顧客ロイヤルティプログラムの真実:その本質と成功への道
顧客ロイヤルティプログラムとは、「企業が顧客の愛着心を高め、LTV(顧客生涯価値)を拡大するための体系的な制度」です。しかし、その成功には計画と運用が求められ、単なる値引きやインセンティブの提供では効果を持続させることは困難です。本記事では、ロイヤルティプログラムの本質と成功のポイントを解説します。
ロイヤルティプログラムとは何か
顧客ロイヤルティプログラムは、「企業が顧客の忠誠心を高めるための体系的な仕組み」です。その目的は、単なる売上向上ではなく、顧客生涯価値(LTV:Lifetime Value)の最大化にあります。プログラムは、大きく以下の2種類に分類されます。
1. 報酬系プログラム
• 金銭的報酬:ポイント還元、クーポン、キャッシュバック。
• 非金銭的報酬:専用コールセンター、VIP顧客向け特典。
2. 非報酬系プログラム
• 特別体験型:企業理念を共有する体験(例:エコ活動への参加)。
• 価値共創型:顧客との協働で社会的価値を生み出す取り組み。
成功するロイヤルティプログラムの条件
成功するロイヤルティプログラムには、以下のような設計が求められます。
1. 顧客価値を中心に据える
単に「ポイントが貯まる」だけではなく、顧客がそのブランドや製品に「特別な価値」を感じることが最重要です。例えば、特定ランクの顧客に限定商品の先行購入権を付与するなど、顧客がその特典に特別感を感じられる仕組みが有効です。
2. 具体的な設計例
• 初回購入者限定の特典付与で新規顧客の獲得を促進。
• 累積購入額や利用頻度に応じたランクアップ制度。
• 上位ランク顧客に対する特別招待(VIPセールやイベント)。
3. ターゲティングの精度
すべての顧客に同一のプログラムを提供するのではなく、顧客属性ごとに設計を分けることが効果的です。例えば、若年層にはSNS連携機能を強化し、シニア層には電話や対面サポートを重視するなど。
PwCの調査が示す「ロイヤルティの本質」
1. 顧客離反の主な理由
PwCの調査によると、顧客がブランドを離れる理由の50%以上が、価格やポイント還元ではなく「体験の不満」や「期待値とのギャップ」に起因しています。
• 品質の低下:製品やサービスが期待を下回ると、プログラムの効果は限定的。
• 一貫性の欠如:購入前後の対応やサービスがバラバラだと、顧客は不信感を抱きます。
2. ロイヤルティを向上させる3つの軸
1. 共感:ブランドが顧客の価値観に寄り添う姿勢を示す。
2. 信頼:製品やサービスが予測通りの価値を提供する。
3. 一貫性:顧客接点すべてで統一されたメッセージを伝える。
これらを重視することで、顧客との深い関係性が構築され、ロイヤルティプログラムが補完的に機能します。
顧客は「製品・サービスの価値」で企業と繋がる
この調査から得られる最大の示唆は、顧客はCRMやマーケティングで企業と繋がっているのではなく、「製品やサービスから得られる体感そのもの」で企業・ブランドと繋がっているという点です。
顧客ロイヤルティやLTVの話題になると、とかくCRMをはじめとしたマーケティング施策について語られがちですが、中澤のこれまでの実務経験からの体感としては、「マーケティング3 :MD(商品・品揃え)7」くらいの割合で、LTVに影響を与えていると感じています。
マーケターはもっと「MD」を学んだ方がいい
お得意様はなぜ、あなたのブランドを利用し続けてくれるのか?
