The Beatles / Please Please Me
今日2月11日は、建国記念の日で祝日ですが、ビートルマニアにとっては、違う意味での「祝日」でもあります。
そう、記念すべきファーストアルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』がレコーディングされた日です。
1963年の2月11日、ビートルズは『プリーズ・プリーズ・ミー』をわずか1日でレコーティングします。厳密に言えば、収録曲14曲のうち、すでにシングルのAB面でリリースされていた4曲を除く10曲を、この日、10時間弱でレコーディングしています。
この4年後に発表する『サージェント・ペパーズ』には700時間もの時間を掛けていて、本当に同じバンドなのかと思ってしまいます。
当時は2トラックのレコーダーでの「一発録り」で、基本オーバーダブも出来ない(何曲かはしていますが)ので、良いテイクが録れれば、「はい、次の曲ね」と言う感じでレコーディングを進めたことが想像されます。
(とは言え、『ペパーズ』も4トラック・レコーダー2台での録音。そっちの方が驚異的ですが...)
このアルバムの最大の魅力は、ビートルズが、まだ「期待の新人」に過ぎなかった頃の初々しさが詰まっているというところでしょう。レコーディングのスピードもそうですが、当時の彼らの勢いが、そのまま音から溢れているように感じます。
裏を返せば、ほんの1年後の『ハード・デイズ・ナイト』では、もうすっかり大物の貫禄を感じさせているわけで、やはり史上最強のバンドは違うなぁ~、と感心してしまいます。
1曲目は「I Saw Her Standing There」。ポールのカウント「one, two, three, four!」でスタート。
元々はアルバムをライブ・レコーディングするという案もあったそうですが、このポールのカウントが、ライブ感を盛り上げています。このカウントがなかったら、アルバム全体の印象も全然違ったことでしょう。
この曲、ベースを弾きながらメイン・ボーカルを歌うのは簡単ではなく、ビートルズのコピーバンドにとっては、最初の関門となっています。この曲を聴くと、そのバンドのレベルがある程度分かりますね。
6曲目は「Ask Me Why」。ジョンのボーカルと、それに寄り添うポールとジョージのコーラスが、実に心地よい。
この曲は、すでに2ndシングル「プリーズ・プリーズ・ミー」のB面としてリリースされていましたが、ジョンのアコースティック・ギターは絶妙のノリを出しているし、サビの部分でポールのベースは非常に印象的だし、B面曲の「手抜き感」が全くありません。「本当にこれがB面なのか?」と驚かされます。
13曲目は「There’s A Place」。ハーモニカのイントロで始まり、ポールとジョンの2声で歌われるところは「プリーズ・プリーズ・ミー」と同じですが、こちらはポールが作曲しています。
そして最後の14曲目は「Twist And Shout」。ロック史上最高のカバーに挙げられる名演です。
この曲、オリジナルはThe Top Notesと言うグループのようですが、まったくヒットせず(ちなみプロデューサーはフィル・スペクターらしい...)。それを大幅にアレンジしてカバーしたアイズレー・ブラザーズのバージョンがヒットします。
ビートルズのカバーは、このアイズレー・ブラザーズのバージョンをベースにしていることは明らかですが、歌も演奏も、音の迫力が違いすぎます。
レコーディング当日、ジョンは風邪をひいていて声の調子が悪く、この曲は最後にレコーディングされていますが、そんな状態でこの歴史的なボーカルがレコーディングされたというのは驚きです。
そして、アルバム収録はTake1ですが、Take2も録音したものの、すでにジョンの声は出なかったとのこと。まさにギリギリの状態だったわけです。
ただ、そんな状態だったからこそ、この鬼気迫る圧巻のボーカルが録れたわけで、「ピンチをチャンスにする」ではないですが、やっぱり「持ってる」人だなぁ~、と感心します。
アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』は1963年3月22日にリリースされ、UKアルバムチャートのトップに30週間居座る、歴史的な作品となります。(代わって1位になったのは、2ndアルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ』)
これ以降、ビートルズの発表する作品は、それがそのままロックの歴史になっていきます。
もし、ビートルズの1stアルバムが「並」のレベルであったとしたら、ビートルズは一発屋として、すぐに消えていたかもしれません。
そして、そうなっていたとしたら、ローリング・ストーンズもザ・フーもキンクスも、デビューしていなかったかも知れません。ロックの歴史は、今とは全く違うものになっていたでしょう。
そういう意味で、このアルバムは『ペパーズ』と同じかそれ以上に、ロックの歴史を左右したアルバムと言っていいのかもしれません。そして、そのアルバムがレコーディングされたのが、58年前の今日だったということになります。
今日は、ロック史の運命を分けた記念日なのだと、改めて認識しながら、もう一度『プリーズ・プリーズ・ミー』を聴こうと思います。