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【プチ研究】 仕事のマネジメント (2) DO
参考資料
マネジメント、ドラッカー、1973(上田惇生訳、2015)
新・管理者の判断力、ケプナー&トリゴー、1985(原典「ラショナル・マネジャー」1965)
全体最適のプロジェクトマネジメント、岸良裕司、2011
駆け出しマネジャーの成長論、7 つの挑戦課題を「科学」する、中原淳、2021(増補版)、初版2014
OJT完全マニュアル、松尾睦(まつおまこと)、2015
仕事に関する9つの嘘、バッキンガム&グッドール 、 2020
やらかした時にどうするか、畑村洋太郎、2022
幸福な退職、スージー鈴木、 2023
50代からの幸せな働き方、高尾義明、2024
全体像
PLAN
目標咀嚼
意思決定
合意形成
段取り(予見計画)
DO
遅延の予防とバッファマネジメント
To-Do管理
問題点管理
ホウレンソウ(チェックイン)とYWTM
ジョブ・クラフティング
CHECK
実況収集
フィードバック
ACTION
学び方(経験学習論)
問題分析
失敗のマネジメント
遅延の予防とバッファ・マネジメント
遅延の原因
おもに4つありそうだ(資料3、8)。
待ち時間
リソース重複
想定外のトラブル
夏休み症候群
待ち時間
会社の無駄のほとんどは、前工程からの情報や成果物を待っている待ち時間ではないかと言われている(資料8)。
自分のタスクを開始するために必要な情報は何か、明らかにする。
必要な情報や成果物はこちらから取りに行く。
企画業務では完璧な情報集めは無理なので、ある程度の情報をもとに「意思決定と合意形成」のサイクルにさっさと着手する。サイクルの回転速度を上げる。
リソース重複
機能的に並列可能なタスクでもリソース重複(ボトルネック)があると順序制約(つまり待ち時間)が生じる。希少な専門家や高価な設備は複数のPJからタスクが集中するので、リソース重複が生じやすい。
そもそも、段取り段階で、リソース重複しやすい工程を見つけておく。割り込みスケジュールを確保する。貴重な施策設備や測定機の予約など。
実は、経営会議や役員も希少リソースなのだが、忘れがち。早めに議題登録、面会予約する、など。前段取りはそこから逆算する。自分自身がタスク渋滞の元凶にならぬよう、To-Do 管理を励行する。優秀な人ほど、どんどん仕事が流れ込んでくる。忙しいのを自慢にしない(自分がボトルネックであることを自慢にすることだから)。渋滞を感じたら上司やチームメイトに相談する。自身の To-Do リストが整理できていれば、相談が楽に早く具体的にできる。
自分の前後の工程で、タスク渋滞が発生している人や設備がないか目配りする。渋滞が見つかったら、上司やチームに注意喚起する。
想定外のトラブル
精神論で頑張っているとズルズル遅れる。早めに上司やチームメイトに相談する。
ところで、自分が直面している事態は、想定内なのか、想定外なのか? どうやって判断するのだろう?
多分、段取り力と関係する。ベテランは段取り(予見計画、こうやればこうなるはず)が頭に入っているから、それをもとに想定内/想定外の判断が上手にできる。ところが、初心者は段取りが曖昧だから、見通しのないままに頑張ってしまう。やはり段取りをたてて、着手することが基本になる。
夏休み症候群
自分のタスク日程にバッファ(余裕日程)を隠し持っておきながら、着手の先延ばしでバッファを無駄使いする。自分のためにもチームのためにもならない。タスクの見積もり精度をあげて、過剰なバッファを個人持ちしない。WIP(Work In Process)ボード(工程カンバン)やToDoリストを活用して、仕事の整理整頓を励行する。
夏休み症候群の心理的理由も分かっている(資料3)。タスク完了までの時間の確率分布は対数正規分布のようだ。これはTOCだけの主張ではない。体重、都市の人口、所得、介護期間など、人間にかかわる統計の多くは、正規分布ではなく対数正規分布に近いらしい(統計分布を知れば世界が分かる、松下貢、2019)
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要は右裾がべらぼうに長い。だから、責任感のある人ほど、長めのバッファを取りたくなってしまう。ここまでは善意でやっている。しかしバッファがあると安心して、締切から逆算してギリギリの日まで着手しない。そこで、想定外のトラブルに出くわすと、せっかく確保したバッファは無駄になり、期日に大幅に遅れてしまう。これでは「責任感の強いナマケモノ」だ。
バッファマネジメント
タスク完了時間の分布からわかるように、仕事では想定外のことが必ず起きる。だから、仕事にバッファ(余裕日程)は必須だ。
ところが、右裾がべらぼうに長いので、タスクごとに十分な安全率でバッファを取って、それを工程図に沿って足し算すると驚くほど大きすぎるバッファを持つことになってしまう。めったに起きない遅延が、すべてのタスクで発生したときにだけ必要となるバッファを持つことになるからだ。
