京大ロー3年後期授業雑感
ご無沙汰してます、後期は大半選択だし全部テストで大丈夫だろと高を括っていたらまたしても地獄を見た凡骨です。おかげで試験期間から成績発表までの1か月で5㎏くらい痩せてました。でもね、人は同じ過ちを繰り返す様に見えるけれど、因果は決して円環ではない、螺旋なのですよ。
なにはともあれロースクールも無事に修了と相成りましたので、最後の授業雑感をつらつら書き綴っていきたいと思います。
刑事訴訟実務の基礎
主に捜査と裁判の手続全般を扱います。公判前整理手続や異議、釈明などの細かいことばかりなのかと思いきや捜索差押や訴因等に関する理論的な争点も意外と詳しく勉強しないといけなかったので、授業のイメージとしては予備試験の刑実にローの刑訴総合を混ぜたような内容だったという印象です。
授業ではレジュメの大量の細かい問いをひたすら潰していきます。進め方は先生により異なるようですが、私のクラスを担当したNKGW先生は基本的に全ての問いを席順に当てていたので毎回ほぼ全員が先生と問答していました。(にもかかわらず毎回延長せずほぼ時間ピッタリに授業範囲を終わらせていたのはさすが元裁判官の訴訟指揮といったところでしょうか…)
レジュメでは様々な参考文献が提示されているうえに難解な質問もみられますが、基本的には普段使いの刑訴の教科書と定石本で対策は充分だと思います。授業資料の総量が膨大で復習が容易でない一方、重要なことはだいたい定石本に書いてあるので、まずはこれをメインに使いつつ必要なときにだけ更に詳しめの文献にあたる程度に留めておくのがいいんじゃないでしょうか。
期末試験では事実認定が1問、捜査・公判・証拠から手続に関する問題が2問ほど出題されます。手続については毎年1問くらいレジュメの非常に細かいところからの出題があり、中には自習課題がそのまま出た年もあるので、早めに過去問を確認して出題されそうな問いにアタリをつけて別途ノートに切り抜いておいたり定石本などに加筆しておくのをおすすめします。
このほか、3~4回ごとに簡単な課題の提出が求められますが、その際に使用する事件記録教材が品切れになり課題を出せない人が続出したため提出期限が変更になるという事件が起きたので、指定教科書のうちプロ刑プラ刑はともかく事件記録教材は早めに入手しておきましょう。
弁護士実務の基礎
弁護士の実務家教員と一緒に訴状と答弁書の書き方や尋問技術などを勉強します。また、ラスト3回は刑事弁護を専門に扱われている先生をお呼びして、接見時の対応や証人尋問のポイントなどを解説してもらいました。授業では主に原告と被告チームに分かれたうえで起案や主尋問・反対尋問のロールプレイを行うほか、その場で渡された賃貸借や交通事故などの事例をもとに討論して裁判上の主張内容を考えるといった問題研究の回もあります。
期末試験は毎年違う先生が作成しているのもあってか講義内容とはほとんど関係のない問題が出題されます。ちなみに令和5年度は珍しく講義内容を確認しておくよう指示があったものの、なんだか2L前期の民実みたいな問題がでました。一応要件事実くらいは復習しておくといいのかもしれません。
ちなみに、見本として先生が裁判で実際に行っている尋問を実演していただいたことがありましたが、普段ニコニコ優しい先生の豹変具合を目の当たりにして弁護士とは斯くも恐ろしい戦闘民族 凄い職業なのだろうかと呆気に取られてしまいましたね。
民事執行・保全法
民事執行法と民事保全法を概観する授業で、講義形式かつ筆記試験一発ということもあってか履修者は多いものの、ところどころ高度な内容が含まれており難解と名高い(?)ことで有名です。
もっとも実際履修してみてどうかといえば、高度な議論に惑わされず教科書と条文を何度も読み返して初歩的な理解を盤石にしていけば充分到達目標を達成できるんじゃないかと思いました。
期末試験は執行保全の両方を基礎から応用まで満遍なく問うてくるので、配当とか細かいから適当でいいやなんて思ってると恐らく痛い目を見ます。また、非常に紛らわしいのに全く違う制度が数多く存在しており、それらを混同した状態でいると全くの頓珍漢な解答になるので、条文の文言の区別(訴えor申立て)や制度主旨(いつ・誰の・どんな不都合を救済するための仕組みか等)の違いなどを正確に把握しておくことを強くお勧めします。問題の難易度も初歩的なことから考えたことも無い論点まで幅広く問われており、まずはどの教科書にも書いてある基礎的なことを絶対に落とさないようにこれと決めた一冊を隅から隅まで徹底的に覚えきりましょう。
教科書はアルマか和田先生の青い本を使う人が多いと思いますが、中野先生の民事執行保全入門も事例が豊富で読みやすく、この2冊が合わない人におすすめです。このほか、平野哲郎先生の 実践民事執行法民事保全法 も短い演習問題と解説が沢山掲載されているので、そこを参照するだけでも執行保全では貴重な演習書になってくれるでしょう。レジュメは網羅的ではあるものの記述が端的すぎて初見では何一つ理解できないので、まずは易しめな教科書を何度も読んでから記憶を再起するように使用すると全範囲を短時間で復習できて便利でした。結局は最もオーソドックスな勉強が最も有効ということなんでしょうかね。
