見出し画像

豊川稲荷vs伏見稲荷

愛知県豊川市の豊川稲荷
京都府京都市の伏見稲荷
この2つは兄弟関係にあるお稲荷さん系列神社……というのは大間違いで、全然違う別物ですよという話を書きます。

こちらが豊川稲荷マグネット。

豊川稲荷マグネット
豊川稲荷マグネット


そして、こちらが伏見稲荷マグネット。

伏見稲荷マグネット
伏見稲荷マグネット


稲荷とは農業の神。現在は転じて産業全体の神様であり、その遣いであるキツネそのものを言う場合もあります。どちらのマグネットにもキツネが描かれており、鳥居も配置されています。がしかし、この2つの稲荷には大きな相違点があります。伏見稲荷は神社ですが、豊川稲荷は神社ではなくお寺で、稲荷は通称です。実際に自分が豊川稲荷を訪れた時に、別の観光客の方とお寺の係の方の会話で「神社の本殿はどこですか?」「ここはお寺ですよ」「そうなんですか!?」というシーンを目撃しましたので、広く誤解されている実態を体感しました。

伏見稲荷は創建711年。正式名称「伏見稲荷大社」で、全国約30,000社ある稲荷神を祀った稲荷神社の総本山です。人々が幸せを求める「庶民の信仰の社」であり「神様と自然と人とが共生する社叢・稲荷山である」と謳われています。一方の豊川稲荷は、正式名称「円福山豊川閣妙厳寺(みょうごんじ)」であり曹洞宗のお寺なのです。

ではなぜ豊川稲荷はキツネを前面に押し出しているのか。なぜ鳥居があるのか。これらにはワケがあります。

キツネの事情

鎌倉時代の1264年、九州で活躍した曹洞宗の寒巌というお坊さんが、修行のため宋へ渡り1267年に帰国する際、海上で白い狐にまたがった枳尼真天(だきにてん)という女性の神様を見て(夢?)感動し、帰国後に自ら彫刻して守護神としました。「〇〇天」というのは、仏教の神様のこと。彫像は弟子から弟子へと受け継がれ、1441年に開創された豊川閣妙厳寺に祀られました。枳尼真天は妙厳寺のほかに、成田山、浅草寺、高尾山、比叡山など多くの寺院に祀られている準メジャーな「〇〇天」です。
さてこの「キツネに跨った女性の神様の彫像」を見て、妙厳寺を訪れた庶民は盛大に勘違いしました。
「ああキツネだ」
「ありがたいお稲荷様だ」
「ここは稲荷だ」
「豊川稲荷だ」
かくして、江戸時代には寺院全体が「豊川稲荷」と通称されるようになりました。もともと稲荷神を祀る京都伏見稲荷が有名だったので、ここも系列神社なのであろうという勘違いがあり、これが現代に至るまで広まっているってことのようです。キツネ人気にあやかる形で、妙厳寺もこの豊川稲荷という通称を受容しています。妙厳寺公式webサイトのURLもtoyokawainari.jpですし。

鳥居の事情

なぜ神社ではないのに鳥居があるのか。についてですが、これは江戸時代までの神仏習合思想によります。江戸時代には寺の門として鳥居が設置されている例はわりと一般的だったとか。しかし明治維新で、政府は神道の国教化を行うため、神仏分離令を出して神仏ハイブリッドは許さんという姿勢を取りました。お寺は政府に逆らう政治犯を匿うやっかいな施設と見られていた背景もあるようです。当然、妙厳寺にも取調べの手が伸び、分祀を命令されましたが、キツネ人気にあやかり続けたい妙厳寺はこれに強く抵抗し、鳥居のみを撤去して「枳尼真天はインドの仏教神であり、ここに神道の神様は祀ってございません」とすることで難を逃れたのです。
佐賀県には、稲荷堂が神仏分離された結果、祐徳稲荷が繁栄した一方、本家の祐徳院は朽ち果てて跡形もなくなってしまったという例もあるので、妙厳寺の徹底抗戦はファインプレーでした。
で、第二次世界大戦後、豊川稲荷の鳥居は山門から横にずらした位置でちゃっかり復活したという次第です。

まとめますと
施設 伏見稲荷:神社   豊川稲荷:寺
開創 伏見稲荷:711年  豊川稲荷:1441年
神  伏見稲荷:稲荷神  豊川稲荷:枳尼真天
狐  伏見稲荷:神の遣い 豊川稲荷:枳尼真天の乗物
鳥居 伏見稲荷:当然ある 豊川稲荷:一時撤去したが復活

というわけで、かたや神社の伏見稲荷と、かたやお寺の豊川稲荷がそれぞれご当地マグネット化される有名観光地として繁栄しているわけです。

が、共通点は稲荷という名称以外にもあります。

伏見稲荷。とにかく延々続く鳥居の数がすごい。

伏見稲荷千本鳥居
伏見稲荷マグネット


豊川稲荷。あたりを埋め尽くす、霊狐塚のキツネ像の数がすごい。

豊川稲荷霊狐塚
豊川稲荷マグネット

どちらも物量で押しているのが共通点。それが理由で、現在のSNS映えブーム&パワースポットブームに、ピタっとハマっている人気スポットです。

なお稲荷と言えばいなりずし(おいなりさん)ですが、その発祥地には、招き猫発祥地をしのぐ数多くの諸説があるようです。油揚げがキツネの好物ということで全国へ急速に広まったからだと考えられます。まあ美味しいので、どこ発祥でもよろしいかと。


以上です。


「ご当地マグネット対決シリーズ」
などというものはありませんが、過去、金閣寺と銀閣寺、伊勢神宮と出雲大社につき、入手したマグネットに絡めて比較した記事を書いています。



本記事で、ご当地マグネット集めに関するマガジンの記事が、60本に到達しました。