コーチに求められる「人の器」(epistemic position)とは?
はじめに
本テーマは、発達心理学者 オットー・ラスキー(Otto Laske)博士による『Measuring Hidden Dimensions of Human Systems: Foundations of Requisite Organization (Volume 2) 』(2008年版:日本語未翻訳)にて言及されている論説を引用しながらメモしたものです。
Volume 1(ED:社会的感情的発達)とVolume 2(CD:認知的発達)とSD:霊性的発達
このVolume 2は認知的発達(CD: Cognitive Development)に、Volume 1は社会的感情的発達(ED: social-Emotional Development ≒ロバート・キーガン博士の主体客体理論)にそれぞれフォーカスしていますが、このCDとEDに加えて近年開発中である霊性的発達(SD: Spiritual Development)を綜合し、これら三つのサブシステムから組成される意識構造を、絶え間なく変容しつづけている有機的で生態系のようなメタシステムと捉えて、それぞれ三つの発達現象に生身の人間として関与しようとするラスキー博士の在り方が、僕を魅力しつづけています。
2月に発売となった「人の器…」は、Volume 1。Volume 2は未訳
Volume 1の方は、加藤洋平さんによって2014年に日本語に翻訳され、これまでは彼のWebサイトでPDF版として購入できましたが、2024年2月の出版に伴って、現在は購入できなくなっているようです。
今後は、Volume 1の日本語訳は、こちらでお読みいただけるようになったようです。タイトルは、”心の隠された領域の測定 成人以降の心の発達理論と測定方法”から、”「人の器」を測るとはどういうことか 成人発達理論における実践的測定手法”に変更され、表紙のデザインも含め、僕にとっては少々キャッチーな印象になってしまいました。
Volume 2に関する用語について
Volume 2は、日本語未翻訳ですので、なるべく原文を引用し、日本語訳については、『サイケデリック学者・瑜伽行唯識学者』(久しぶりにWebサイトを拝見したら、肩書きがすごいことになっていました!w)加藤洋平さんに監修をいただき、2017〜2018年に日本アクションラーニング協会さんと共催した、『オットー・ラスキーによる構成主義的発達理論のフレームワーク(Constructive Developmental Framework)入門ワークショップ』の資料からごく一部ですが、引用します。
ちなみに、以下のレポートはその際のもの。7年前ですから写真は随分と若いですw
とりあえずの結論
さて、前置きが長くなってしまいましたので、結論からお伝えしますと、『コーチに求められる「人の器」:epistemic positionとは?』の応えは、『ポジション5』です。
ICC国際コーチング連盟代表のジョセフ・オコナーの論説(How dialectical thinking works in coaching practice, IDM Newsletter vol. 3.3, 2007)は、前述のラスキー博士のVolume 2に以下のように引用されています。
”epistemic positionって何?”、”ポジション5って何?”、”そもそも『人の器』ってどういうこと???”
さて、やっと本題です。最後の質問は、Volume 1をご監訳くださった中土井僚さんに直接訊いていただくとして、最初の二つについて、簡単に触れてみようと思います。
”epistemic positionって何?”
これをご理解いただく前に、ラスキー博士が心の発達をどの領域に観察しているのか、というところからはじめなければならないでしょう。
ラスキー博士は、"Pyramid of Human Capabilities"という図を用いて、発達の領域をcapability(意味構築能力)に定義します。以下の日本語訳は、加藤洋平さんによるものですが、”能力”を私たちが日常的に用いている、頑張ってトレーニングすれば体得可能な”スキル”のように解釈してしまうと誤解が生じてしまうでしょう。私たちの多くが、知らず知らずのうちに呼吸をするように、自然に適用・運用されている能力のことを思い出してもらうといいでしょう。
ラスキー博士は、自然な呼吸のように、恣意的に発話(記述)した内容ではなく、内的会話(心の中で呟くような声)の構造に発達現象を観察しようとしているのです。
端的に表現するなら、”意図的にできる”能力ではなく、日常的に”自然にやっている”能力が対象になります。
competency(能力)
capacity(行動特性·性格類型)
capability(意味構築能力)
このcapability(意味構築能力)という心の根っこにある「CD(認知的発達)」と「ED(社会的感情的発達)」という二つのシステムから構成されるのがepistemic positionなのです。
その人が、意図的に選択できるもの(competency)でも、タイプ論に基づいて選択されるもの(capacity)でもなく、『直面するリアリティに対して、意味を構築する際に、無意識的に選択可能なスタンス(立ち位置)』という風にもいえるでしょう。
”ポジション5って何?”
こちらは、認知的発達とは何かからお伝えする必要があるので、多くの皆さんがご存知のキーガン博士の主体客体理論の側面から説明してみるなら、自己著述段階相当といえます。ラスキー博士は、主体客体理論でいう発達段階4(自己著述段階)に対応させながら、ポジション5を定義しています。
なお、ラスキー博士による以下の発達段階4の定義は、端的にその構造を表現していて、しびれます。自分自身のシステムに閉じていないこと、他者の異質なシステムそのものをまだ経験していないことも含めて端的に表現されています。
個人的には、成人発達理論を援用できるコーチは次のポジションであるポジション6-7が求められていると実感しています。オレンジ段階ではなく、グリーン〜ティール段階です。真の共感もグリーン段階以降からはじまるのでしょう。
なお、社会的感情的発達段階の側面からの言及になりますが、ラスキー博士のVolume 2でも引用されている「コーチングのすべて(How coaching works)」には以下のような言及があります。
こちらは日本語に翻訳されており、成人発達理論を用いた発達コーチングについて、12章にまとまっておりますので、成人発達理論を活用したいコーチには、おすすめです。
まとめ
オットー・ラスキー博士とジョセフ・オコナー氏によれば、コーチには発達段階4(より厳密には、発達段階4/3)以降相当の認知的発達が求められるということになるのでしょう。垂直的発達に寄与することを期待されるのはコーチに限定されず、教育者、経営者、リーダー、マネージャも例外ではないでしょう。
お知らせ
成人発達理論と援用・活用できるプロコーチを養成しています。ジョセフ・オコナーが代表を務めるICC国際コーチング連盟の国際資格を取得しながら、成人発達理論を実践的に活用できるようなトレーニングです。ご興味のある方は、こちらから無料ガイダンスをお受けいただけます。
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