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散歩してたらおじさんに「外に出な」と言われた話

あまり行かない公園にふらっと行ってみた日のこと。

その公園に資料館があることを初めて知った。しかし扉の前に休館中の立て札。少し残念に思いつつ、建物の窓に映る晴れ空がきれいで写真を撮っていたら、知らないおじさんに話しかけられた。

立ち話が得意でない性分のため普段なら適当に切り上げてしまうところだが、なぜだろうその日はなんだか話を聞いてみたくなった。

「人との出会いを大事に」

そんな言葉が頭をよぎった。


そのおじさんは、私に何か質問するわけでもなく、自分のこれまでの人生について語ってくれた。

運転手を長いことやっていて、全国をトラックで回ったことが誇りなんだそうだ。

「屋久島にはね、集落がいくつもあるの。それぞれ言葉が違うんだよ。日本人だけじゃないからさ。あとは道が一本しかなくてね、信号も一つしかないんだね。それなのに信号を過ぎたところで、前の車が路上で反対車線の車とおしゃべりしてるんだよ。だからそれが終わるまで待つしかなくてね…」

私は屋久島に行ったことがないから、本当に集落ごとに言葉が違うのか、道は一本だけなのか、真偽はわからない。

ただ、現役時代に思いを馳せながら笑顔で語るおじさんの後ろには、見たこともないはずの屋久島の青く広い空が広がっているような気がした。

おじさんはそれ以外にも、運転には気を付けなとかいつも優しい男は裏があるぞとかいろんなことを教えてくれたけど、最後に特別力を込めてこう言った。


「外に出た方がいいよ。若いうちにたくさん冒険しなくちゃ。後悔しないように、今やりたいことは全部やるのがいいよ」




ぶわわーーーっと、視界が広がったようだった。

こんな時代だからと我慢するばかりで、考えることさえやめてしまっていたこと。

外国に行っていろんな景色を見たいという夢。

留学の中止によって打ち砕かれたと思っていた、
今は思い描くことさえいけないことだとしまい込んでいた、私の夢。

外に出る、なんだか懐かしい響き。みんなが言いづらくなっていたことを、このおじさんはなんてあっけらかんと言うんだろう。
気分転換のためにした気まぐれなプチ外出の先で、こんないい出会いがあるなんて。

おじさんの言う通り、外に出るって大事だね。


なにも日本が再び鎖国したわけでも、地球が爆発したわけでもなし。ちょっと充電する時間が延びただけだ。

満タンの充電がやっと切れるころに、今度は私がおじさんに、おじさんが見てきたよりもっともっと広い世界の話を聞かせるよ。


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