だから、各タスクはベストエフォートで見積もる。工程全体で共有バッファをもち、工程全体の責任者が管理する。これが、誰にとっても快適なルールとなる。工程図上で共有バッファを置くとしたら、工程の終点と、おもな合流点に置くのが基本のようだ。
ただし、マネジャーが担当者の些細な遅延をガミガミ叱責すると、担当者は個人的なバッファを再び隠し持つようになってしまう。このあたりは、マネジャーと担当者の人間関係だから、対話をつうじた調整が必要だ。
担当者としては、自分のタスクバッファをどれくらい隠し持つべきか? マネジャーの人となりを勘案して、チームワークと自身の安全性のバランスで決めるしかない。
マネジャーとの信頼関係がそこそこあるならば、早めのホウレンソウによって、タスクバッファを過剰にもつ必要がなくなる。つまり、ホウレンソウの品質と頻度が良好であれば、タスクバッファは一般に小さくできる。
To-Do 管理
仕事は縦に並べる。つまり、着手順位を決めて、ひとつずつ片付ける。
達人は一見マルチタスクに見える。しかし実は、複雑な仕事を、1時間とか、半日とかの作業に切り分けて、縦に並べて順番に処理している。段取り力のある達人にはこれができる。整然とやっているのでマルチタスクに見えるだけだ(資料3)。
割り込み仕事は常にある。「何分かかるかをまず判断する。〇〇分以内の仕事は、その場で片付ける。それ以上かかる仕事は To-Do リストに入れて順番を決めて片付ける」という達人の秘訣を聞いたことがある。
達人は仕事の完成に必要な最低限のラインをまず見抜く(65点主義)。締め切りを守るための「抜け道は必ずある」という信念で、逆算思考で段取りを工夫する(資料3、8)。
スマホについている To-Do アプリを使えば、WIPボードと同じセルフマネジメントが、簡単にできる。
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問題点管理
担当する仕事が大きく複雑になると、個人的な To-Do 管理では間に合わなくなる。問題点一覧表で実況をモニターする。
オープン: 問題を発見した日
クローズ: 問題を解決した日
内容メモ: 「何が起きている(起きそうだ)、対策はこうする」など
担当者: チームで仕事をするときは、問題ごとの担当者名を記入する。これが空欄だと、そもそも解決するはずがない。同じ人の名前ばかり並んでいれば、その人はパンクしている。
この程度の内容をスプレッドシートに書き込んでおく。問題点が増えすぎた場合は、問題ごとの重要性をスコアリングしてソートできるようにする。
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ホウレンソウ(チェックイン)とYWTM
ホウレンソウは幅広い目的を含んでいる。
文字どうり、業務の報告・連絡・相談
優先順位の調整
想定外の事件や失敗の第一声
上司との相互理解や信頼関係の構築
仕事のリフレクション(ふりかえり)
エンゲージメント(仕事に対する前向きな気持ち)向上、など
1対1のホウレンソウのことを海外ではチェックインというらしい。15分程度のチェックインを、週一回続けるチームはエンゲージメントが向上するという調査結果もある(資料6)。
簡潔に、端的に話す、うまくできないときは事前にメモしてから、話す
短いクッション言葉を活かす 「ちょっとよろしいですか・・」「考えみたんですけど・・」など
TOCが推奨しているYWTMの枠組みは、簡単なのでおすすめ。
Y:やったこと
W:わかったこと ここがわからないとか、ここがモヤモヤする、といったことも含む
T:次にやること
M:そのメリット 例「そうすれば、3日以内に終わるはず」など、MはモノサシのMでもある
日報や週報などのフォーマットが決まっていない場合も、YWTMに沿って書けば迷わずにすみます。
ジョブ・クラフティング
仕事を嫌々やっているとバーンアウト(燃え尽き症候群)のリスクが高まる。2割くらいの時間、好きな仕事に没頭できれば、リスクが格段に低下するという調査結果がある。仕事に愛着を持つ人は、計画的に好きな仕事に就いたというよりも、仕事をやっているうちに好きな業務を見つけ、それが増えるように工夫を重ねるらしい(資料6、9)。
与えられた仕事を、好きな仕事に少しずつ変えていく作業をジョブクラフティングという(資料9)。好きになる可能性のある仕事は三種類ある。
好きなこと: 時間を忘れて没頭するような仕事
得意なこと: よく周りから頼られたり、褒めてもらったりする仕事
つらくても逃げないこと: 一見やりたくない仕事なのに、いつもやり遂げているような仕事(実は、自分の価値感や使命感に響いているのだが、言語化できていないだけ)
好きな仕事を増やすための視点も3つある。
仕事の目的や役割(何のためにこの仕事があるのか)を解釈しなおす
仕事への取り組み方(分担、手順、品質など)を見直し、工夫する
仕事に係わる人々との関係性やコミュニケーションのやり方を見直し、工夫する
たとえば、品質管理業務や監査業務では「事後的な取り締まりに嫌気がさす」ことがある。そういうときに「人々を取り締まる」ことではなく「人々がルールを守れるようサポートする」ことに再定義する、など。