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【プチ研究】 仕事のマネジメント (1) PLAN

背景

 マネジメントの標準定義は「他者を通じてものごとを成す」です(資料4)。しかし、ドラッカー(資料1)は、「マネジメントとは、組織の成果に貢献するためのハウツーだ。部下がいるかどうかは関係ない」という主旨の主張もしています。

 これを「仕事のマネジメント」と呼ぶことにして、諸説を拾い集めてみました。「仕事のマイ・マニュアル」です。

 ドラッカーによれば、基本的なマネジメントの仕事は5つです(資料1 「マネジメントの仕事」より)。

  1. 目標を定め、目標を意味あるものにする

  2. 仕事を分割し、役割を分担する

  3. チームを動機づける

  4. 評価の尺度を定め、評価する

  5. 自らを含めて人材を育成する

部下がいなくても、チームの一員であれば、どれも必要といえそうです。

参考資料

  1. マネジメント、ドラッカー、1973(上田惇生訳、2015)

  2. 新・管理者の判断力、ケプナー&トリゴー、1985(原典「ラショナル・マネジャー」1965)

  3. 全体最適のプロジェクトマネジメント、岸良裕司、2011

  4. 駆け出しマネジャーの成長論、7 つの挑戦課題を「科学」する、中原淳、2021(増補版)、初版2014

  5. OJT完全マニュアル、松尾睦(まつおまこと)、2015

  6. 仕事に関する9つの嘘、バッキンガム&グッドール 、 2020

  7. やらかした時にどうするか、畑村洋太郎、2022

  8. 幸福な退職、スージー鈴木、 2023

  9. 50代からの幸せな働き方、高尾義明、2024

全体像

PLAN

  • 目標咀嚼

  • 意思決定

  • 合意形成

  • 段取り(予見計画)

DO

  • 遅延の予防とバッファマネジメント

  • To-Do管理

  • 問題点管理

  • ホウレンソウ(チェックイン)とYWTM

  • ジョブ・クラフティング

CHECK

  • 実況収集

  • フィードバック

ACTION

  • 学び方(経験学習論)

  • 問題分析

  • 失敗のマネジメント

目標咀嚼: 目的・手段・モノサシ

三人の石工

 三人の石工の話がある。何をしているかを聞かれて、それぞれが「暮らしを立てている」「石切りの最高の仕事をしている」「教会を建てている」と答えた。第三の男こそマネジメントの人間である。

資料1 「自己目標管理」より

 なぜか? 第三の男だけが、組織の目標を理解し、それに自分の仕事を当てはめるからだ。

・・売れない製品の設計図を迅速かつ大量に、しかも見事な出来ばえで書く設計部門ほど意味のない存在はない。

資料1 「マネジメントへの挑戦」より

 無駄な目標は、無駄な仕事を生む。

 組織全体の目標を知り、自らに何がなぜ求められているかを知らなければならない。・・哲学という言葉を安易に使いたくはない。・・しかし、目標咀嚼(MBO:Management by Objevtives and Self-control)こそマネジメントの哲学たるべきものである。

注)資料1で「自己目標管理」と書かれている箇所は、資料4に合わせて「目標咀嚼」に書き換えています。

資料1 「自己目標管理」より

 「組織の目標を理解し、それに自分の仕事を当てはめる(目標によるセルフ・マネジメント)」 これは、すべてのマネジメントの基礎だ。

目標咀嚼の枠組み

 目標咀嚼は「目的・手段・モノサシ」でできている(資料3)。MBOでも、プロジェクトの目標でも同じ。

  1. 目的: その仕事が貢献すべき、上位の目的をすべて書き出す

  2. 手段: すべての目的に最もバランスよく貢献できる実現手段を書き出す

  3. モノサシ: 「何がどれほど達成できたか」を測る尺度を決めておく

 「手段」のところで「組織の視点」と「自分(目標咀嚼する主体)の視点」が交錯する。「手段」とは、組織と自分の交差点だ。

 MBOの「手段」とは「組織目標の達成手段」であり、かつ「自分が実現すべき個人目標」になる。プロジェクの「手段」も「組織目標の達成手段」であり、かつ「プロジェクトチームが実現すべき成果物」になる。組織にとっての手段が、実行主体にとっての目標になる。

