プリセールス組織の課題:A社のケース
背景
A社は、市場優位性のある主力製品が中心の会社で、営業組織は業種別に組織化され、主力製品と付随するツール製品を扱っていました。プリセールスもその営業組織の配下に各々配置され、同様の製品範囲をサポートしていたのです。そこへ新たな製品事業としてアプリケーション事業を追加するために、いわゆるオーバーレイ営業組織としてアプリケーション事業部が作られ、製品管理、営業、プリセールス、コンサルタント、サポートなど、全ての関連チームがこの事業部内に配置されていました。成熟した製品になるまでは、こうしたオーバーレイ組織でノウハウの共有などができることはメリットとして大きいのです。一方のデメリットとして、事業部内に全てのファンクションが閉じてしまうので、各々の専門組織(営業、プリセールス、コンサルタントなど)からの距離が出来てしまい、仕事の仕方も、ともすると営業からの依頼ベースで動く受け身の体制となりがちでした。
アサインメントの課題
アプリケーション製品は業種特性が強いにも関わらず、顧客担当の営業チームから案件毎にプリセールスのアサインの依頼を受けて対応するので、メンバーは案件単位で毎回異なる業種にアサインされ、業種ノウハウが貯まりません。結果として、ソリューションセリングというよりもプロダクトセリングになってしまう傾向にありました。
顧客から見ても、業種営業、業種担当プリセールス(主力製品中心)、アプリケーションのオーバーレイ営業、アプリケーションのプリセールス(場合によっては業務範囲によっては会計、物流各担当の複数名となる)という大人数での対応となり、チームがバスに乗ってやってくると揶揄されたこともあるくらいでした。
解決策
これらの課題を解決するために、主力製品とアプリケーション製品のプリセールスを一体化し、顧客のビジネスに則した提案が出来る体制への移行をしました。つまり担当業種を軸とした体制にして、業種別のプリセールスが案件のリードをして、アプリケーションのプリセールスと一体となって提案する形にしたのです。この段階ではまだアプリケーション製品のプリセールス部隊を各業種に分けて配置することは出来ませんでしたが、業種の担当としてソフトアサイン(専任では無い)するなど、業種別のプリセールスともノウハウが蓄積出来る形になりました。また顧客から見ても、営業は業種担当営業、オーバーレイ営業が提案内容と見積もり、プリセールスは業種担当のシニアなエンジニアが案件をリードしてその他の製品のプリセールスをまとめる形となり、責任範囲はわかりやすくなりました。
業種担当(営業もプリセールスも)は案件成果で評価されるので、アプリケーションチームと協力して提案を行い、アプリケーションのプリセールスは製品の成果で評価されるので依頼された提案に注力して取り組むことが出来ました。
専門スキル不足の課題
次の課題となったのは、アプリケーション・プリセールスの各適用業務分野での専門性が不足している事でした。これは例えば会計であれば、連結決算、固定資産、管理会計で、業務のプロである顧客と対等に問題点を議論して、提案をする知識の不足を指します。その段階では適用業務の範囲に比べてプリセールスの人数が不足していて、適用業務の専門知識を深めるには十分な体制ではなかったために、持っている知識では顧客の業務担当者を説得する事が難しく、提案自体にも説得力が不足していたのです。
解決策
専門性の課題を改善するためにプリセールスの中に、各製品の専門分野のリーダーをアサインしたのですが、これはあまりうまく機能したとは言えませんでした。例えば会計なら、連結会計のスペシャリストや、固定資産のスペシャリストといったアサインをして、他のメンバーがその分野で何か困った時にサポート出来るように整えたものでしたが、実際は担当案件で多忙で、提案件数の多いものはある程度知識集約できましたが、多くはうまく機能していませんでした。該当の案件がある場合は、担当の専門分野のエンジニアをアサインして蓄積出来るようになったという意味での進展はありました。
この事例では、顧客に対して効率的にリソースをアサインするという点では進展はありましたが、ビジネス課題に対応するための専門性や、製品を活用するためのトランスフォーメーションを促すための体制やスキルは残念ながらまだ十分ではありませんでした。その後、専門性を持った人材を採用することで、大きな進展をすることになりますが、この段階ではまだ人材不足であったと言えます。
最近では、多くの製品を持つ企業でも製品別事業部で人材を持つやり方よりも、営業、プリセールス、コンサルティングと言った顧客に対面する機能毎に組織化して提案の質を上げる方向になってきています。一方で製品事業という点では、プロダクトマーケティングのチームがプロダクト毎に販売計画を立案し、新製品のリリースなども併せて各部門と連携して進めることが多いように感じます。