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Nick Drake / Five Leaves Left

2月1日にミャンマー(ビルマ)でクーデター発生、と言うニュースを聞いた時、ビルマ生まれのシンガー・ソングライター、ニック・ドレイクのことを思い浮かべました。

生前発表したアルバムはわずか3枚。商業的には全く成功することなく、26歳の若さで世を去った彼ですが、現在、その3枚のアルバムは、いずれも高い評価を得ています。

その中から、私が一番よく聴く、1stアルバムを取りあげたいと思います。

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1969年にリリースされたこのアルバム、レーベルはアイランド、プロデューサーはジョー・ボイドと言う点は、フェアポート・コンヴェンションと同じです。

実際、フェアポートのリチャード・トンプソンが参加しているのはそのつながりでしょうし、ウッド・ベースでペンタングルのダニー・トンプソンが参加しているのも、ブリティッシュ・フォークロック人脈と言うことなのだろうと思います。

アルバム全体の楽器構成は、ドレイクのアコースティック・ギター弾き語りが基本なのですが、曲により異なる楽器が加わっていて、そこがこのアルバムの特徴になっています。

オープニングの「Time Has Told Me」では、ピアノ、ベース、そしてR.トンプソンのエレクトリック・ギターが入って、このアルバムの中では「華やかな」サウンドになっています。ドラムスが入っていないのですが、それを感じさせません。

空気感がガラッと変わるのが、4曲目の「Way To Blue」。アコースティック・ギターが消え、ストリングスとボーカルのみ。内省的な歌詞と相まって、厳かなムードに包まれます。

7曲目の「Thoughts of Mary Jane」では、ストリングスフルートが加わるのですが、このフルートが可憐でいい雰囲気を出しています。

ラストの「Saturday Sun」で初めて(そしてこのアルバムで唯一)ドラムスが入ります。ドレイクは、アコースティック・ギターではなくピアノを弾いています。そして、少ない音数ながら全体をすっぽりと包むように鳴り響くヴィブラフォンの音色とともに、アルバムは終わります。

2ndアルバム『Bryter Layter』はバンド・フォーマットの作品なので、ニック・ドレイクを初めて聴く人は、こちらの方が入りやすいかもしれません。

一方、3rdアルバム『Pink Moon』は、全編アコーステック・ギターの弾き語り(冒頭のタイトル曲のみピアノが加わる)となっていいます。当時うつ病が悪化しつつあったせいもあるのでしょう、何かに抑圧されたかのようなサウンドは、聴いていて苦しくなる時があります。(それがこのアルバムの魅力でもあるのですけど)

そして、その両者が絶妙なバランスでブレンドされている点が、この1stアルバムの魅力なのだと思います。

最初に聴いたときは、「リチャード・トンプソンのE.ギターが1曲だけなんてもったいない」と思ったものです。同じように、フルートも、チェロ(6曲目)も使われているのは1曲だけ。何で出し惜しみ(使い惜しみ?)するのだろうと思っていました。

でも、多くの曲で使われていたら、サウンドは華やかになりますが、各楽器の印象は薄まっていきます

(実際、私が多重録音でオリジナル作品を創る時、音を重ねすぎて特徴のないサウンドにしてしまっていることが多々あり、反省しています。)

基本はあくまでアコースティック・ギターの弾き語りで、そこに最小限の音が加わることで、その音の存在が強調されて印象的なサウンドになるということに気づきました。

そして、どんな構成であっても変わらないのが、ドレイクの声の魅力。声高に歌い上げるのでなく、語りかけるような歌い方が心に響きます。

アルバム・タイトルの『Five Leaves Left』は、ある手巻きたばこ用の紙に印刷されていた「残り5枚」から拝借したらしいですが、彼はこのアルバムのリリースから「5年後」の1974年に、抗うつ剤の過剰摂取により亡くなります。まるで自らの死期を悟っていたかのようです。

生前、ほとんど評価を受けることのなかったドレイクですが、死後、再評価が高まり、多くのミュージシャンが彼からの影響を公言しています。それは、シンプルな音の中に秘められた唯一無二の世界観を、彼の音楽から感じ取れるからなのだと思います。

志半ばで世を去ったシンガー・ソングライターへの敬意を表する一番の方法は、彼の残した作品を聴き継いでいくこと。その思いは、これからも変わりません。


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