(余談ですが、直近数年の過去問を見る限りでは毎年必ず1問は和田先生の本には記述がないか解答には薄すぎる論点が出題されてる気がするんですが、これ百選本体をちゃんと読めというメッセージなんでしょうか…)
経済法2
百選掲載判例の検討を中心に経済法の全範囲を扱います。毎回事前に検討する事例や教科書の範囲等を告知したうえで適時問答を行いますが、基本的には講義形式で授業は進みます。初回にアナウンスされるように司法試験選択科目にする予定の無い人には少々手に余る内容も含まれているため、つまみ食い感覚で履修すると講義内容を消化しきるのに難儀するかもしれません。もっとも、講義自体は非常に分かりやすく復習用の録画配信などサポートも充実しているうえに論点解析経済法のような演習書もあるため、自分なりに勉強を進められるなら単位の心配はないと思います。
期末試験は基本的には大問2つで、試験期間の少し前あたりに出題範囲が指定されました。授業で扱う内容に比べると相当範囲が絞られるうえに、事例問題への取り組み方や答案作成上のポイントは普段から講義で詳しく解説されているので、試験勉強はスムーズに進められるでしょう。私は論点解析経済法のほかに一応ストゥディアを読んだり指定されている教科書を参照したりしていましたが、恐らく経済法1を履修した人なら論点解析をまわして講義を聞きつつ指定された試験範囲に該当する論点と事実評価のポイントを確認しておけば充分じゃないでしょうか。
倒産処理法2
倒産処理法1で扱わなかった個人破産に加え、小規模個人再生を含めた民事再生法全般、会社更生法などを扱います。
倒産処理法1に比べて扱う分量が格段に増えており、更に民事再生法の学習では破産法の基礎的な理解が前提になる場面が多いため、どうしても勉強量は相応に多くなってしまいます。在学受験を目指す2回生にしても要卒単位を揃えたい3回生にしても、倒産法選択の人以外にはちょっと負担が重すぎるかもしれません。
期末試験については、KSI先生が担当される年はほぼ司法試験の過去問そのものか更にプラスαな内容の問題、YMMT先生なら実質的な一行問題が数問、今年度のようにAOK先生だと細かい小問でひたすら条文とその趣旨を比較して説明させる問題になっており、担当される先生次第でかなり傾向が変わるようです。R5前期はKSI先生だったので司法試験過去問を解いて処理パターンをストックするのでも充分対処可能だったものの、後期のAOK先生は通常再生と小規模個人再生や会社更生法との手続的な違いを細かく問うてくる問題だったこともあり、前期のような論点重視の勉強では対処が困難だったと思います。そもそも民事再生法は司法試験でも頻繁に他法との比較が求められているので授業に特化した学習が別途必要になる訳ではないでしょうが、比較対象としてメジャーな破産法だけではなく小規模個人再生や会社更生法との間でも各種の制度趣旨や手続内容の違いを可能な限り詳細に把握しておく方が良いかもしれません。
授業と司法試験対策との兼ね合いでは、野村先生の倒産法(同じ野村先生の講義でない方)が薄くて取り回しが良い上に非常によくまとまっており、更に司法試験に出題された論点は大半言及されています。また、後半にまとめられているコラムではトピックごとに破産と民再・法人と個人・それらと会社更生法との関係等を制度趣旨から説き起こして横断的に整理しているので、司法試験対策としても授業のお供としてもおすすめです。ただし、記述は若干薄めなので何か補完できる一冊を用意しておくと安心かもしれません。
企業法務2
企業法務をご専門にされている弁護士の先生が担当されており、会社訴訟をはじめ契約書の作成や株式発行などの一般的な業務に関連する諸問題に加えて倒産事案や環境汚染問題、労働問題といった企業が活動するうえで生じうる様々な分野の法律上の問題について講義形式で解説していきます。
配布されるレジュメは各回のアウトラインに関連事項を簡潔にまとめたものになっており、参考資料と講義で話を膨らませていくような流れで授業は進みます。ただ、要所要所で実体験を交えつつお話されるのもあってか他の講義形式の授業のように順序だてて論理展開を追うような構成にはなっておらず、少々ノートがとりにくいように感じました。
期末試験は事前に出題範囲が指定されますが、第何回というものではなく、「不動産取引」や「企業の情報管理」といった特定のテーマ単位で指定されます。そして、授業では一度扱ったテーマが別の回で関連事項として再登場することが多々あり、この場合には回を跨いで該当部分の全てが試験範囲ということになるので注意が必要です。
指定の教科書はないので試験勉強は主にレジュメや資料を確認することになりますが、先述のようにノートがとりにくいうえに講義中に言及されても詳細が資料に載っていない判例も多々あり、参照された条文を都度マークしたり各々で判例解説をネットで検索するなどして対処することになろうかと思います。採点自体は甘めなのもあって、中には無対策で乗り切る人もいるようですが、しっかり対策しようとすると相当しんどいです。私は友人に資料を共有してもらったり要注意な条文を教えてもらえて命拾いしたので、何人かで情報交換できるようにして授業に臨むのがよいかもしれません。