少ない手段でたくさんの目的をカバーする

 目標咀嚼の枠組みでは、「目的の数が多く、手段の数は少ない」という傾向が生じる。

 一つの目的に一つの手段を対応させたくなる。しかしそれでは、やることが増えすぎるし、手段同士が邪魔しあう。邪魔しあう手段どうしを調停する別の手段が必要になる。これではきりがない。
 そこで、多様な目的をできるだけ少ない手段で、そこそこのバランスで達成するという戦術が必要になる。つまり少ない手段でたくさんの目的をカバーする。

 その後、手段を実行しようと思うと、工程分解が必要になる。ここで再び To-Do が増える。ただし工程の分解は順序が大事になる。目的に順序は必要ない。逆に言えば、順序が気になる目標は、もっと大きな目標の工程分解でもある。

 「目標展開」という言葉や、大きな目標を細かく砕いて部下に分配するという思想は、「目標咀嚼」と「工程展開(段取り)」をたぶん混同している。

 新入社員であっても、会社の目的全体を知り、自分が貢献できる目的(複数)は何か、どうやって複数の目的のバランスを取るのか、納得する必要がある。たとえば、生産性、品質、安全などはいつでもバランスさせなければならない。

意思決定(DA): 目的・選択肢・リスク

意思決定の枠組み

 多様な目的をそこそこのバランスで達成する手段を、複数の選択肢から選びとる。これが意思決定だ。その枠組み(DA: Decision Analysis)は1960年頃、ケプナーとトリゴー(KT法)によって明らかになった(資料2)。原理は〇✕△の比較表だ。

  1. 目的: その選択が貢献すべき目的をすべて書き出す。

  2. 選択肢: 複数の目的にバランスよく貢献できるであろう、おもな選択肢を書き出す。何もしないことも選択肢に入れておく。

  3. リスク: ある選択肢を選んだときに生じるおもなリスクを書き出す。ただし、リスクは選択肢ごとに異なることが多いので、選択肢をある程度絞り込んでから書き出す。

選択肢の絞りこみ: 「目的  x 選択肢」のマトリックスに評価を書き込む。〇✕△でもかまわないけれど、目的の優先割合と達成割合を勘案して点数化できると議論がしやすい。スコアの大きさで、選択肢を三つくらいに絞る。

リスク評価: 絞り込んだ選択肢それぞれにどんなリスクがあるか評価する。最終的には「達成度スコア」と「リスク評価」のバランスを見比べて主観(経験に基づく予測)で決める。

 一目瞭然の意思決定にこのような手間をかける必要はない。迷ったときの分析に使う。

目標咀嚼と意思決定の関係

 目標咀嚼(目的・手段・モノサシ)には、「手段」の決定という、意思決定が必要になる。

目標を設定するには3種類のバランスが必要である。・・(リスクと)利益・・現在と将来・・異なる(複数の)目標、・・(これらを)バランスさせなければならない。・・リスクを伴う起業家的な決定とならざるをえない。

資料1 「目標の設定とその実行」
目標咀嚼と意思決定の関係

 意思決定すれば、モノサシも自動的にできあがる。目的の達成度を見積もるときにスコアリングするからだ。モノサシを見つけるのに苦労することはよくある。しかし、意思決定している以上、モノサシは必ずある。言語化することが困難なだけだ。

合意形成

意思決定は合意形成をともなう

 もちろん、会社で高い地位に居る人ほど、職権で自分の意思決定を押し通すことはできる。しかし、乱用すれば孤立し、裸の王様になる。
 良くも悪くも、日本では合意形成を重視しがちだ。ドラッカーは50年前、そのことに注目した。

