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幽刃の軌跡 #10

第10話: 平安王 藤原真彦(ふじわらの まさひこ)

八州の地、平安城の内部は重厚な静けさに包まれていた。外は冷たい風が吹き抜け、戦の気配が漂う。しかし、城内の広間では、その気配を感じさせないほどの威厳と落ち着きが漂っていた。


藤原真彦、平安国王であり、通称「平安王」と呼ばれる男が、書状に目を通していた。彼は50代の初老の男で、少し疲れたような目つきをしているが、その瞳には野望が宿っていた。


平安王は西国の統一を目指し、御門(天皇)の地位に就くことを強く望んでいた。しかし、戦の才が乏しく、霊域も弱い彼は、自らの力不足を痛感していた。彼には4人の娘がいるが、どれも息子ではないことが彼の焦りを募らせていた。息子がいないことに対する無念さが、彼の内心をかき乱していた。



その時、広間の扉が静かに開き、明菜が入ってきた。彼女は緊張した様子で、平安王に一礼すると、静かに話し始めた。


「父上、朱留殿の霊域について報告いたします。彼の力は非常に強大で、私たちが抱えている戦力不足を補うに十分な力を持っています。」


明菜の声は冷静だったが、その奥には朱留への不安が潜んでいた。彼が本当に平安国のために戦う覚悟があるのか、彼女には確信が持てなかったのだ。


「その霊域とやらが、我らの戦力になるかどうか…」平安王は眉をひそめ、考え込むように呟いた。「大和国との戦いが迫っている。朱留が本当に我が国のために役立つかどうか、早急に見極めねばならぬ。」



平安王は、娘たちの中でも特に明菜に特別な期待をかけていた。明菜は彼の唯一の希望であり、彼女の霊域の強さが、平安国の未来を決める鍵だと信じていた。彼の他の娘たち、特に明穂は、霊域が弱く、戦の役には立たないことを内心嘆いていた。


「源尊率いる第一軍が大和国への偵察に向かっているが、その報告が戻るまでに、朱留をどう動かすか考えねばならぬ。」平安王は立ち上がり、窓の外を見つめた。「西国を統一し、御門になるためには、今以上に強大な力が必要だ。朱留がその力をもたらすならば…」


彼の言葉は続かず、部屋には重い沈黙が広がった。



外の空は徐々に暗くなり、戦の影が平安国にじわじわと迫っている。平安王の中で野望と不安が交錯する中、明菜は朱留が平安国の未来を左右する存在になるかどうかを考えながら、静かに父の言葉を待った。


「まずは、朱留の覚悟を確かめよ。彼が本当に平安国のために戦う意志があるかを見極めねばならぬ。近い将来、大和国との決戦が避けられぬであろう。その時までに、全ての戦力を整えなければならない。」


平安王の声には、かつてないほどの緊張感が漂っていた。それは、戦の到来を予感させるものであり、同時に彼が抱える焦りと野望の表れでもあった。



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