出題される内容については、単純な会社法の条文知識が問われたり、依頼者の質問に対して弁護士として解決方法や救済手段を提案することが求められたりします。環境問題や労働問題などの論点は授業では扱っているものの履修者の知識量に大きくバラつきがあるため出題しにくいようで、基本的には民法・民事訴訟法・会社法の知識を前提にした問題にしているとのことでした。
現代法理論
教育格差や貧困などの社会問題や裁判官の恣意的判断抑止といった様々なテーマを題材に、政治学や法社会学などでの議論を織り交ぜつつ現代社会における法のあり方や果たすべき役割を論考するという内容で、いわゆる法哲学の授業ですね。
講義では基本的にレジュメに基づき教科書の内容を解説していき、直接の問答はないものの任意提出のリアクションペーパーに書かれた履修者の疑問点や教科書の論考に対する批判に対して先生が応答するという部分が多くを占めています。リアクションペーパーには単なる感想でも長文の批評でも何を書いてもよく、漫然と教科書を読むより格段に理解が深まるうえに平常点でも考慮されるので積極的に提出しましょう。
期末試験では教科書からランダムに3つのテーマとその関連資料が提示され、任意の1つを選択したうえで講義内容を踏まえつつ自由に論評することが求められます。教科書の該当部分の要約にとどまらず更に批判的な指摘が出来るとなおよく、つまるところリアクションペーパーを長めに書くだけの話なので普段から積極的に提出していれば特段の試験勉強は不要とのことでした。試験では個人的に関心のあるテーマが出たもので調子に乗って好き勝手書き散らしてしまったのに割と良い点数が来たので、教科書での議論の概要を把握さえしていれば本当に何を書いても大丈夫だと思います。
近代日本の社会変動と法1
明治維新から現代までを扱う法制史の授業です。講義としては日本史の授業みたいですが、歴史上の出来事が法制度の形成や変動に与えた影響を当時の社会情勢に照らして分析することに主眼が置かれています。また、民法や刑法など私たちが普段学習している法令の成り立ちから今に至るまでの経緯を辿るということもあって、特に憲法の統治分野などは下手に基本書を読むより理解が深まるんじゃないでしょうか。ちなみに今年度から講義を書籍化した教科書が登場しました。個人的な興味と相まって滅茶苦茶面白かったので、勉強にも息抜きとしても買って損はないと思ってます。でも社長もうちょっと安くなりませんか?
期末試験では、履修者全員が解答必須となる判例評釈問題のほか、未修1回生とその他の履修者でそれぞれ異なるテーマに関する自由記述問題が出題されます。いずれも初見の判例や課題文がでてくるので講義内容が試験問題に直結する訳ではありませんが、授業で扱った事件や裁判が判例評釈の際に考慮すべき背景事情になっていることが多く、レジュメの年表や事件名に注意しておくと解答する上でのヒントになると思います。
受験にあたり紙媒体ならば何でも持ち込み可能なので、試験会場では自習室から引っ越してきたような教科書ビル群を築き上げている人がよく見られます。もっとも、判例評釈は明治や大正時代の古い判例なので漢文みたいな文章で読解に難儀しますし、今年度の自由記述では任意の判例を挙げて論評することが求められてもいたので、辞書や判例集など持ち込める物は何でも持ってきた方が良いかもしれません。
アメリカ法
アメリカ合衆国憲法の成り立ちや連邦最高裁判例の変遷のほか黒人差別や陪審員制度の歴史などを主に扱います。アメリカ法の判例といっても比較法学というよりはアメリカの社会問題を憲法と関連付けて歴史的に考察することが主たる内容となっており、1〜2回ほど陪審員制度について日本の裁判員制度との比較があった以外は大半が英米法の特徴や法制史に近い講義でした。
授業は講義形式で、教科書の指定はありません。WLJで事前に配布されるレジュメは講義録のような作りになっており、基本的にはこれとノートを何度も読み返すことが学習の中心になると思います。
期末試験は、設問自体は授業で登場した判例の評釈や現代の司法制度の問題点といったオーソドックスな作りになってはいますが、単にレジュメの内容を覚えて論述するだけではなく背景にある社会情勢や判例が社会に及ぼした影響なども含めて幅広く言及する必要があるようで、講義内容を深く理解した論述が求められるということでした。
個人的な関心もあって今期で1,2を争うくらい面白い授業だったと思っていますが、先述のように講義録形式のレジュメなので復習すべき分量が多いことに加え、要求されている解答の水準が高く採点もやや厳しめなことから、アメリカの法制度や政治などに関心があるのでなければ万人におすすめできるわけではないかもしれません。
授業雑感は以上です。最後までお読みいただきありがとうございました!