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秋短歌|自選ハ首
令和六年長月
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あの雲に
鍵を付けたいと
眺めてた
鍵を掛けずに
扉を閉めた
あの人を
忘れ物して
見上げたら
三日月も泣いた
秋の夕暮れ
眠れない
夜から朝が
来ないのは
見つからない
月が誘拐犯
いずこから
三線流れ
紅葉(もみじ)散る
惜しむ別れの
秋風の宵
あの夏の
浴衣姿に
溶かされて
勘違いして
夏風邪をひく
盃に
映る名月
しみじみと
飲み干す酒に
君の行方も
諦めた
君が単衣を
仕舞う夜の
飾るススキも
酔えばと誘ふ
独りでは
咲けない花も
あるからと
温もりが欲しいと
言われても
令和六年神無月
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嘘なんて
いつでも言える
あの人に
「好き」も言えない
愛してるのに
紅葉の
舞い散る夜に
埋められた
秘密や嘘や
涙の死体
さよならと
言い続ければ
この涙
さくら咲くまで
流せられたら
「もう行くね」
呟くキミの
聲がして
目覚めた朝は
偏頭痛から
時計の
針は逆に
回らないよね
あの夏が来る
なつはキライだ
珈琲を淹れ
交わす会話の
「よく晴れた
どこへ行こうか?」
揉める行き先
思いがつきない
夜明け前に
この街を
去ることにする
夢をみる
おぼろげに
湧く呼ぶ聲に
誘われて
モノクロの
記憶にたどる戀
令和六年霜月
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言われなき
物語ですと
言ふキミが
言われなき事
また繰り返す
追い着けなかった
誕生日
今日からは
俺が先輩ですと
威張ってみた
立ち止まり
見続けるのか
通り往く
秋をいつまで
歳も重ねず
言えなくて
持ち帰へった
サヨナラは
聖夜の権(そり)で
届けに来てよ
とどかない
想いを秘めて
火祭りは
雪の降る夜に
燃え淳(かす)になる
呼んだから
振り返れば
冬の聲
別れ話を
夏としていた
行先に
辿り着けずに
散りました
半歩踏み入れ
悔む黄泉から
ひたすらに
咲き続けても
煽る風
振り向けば
冬枯れの迫りて