マーケターにとって最も重要な問いが、「お得意様はなんで、自社のブランドを利用し続けてくれるのだろう?」という問いです。
この問いに対して「自信を持った回答」を明文化し、企業全体の共通言語とする役割が、マーケティング部門の大きなミッションです。
自分はこの問いを実務の中で突き詰めていった結果、結局最後は「MD(商品開発・サービス開発・品揃え)」に行きつきました。
なぜなら、顧客がそのブランドの「価値の実体」を体感できるのは、結局のところ、「自分の期待にマッチする商品を見つける体験」と、そこで見つけた商品を購入し「実際に使用してみた体験」の二つの場面からだからです。
マーケターのセミナーで「MD」をテーマにしたものは殆ど無い
中澤は昨年から「MD」をテーマにしたセミナーや講座を行うことを意識的に増やしているのですが、残念ながら、マーケター向けの情報提供市場で「MD」がテーマになることは殆どありません。
特に小売業においては、小売業の本質的価値は「顧客と商品のマッチング」であり、マーケティングは「MD」で展開される商品の魅力を「いかに正しく伝え」て、顧客が「マッチングに失敗しない状態」を司る役割を持ちます。
適正なマッチングを行うためには、そもそも「顧客が期待する商品や品揃え」が実現されている必要がありますが、既に一定の売上規模を持ち、明らかな「お得意様」を有する場合には、既に「お得意様が満足する商品や品揃えが存在している」はずです。
よってマーケティングは、数ある商品と顧客をいかに適正にマッチングさせ、商品価値を正しく伝え、お客様が商品に気付き、使って満足できる状態をつくることが、顧客ロイヤルティを上げるための本質になるのではないかと考えています。
MDとマーケティングは、自転車の両輪というのが自分のイメージです。だからこそ、マーケターはもっと「MD」を深く理解し、MD部門と同じ目線で語り合えるだけの知識を持ったほうがいいのではないでしょうか?
ロイヤルティプログラム成功事例
顧客ロイヤルティの本質は「商品やサービス自体の価値」にあるわけですが、企業にとってお得意様が「特別な存在である」ということ、またお得意様候補に対しては「あなたと特別な関係になりたいのです」といったことを伝えるための「コミュニケーション手段」が、ロイヤルティプログラムである、という捉え方もできるのでは無いかと思います。
その観点で考えると、以下のような事例は、この「コミュニケーション」としてのロイヤルティプログラムと言えるのでは無いかと思います。
1. スターバックスリワード
スターバックスは、購入金額に応じてポイントを貯められるシンプルな仕組みを採用していますが、その特典には特別感があります。たとえば、非金銭的な報酬として「新商品試飲券」や「特別イベント招待」などが用意され、顧客の満足度を高めています。
2. Amazonプライム
Amazonプライムは、ロイヤルティプログラムの先駆けとも言える存在です。無料配送特典や動画・音楽配信など、多岐にわたる特典を提供することで、顧客はAmazonを日常的に利用するようになります。その結果、顧客ロイヤルティが高まり、離反率を大幅に低下させています。
プログラム設計での課題
1. ポイント依存症の回避
ポイントプログラムに過度に依存すると、利益率が低下するリスクがあります。一度導入したプログラムを縮小または廃止するのは難しいため、導入前にROIの検討が不可欠です。
2. データ分析の精度
顧客データを活用し、プログラムの効果を定量的に評価することが重要です。たとえば、LTVや顧客離反率をモニタリングし、施策の改善に活用します。
3. 顧客セグメンテーションの適切さ
すべての顧客を一括りにせず、顧客層に合わせたプログラム設計が求められます。ファミリー層、若年層、シニア層など、それぞれのニーズに応じた施策を展開します。
未来への展望:ロイヤルティプログラムの進化
1. AIとビッグデータの活用
AIを用いた顧客データの分析により、顧客ごとのパーソナライズされた特典提供が可能になります。たとえば、過去の購買データをもとに次回購入を促す特典を提案する仕組みなどが挙げられます。
2. サステナビリティとの融合
環境への配慮や社会貢献をテーマにしたロイヤルティプログラムが注目されています。ポイントを寄付に回せる仕組みや、エコ活動への参加で特典を付与するなど、企業と顧客が価値を共創するモデルが拡大しています。
まとめ
顧客ロイヤルティプログラムは、単なるポイント還元や値引き施策ではありません。成功の鍵は、製品やサービスの本質的な価値を高めること、そして顧客がその価値を実感できるよう設計することにあります。
PwCの調査が示すように、ロイヤルティの真髄は「信頼」と「価値」に根ざしています。顧客体験を最優先に考え、データ活用や環境への配慮といった未来志向の戦略を取り入れることで、企業は顧客との持続的な関係を築くことができます。
顧客ロイヤルティプログラムは、「顧客との絆」を深めるためのツールとして活用し、その本質を理解することで真の成功を掴む鍵となるでしょう。
最後に
今回の記事は、日経クロストレンドに、5回に渡って連載された記事の内容を要約し、一部内容の修正を加えたものです。
もし、より詳しい内容が読みたい方は、ぜひ日経クロストレンドでお読みになって下さいませ。
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/01080/00001/?i_cid=nbpnxr_child