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【プチ研究】 組織のなかのシニア (2) 序列の混乱

 企業におけるシニアの働き方問題の核心は「フィードバックの困難さ」だと要約しました。なぜ難しいのか、さらに調べてみました。原因は序列の混乱、労働観の混乱、生理的変化、の3つに集約できるように思います。

 序列の混乱がコミュニケーション問題となるのは、序列を「横柄とへつらい」というボディランゲージに転換してしまうからだ。解決原理は簡単だ。横柄にもならず、へつらいもせず、役割として序列を尊重する、そういう組織人となることだ。しかし、学校でも職場でも序列によってボディランゲージを使い分ける習慣が根強いので、転換は社会全体の問題となってしまう。

序列の混乱とコミュニケーションの混乱

資料(4)「年上の部下」をもったら読む本、濱田秀彦、2018

 組織内でシニアが厄介者になるのは「上であり下である」からだ。「部下が先輩であり、上司が後輩である」という関係がややこしい状況を生む。

 序列の混乱がコミュニケーションを混乱させるのは、序列を「横柄さとへつらい」というボディランゲージに変換するからだ。少なくとも日本では、

  • 先輩は横柄にふるまい、後輩はへつらう

  • 上司は横柄にふるまい、部下はへつらう

という伝統がまだ生きている。だから人生後半のコミュニケーションが混乱し惨めなものになりがちだ。

エイジズム

資料(5) 高齢者の若年者に対する否定的態度に関連する要因 ー 世代間関係における「もうひとつのエイジズム」、老年社会科学、2019

 普通エイジズムとは高齢者に対するステレオタイプ化された差別のことだ。しかし、日本の職場や介護の現場では逆エイジズムが問題となることが多い。つまり、高齢者による若年者へのネガティブな態度が問題となる。論文では逆エイジズムを悪化させる要因が4つ見つかっている。

接触頻度

  • 若年者との接触頻度が低い高齢者ほど若年者に否定的態度をとる。

  • 先行研究ではこの逆、つまり高齢者との接触頻度が低い若年者ほど、高齢者に否定的態度をとることも観測されている。

職場満足度

  • 職場満足度の低い高齢者ほど、若年者を嫌悪し、回避する傾向がある。

  • ただし、この傾向は職場満足度にかぎられている。全般的な生活満足度が低いことと、若年者を嫌悪・回避する傾向に相関は見られなかった。

※ 職場では「年下の上司」という序列混乱が生じるので、逆エイジズムがより鮮明に現れるということではないだろうか。

次世代への関心

  • 次世代への関心が低い高齢者ほど若年者を回避する傾向があり、世代間の子育て支援などの利他的行動意欲が低い。

  • しかし次世代への関心が高い高齢者は、若年者を回避しないかわりに「最近の若いものは・・」というたぐいの否定的認知を示す傾向がある。

被エイジズム経験

  • 差別を受けた高齢者ほど、若年者に否定的態度を示す。エイジズムが逆エイジズムを生むという悪循環が生じる。

 少なくとも日本のエイジズム問題は若年者と高齢者が互いにネガティブな態度を取り合う問題として再定義したほうが良いのではないか。その根っこにあるのは、先輩が後輩に横柄にふるまい、上司が部下に横柄にふるまう、という学校や職場の習慣ではないだろうか。ひょっとすると、先生が生徒に横柄にふるまうということさえ、影響しているかもしれない。
 序列によってボディランゲージを使い分ける習慣が社会のいたるところに浸透している。しかし社会が流動的になれば、序列も流動的になる。選択肢は2つしかない。

選択肢1: 流動的TPOに応じてボディランゲージも迅速に使い分ける
選択肢2: 序列によってボディランゲージを使いわけることそのものを抑制する

 選択肢1はすでに破綻している。職場シニアの「上であり下である」問題はその象徴だ。これは高齢者だけの問題ではない。学校でも職場でもあらゆる世代にわたって、序列に基づく横柄な態度を抑制しておかないと、この状況は永遠に再生産されてしまう。社会の流動化とともにさらに悪化する。

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