The Who / A Quick One
本来、メインにしたい音楽レビューが、一番更新が少ないという悲しい状況に...少しずつ挽回します。
今回は、1966年12月にリリースされた、ザ・フーの2ndアルバム、『ア・クイック・ワン』です。
初期のザ・フーと言えば、「マイ・ジェネレーション」のインパクトがあまりにも強いので陰に隠れがちですが、単なるビート・バンドではない、ザ・フーの音楽的奥深さの片鱗を最初に示した重要な作品だと思います。
と言いつつも、1曲目はいかにもガレージバンドと言った雰囲気の「Run Run Run」。Vetvet Undergroundの1st収録曲とは同名異曲ですが、ほとんど同じ時期にリリースしているのが面白い。
まあ、こういう曲が一番安心して聴けます(笑)。
ところが、続く「Boris The Spider」では、リードヴォーカルが作曲者のジョン・エントウィッスルに代わり、サビではうめき声のような低音を、ミドル・エイトでは一転してファルセットと、変幻自在、何でもありの様相に。
次の「I Need You」のリード・ヴォーカルは(これも作曲者の)キース・ムーンにチェンジ。ワイルドで荒々しいドラミングからは想像もつかない、繊細な高音の優しい声です。
5曲目はアルバム中唯一のカヴァー曲、「Heat Wave」。ロジャー・ダルトリーとピート・タウンゼントのボーカルの掛け合いが、良い雰囲気です。
後にThe Jamがこの曲をカヴァーしますが、このヴァージョンをイメージしたことは間違いないでしょう。
続く「Cobwebs and Strange」はキース・ムーンが書いた、ちょっとコミカルなインストゥルメンタル曲ですが、注目すべきは、すべての管楽器を、バンドメンバー4人で演奏していること。外部のミュージシャンが参加しているものと、ずっと思い込んでいました。
ここまでがレコードではA面にあたりますが、実にバラエティ豊かな内容です。
B面は、対照的に、ロジャー・ダルトリーのリード・ヴォーカル曲が3曲並ぶので、統一感があります。
9曲目「So Sad About Us」。このアルバムの、と言うより、ザ・フーの全作品中で、マイ・フェヴァリットです。
1978年9月にキース・ムーンが32歳の若さで亡くなった1か月後、The Jamがシングル「Down in the Tube Station at Midnight」をリリースしますが、B面にこの曲のカヴァーを収録し、キース・ムーンに捧げます。(裏ジャケットはキース・ムーンのポートレート)
そして、2000年のロイヤル・アルバート・ホールで、ピート・タウンゼントとポール・ウェラーはこの曲を共演。
コメントは不要でしょう。UKロック好きとしては、夢のようです。
最後の10曲目「A Quick One, While He's Away」は、9分以上ある6部構成の大曲。
組曲風というか、ちょっとしたオペラというか、1966年12月というリリース時期を考えても、かなり先駆的な作品だと思います。
そして、このアイディアを2枚組アルバムのスケールにまで広げたのが、1969年リリースの傑作『トミー』ということになります。
これだけの力作にもかかわらず、オリジナル・アルバムとしてさほど注目されないのは、当時のリリース形態が大きく影響しています。
USでは「Heat Wave」の代わりにシングル曲「Happy Jack」を収録し、アルバムタイトルも『Happy Jack』としてリリース。またヨーロッパ各国では、国ごとに選曲が異なる編集盤『The Who』としてリリースされたようです。
当時は、ビートルズでさえ、US盤は全く異なる選曲・曲順でリリースされていたような時代なので、仕方のないことではありますが、せめてアルバムタイトルだけでも統一されていれば、多少は状況が違ったかもしれないと思うと、残念な話ではあります。
たとえ知名度は低くても、個人的には『フーズ・ネクスト』と同格の名盤としてランキングしている1枚です。
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