 日本について見解の一致があるとすれば、・・コンセンサスによって意思決定を行っているという点である。・・(同時に)日本の歴史で際立った特徴となっているものが、難局における180度の方向転換の能力である。・・われわれが決定と呼ぶ段階に達したとき、日本では行動の段階に達したという。・・欧米では、決定後、その決定を売り込み、実行させなければならない。実行されないことさえある。・・日本の方式では、意思決定の売り込みに時間は要らない。すでに関係者全員に売り込んである。

資料1「意思決定」より

 日本の風土形成が縄文時代にさかのぼるとして、1万6千年くらいの歴史がある。それが直近50年ですっかり入れ替わったと考えるのは非現実的だ。「合意形成の迅速化」を磨く。

目標咀嚼も合意形成をともなう

 目標咀嚼も意思決定だから合意形成をともなう。合意にいたらずとも、上司と部下の相互理解は必須だ。

 目標咀嚼こそコミュニケーションの前提となる。・・部下の考えが、上司の期待どおりであることは稀である。・・目標咀嚼の最大の目的は、上司と部下の理解の仕方の違いを明らかにすることにある。・・部下は、目標咀嚼によって他の方法ではできない経験をする。この経験から、意思決定というものの現実、優先順位の問題、なしたいこととなされるべきこととの間の選択、そして何よりも意思決定の責任を知る。・・部下は・・上司の立場の複雑さを理解する。さらには、その複雑さこそ上司の立場に固有のものであり、しかも上司が好んでつくり出しているものではないことを理解する。

注)資料1で「自己目標管理」と書かれている箇所は、資料4に合わせて「目標咀嚼」と書き換えています。

資料1「コミュニケーション」より

 いつもは、頭の中で直感的にやってしまう。一目瞭然の意思決定をわざわざ図解するのは、無意味な遠回りだ。しかし、合意形成や相互理解が難航するときには、図解して分析するほうが早道になる。

  • 貢献すべき目的群の想定がズレている

  • 目的群に配分した優先割合がズレている

  • 目的達成度の見積もりがズレている

  • リスクの見積もりがズレている

合意形成が難航するのは、このようなズレが言語化されていないからだ。そのような場合に目標咀嚼と意思決定の図解が有用になる。どこがズレているかを互いに理解するからだ。

 合意形成に役立つ枠組みがもうひとつある。TOC(Theory Of Constraints)では「変化の4象限」と呼んでいる。

変化の4象限

 「やる」に反対する人は「やる」ことのデメリットを心配していることが多い。しかし、「やらない」ことにもデメリットはある。この全体像を俯瞰したうえで、最後は主観で決める。
 意思決定の選択肢に「何もしないこと」を入れておくと、変化の4象限と同じ議論ができる。

  • 目標咀嚼(目的・手段・モノサシ)

  • 意思決定(目的・選択肢・リスク)

  • 変化の4象限(やる・やらない・メリット・デメリット)

 ほかにあるかもしれないけれど、自分の使いやすい枠組み(フレームワーク)を身につけて、意思決定と合意形成をサイクリックに実現する。サイクルを早く回せば、合意形成は迅速化する。

意思決定と合意形成の循環

段取り(予見計画)

 要は工程図のこと。段取り(資料3)とか、予見計画(資料5)とも呼ぶ。スムーズな実行(DO)の大半がここにかかっている。

 そして(PLANの)最後の段階が・・行動である。・・具体的な(タスクの)目標、期限、担当を含む実行計画である。・・実行に移さなければ・・夢にすぎない。

資料1 「目標の設定と実行」

 まず、目的の達成手段を実現するための最終成果を書き出して、そこから逆算して(右から左へと) To-Do を書き出していく。念の為、順方向でも(左から右へと)確認する(資料3)。

目標咀嚼から逆算工程図へ(段取り、予見計画)

 経験の差がもっとも現れるのはこの逆算工程図(段取り・予見計画)だと言われている(資料3、5)。ベテランが苦もなく複雑な手順を応用自在にやってのけるのは、瞬時に工程図を頭のなかで組み立てているからだ。初心者がいきなり真似することはできない。複雑な仕事は、フローチャートやガントチャートに書き出して、着手前にシミュレーションする。段取り力はシミュレーションで鍛錬する。


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