The Left Banke / Walk Away Renee/Pretty Ballerina
今回は、所謂ソフトロック系の作品を。レフト・バンクの1stアルバム『Walk Away Renee/Pretty Ballerina』を取りあげたいと思います。
レフト・バンクは、ニューヨークで結成された5人組バンド。
このバンドの特徴は、「バロック・ポップ」と形容される、クラシカルなサウンド。ピアノ、ハープシコード、クラヴィネットを中心とし、そこにストリングスや管楽器が重なるサウンドは、ギター・ロックが中心の時代にあって、かなり特異なものだったと思われます。
1966年リリースの1stシングル「Walk Away Renée」がUS5位、続く2ndシングル「Pretty Ballerina」もUS15位と、幸先の良いデビューを飾ります。
そして、満を持して1967年2月にリリースされたのが、1stアルバム『Walk Away Renee/Pretty Ballerina』です。
...が、US67位とさほど売れませんでした。
しかし、内容は素晴らしいので、ぜひとも多くの方に聴いていただきたいアルバムです。
1曲目は、2ndシングルの「Pretty Ballerina」。
ピアノとストリングスで始まるイントロが、実に格調高い。そして、間奏もフルートとオーボエ(だと思う)の掛け合いが見事です。
そして、2曲目は、私の一番好きな曲「She May Call You Up Tonight」。
2番から入ってくるコーラスが実に心地良くて、何度もリピートで聴いてしまいます。また、かなり動き回るベースラインは、同時代のポール・マッカートニーやブライアン・ウィルソンに強く影響を受けていますね。
B面トップは、1stシングルの「Walk Away Renée」(邦題は「いとしのルネ」)。
ストリングスとピアノに、ハープシコードを重ねているところがポイントで、これが「バロック・ポップ」と呼ばれた最大の要因だと思われます。間奏のちょっと控えめなフルートソロも上品な雰囲気を醸し出しています。
この曲、多くのミュージシャンにカヴァーされていますが、変わったところだと、日本のピンク・レディーのアメリカでのデビューシングル「Kiss In The Dark」(UK37位)のB面は、この曲のカヴァーでした。
続く「What Do You Know」は、一転してカントリー・ロック風。
他の収録曲とのギャップがあまりにも大きくて戸惑ってしまいますが、バッファロー・スプリングフィールドやインターナショナル・サブマリン・バンド等が頭角を現し始めていた時代ゆえなのかも知れません。
「Shadows Breaking Over My Head」では、またクラシカルなサウンドに逆戻り。
かと思うと、ラストの「Lazy Day」は、ファズ・ギターが鳴り響く、サイケデリックなサウンドに。
結構、唐突に終わります(笑)。
個々の楽曲は素晴らしいと思いますし、クラシカルな楽器のみでなく、ビートルズやビーチ・ボーイズに影響を受けたコーラスワークも聴きごたえがあります。
ただ、アルバムとして考えた場合、ちょっと散漫な印象はあります。まあ、最初のアルバムなので、「こんなことも出来ますよ!」とプレゼンしたくなる気持ちは分からなくもないですが。
前年にビーチ・ボーイズが『ペット・サウンズ』をリリースし、このアルバムの4か月後にはビートルズが『サージェント・ペパーズ』をリリースするわけで、アルバム全体で1つの世界観を表現する「トータル・アルバム」の流れに、完全に乗り遅れてしまったということになります。(まあ、『ペパーズ』も、個々の曲自体は結構バラバラですが...)
それに関連して言うと、2枚のヒット・シングルの曲名を並べただけのアルバム・タイトルも、ヒット曲を中心として、そこに新曲を追加してアルバムをリリースしていた古いシステムの名残であり、完全に「時代遅れ」でしょう。
このアルバムの後、バンドは2ndアルバム『The Left Banke Too』をリリースしますが、ヒットとは無縁に終わり、1969年に解散します。(その後、何度か再結成しています)
ちなみに、2ndアルバムにバック・コーラスで参加しているSteve Tallaricoは、後にエアロスミスで大成功を収めるスティーヴン・タイラーです。
短命に終わったバンドではありますが、その後長きにわたり代表曲がカヴァーされていることからも分かるように、彼らが奏でた「バロック・ポップ」が多くのミュージシャンに影響を与えていることは間違いなく、もっと評価されてしかるべきだと思います。