幽刃の軌跡 #20
第20話: 絶望感
竜馬が「霊域解放・弐式・憑依」を発動すると、今まで刀に宿っていた土佐犬の精霊が竜馬の体に憑依し、その瞬間、竜馬の全身が霊域のオーラに包まれた。彼の筋肉がさらに膨れ上がり、目には土佐犬の獰猛な光が宿る。その圧倒的な力とスピードの上昇は、周囲の空気さえも振動させ、戦場の空気が重々しく変わった。
朱留は立ち尽くし、その膨大な霊域の波動に息を呑んだ。
竜馬の目が朱留に向けられると、瞬く間に距離を詰め、無数の斬撃を放ち始めた。斬撃は鋭く、風を切り裂く音と共に空中を舞う。朱留は「天幽の刃」を駆使して防ごうとするが、その圧倒的な速さと力の前には成す術もなかった。
「なんだ...この速さは...!」朱留はかろうじていくつかの攻撃を受け流すが、その体には次々と傷が刻まれていった。
「ははっ、終わりじゃ!」竜馬の声が響く。彼の霊域がさらに高まるにつれ、朱留への攻撃は止むことなく続いた。朱留の防御は徐々に崩れ、膝をつくほどの重いダメージを受けていく。
「朱留さん...」明菜の心中に焦りが募る。しかし、那須と共に大森との戦いに縛られているため、朱留を助けに行くことは叶わない。
那須も同じく、朱留の状況に危機感を抱きつつも、「明菜殿...このままでは朱留殿がまずいです...しかし、我々も今動けない...」と声を震わせながら、大森の猛攻を受け止めていた。
明菜の心は葛藤していた。「朱留さんと竜馬では力の差があまりにも大きい…このままでは彼の命も…」彼女の中で、どうするべきかの判断がつかず、ただ時間だけが無情に過ぎていく。
竜馬の斬撃がまた朱留に襲いかかる。朱留の身体はボロボロになり、彼の視界はぼんやりと揺れ始めた。「くそ…まだ…俺は…」だが、竜馬の猛攻は止まらない。
次々に襲いかかる斬撃は朱留の体を無数に切り裂き、彼の体力と意識は限界を超えていた。自分の霊域をさらに引き出そうと必死に抗うが、竜馬の圧倒的な力の前では無力だった。
「もう…だめか…」朱留は自らの力不足を痛感し、竜馬の前で倒れ込んだ自分が情けなく感じた。
「こんな…ところで…終わるのか…」意識は薄れ、視界が暗くなっていく。朱留の頭には、かつての日常がフラッシュバックする。高松での日々、戦いを決意したあの日、そして出会った仲間たち。すべてが遠のいていく。
「俺は…まだ…」朱留は心の中で叫び続けたが、竜馬の圧倒的な霊域の力に飲み込まれ、ついに意識が完全に途切れた。戦場の喧騒が、次第に遠のいていった。