「炎上CMでよみとくジェンダー論」瀬地山角
ジェンダー論の入門書を探していたら行き着いた本。いわゆる「せっちー」の本だけど、在学中は他に興味のある講義があったのでこの講義はとらなかった。けど、本書を読み「とっておけば良かったー」と後悔。きっと笑いを意識した講義だろうなと思うし、本書に学生の声が複数登場することからも分かるようにせっちーは双方向で議論を進めるんだろうなと思います。確かに同級生にも評判良かったわ。
書名が「炎上CM」から始まるので広告論なのかな?と思いきや、きちんとジェンダー論入門編といった新書になっていて安心。しかも、炎上CMを批判するだけの内容ではなく、似た内容なのに炎上しなかったCMを取り上げ、ジェンダー論的になぜそちらは問題ないのかまで解説してくれるので「ジェンダーをガタガタ論じるやつはケチつけたいだけなのでは?」というライトな心理的抵抗層にも読みやすい内容かな。
本書の中で筆者が批判する「異質平等論(男と女は違うけど平等。それでいいじゃん?)」と「言葉狩り的にあれもダメ、これもダメと言ってるだけ」という議論、見事に私も同じ考えをもっていました苦笑
後者については、fireman→firefighterなどの言葉の変遷を例にきちんと反論されたという印象。
だけど、前者についてはまだ私の中にくすぶっています。男女が違うということについても、けれども平等だということについてもせっちーは否定していないように思います。ただ、そうした考えはとにかく男女二元論での思考に直結しがちだと批判するので「そうかぁ?」という感想。ちなみに、「女性ならではの視点が必要だから審議委員に女性を入れようという発想」とか「性別にかかわらず働けるようにする施策をいまだに『女性活躍』と呼んでる人」、せっちーと同じように私も苦手です笑
個人的にあまり抵抗のない異質平等論が本書冒頭に出てくるので「ジェンダー論は学問ではなくイデオロギーでは?」と疑問を抱きつつ読み進めたのですが、CMという実例とともに論を進められるとよく理解できるようになりました。それでも、私はまだ本書を読みたいと思うぐらいには受け入れ素地がある人間だからこの感想なわけで、いわゆる「岩盤保守」みたいな人たちはめためたに批判しそう、、、
「男性の方が理数系が得意」はタイやヨルダンでは真逆の結果だったり、某県進学校の地元国立大に現役で行くのは女子学生の方が多いのに、東大京大に行くのは男子学生が圧倒的におおいというデータだったり、分かりやすいからこそ結構ショッキング。また、本書でもとりあげられていた、単数形のtheyはりゅうちぇるの死を報道するBBCの記事でも使われていて、私が良書の定義とするところの「日常の景色が読後に変わって見える本」に当てはまりそうな一冊でした。
家族の形は常に崩壊を続けているというのが家族社会学の常識というのは、これから家族を築いていく人たちにとって勇気付けられる一言かも。
それにしても、このジェンダー学とか家族社会学とはどういう学問なんだろう。現在起こっていることを観察して分析する学問なのか、それとも、マイノリティの苦しみに呼応してこれからのあるべき規範を定立していく学問なのか。これがこの学問の常識!とか言われても、その学問の性質が分からないのでイマイチ納得感なかったかなぁ。
それと、女性同士のカップル+子どもという家庭を描いた台湾の醤油メーカーのCMを「一歩先行く」などと表現するのはどうなんだろう?これは本書に限らず前々から抱いている違和感なんだけど、自分たちの価値観を進んでいる・従来の価値観を遅れていると何の疑問も無しに評する感覚は、対立する人たちの反感を買うことはあっても味方にすることはなさそう。本書の内容に共感するところが多いだけに、そこは残念かな〜