幽刃の軌跡 #49
49話:「瀬戸内の乱、終焉」
平真男の敗北が各戦場に伝わると、四国軍の戦意は一気に崩れ去った。兵士たちは真男の不在に動揺し、誰もが戦いを続ける意味を失ったかのように次々と手を止める。同じ頃、淡島南部にも「四国軍敗退」の報が届いた。
「真男様が……」
琳守は絶望に沈むように呟く。
「真男様のいない今、この戦に何の意味がある?」と、茂道も戦況を悟る。
一方で、那須昇治と篠原景秋もこの知らせを受け、周囲に戦の終結を告げた。平安軍が四国軍に終戦の通達をするなか、四国の各部隊は抗戦の中断を命じられ、全ての戦場が静まり返っていく。
備前港では、平安王が終戦を正式に宣言した。四国軍の兵士たちは降伏し、次々と平安軍に拘束されていく。こうして「瀬戸内の乱」は幕を下ろし、数日のうちに戦場の整備や四国兵の処罰など、戦後処理が平安軍によって進められた。
平安国の王都には臨時の刑務所が急造され、捕虜となった四国兵が次々と収容された。宮殿内の広間では、平安王が捕えられた琳守と茂道に対面し、静かに問いかけた。
「そなたたちが、平安を攻めてきた原因とは何だったのか?」
那須と篠原が琳守と茂道の両脇を固め、睨みを効かせている。琳守は重い口を開き、静かに語り始めた。
「……それは数ヶ月前のこと。土佐から現れた二人の若者が、九国で新しいエネルギーが開発されていると話しました。奴らはその力を平安も同様に開発しており、完成させれば平安が四国を最初に侵略するだろうと。真男様はこの情報を聞き、危機感から即座に戦を決意したのです」
「……そうだ」と、茂道も続ける。「このままでは四国が滅ぼされると、真男様は危惧されたのだ」
平安王はふと何かを悟るように口元を緩め、呟いた。
「なるほど……その若者たちが、真夜中朱留と最初に対峙した土佐の戦士たちか」
琳守は続ける。
「我々はただ古き平家の戦士として、戦の計画に従ったまで。戦略などは琴太と他の上層部が計画していたので、詳しくはわからない。」
平安王の側近である熊谷景虎が、黙って見守っていた一同に話し出す。
「実はその件について、すでに調査を進めている。九国は遠くない未来、平安への侵攻を企てている可能性が高い。情報の出どころは明かせないが、九国は20年前の平場の乱で平安が疲弊することを狙っていた。だが、その計画は朝光の早期討伐により、変更を余儀なくされたのだ」
言葉を失う一同に、平安王が厳粛な調子で宣言した。
「これより、四国は平安と同盟国となる。詳細は追って伝えるが、九国の戦闘に備えて軍を大きくする必要がある。」
その後、四国軍の兵士たちの処遇や罰則が定められ、瀬戸内の乱は完全に幕を閉じた。
終戦から一週間後、平安宮殿の大広間に第一軍から第八軍までの平安軍隊長、そして四国の主要メンバーである平琴太、琳守、茂道が集められた。玉座に座る平安王・藤原真彦の周囲には、右手に参謀総長の熊谷景虎、左手には篠原景秋と那須昇治が控えている。
「皆の知る通り、瀬戸内の乱は終結した。しかし、20年前の平場の乱に始まり、この戦の陰には常に九国の影がある。我らは次に備えねばならぬ。よって、本日より四国を平安の同盟国として正式に認める!」
平安王はさらに続け、戦いを終結に導いた功績を称えた。
「此度の戦で軍を率い、戦線を支えた第一軍隊長・源尊、第二軍隊長・飯伏綾人、第三軍隊長・宇都宮影治、そして第四軍隊長・那須弘明――その献身に感謝する」
深く頭を下げる平安王を前に、隊長たちも胸を熱くする。
そして、平安王は厳粛に四国への新たな布告を告げた。
「四国軍総大将には那須昇治を、四国参謀総長には篠原景秋を任命する。また、平琴太、平琳守、平茂道を各軍隊長として迎え、四国は新しき王国として再編成される!」
こうして、新たに編成された平安・四国連合軍は総勢15万の大軍を擁するまでに至った。この情報は九国や大和国へも速やかに伝えられ、両国もまた戦の気配を感じ取ったのである。これがやがて、さらなる大戦の火蓋を切る引き金となるのは、もはや誰の目にも明らかだった。
新時代の幕開けが、静かに始まろうとしていた――
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