、人も多い。
本来であれば我慢すべきところだけれど、
そんなことまで考えている余裕がなかった。
これ以上頑張れない。
今日が最後だ。
涙を流しながら電車に乗り込み家へ向かった。
最後に両親の顔を見ておこうと心配されないよう化粧を直し、
物を取りに行くふりをして両親の家へ向かった。
そのままさっと帰って死ぬつもりだった。
ところが、さすが母親というものは恐ろしい。
「お邪魔します」
と、ドアを開けた私の顔を見るや否や、
「どうしたの?何があったか言ってみて」
と、駆け寄ってきた。
母が何を察知したのか分からないけれど、
そんな母の言葉に、戻したはずの涙が溢れてきて止まらなかった。
子どものように、うわーと声をあげて泣いた。
何が悲しいのか、何が苦しいのか分からなかった。
それでも苦しくて仕方なかった。
一通り泣き終えた私に母は、
「とりあえず何かお腹に入れなさい」
と、夕飯の残りのポトフをチンしてくれた。
あまりにも煮出されすぎて、
味どころか食感まで失ったキャベツはとても不味く、
せっかちな母が電子レンジの音を待たず、
途中で出してしまったせいで冷たかった。
それでもあの日食べたポトフは一生忘れられない味になった。

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