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ひとり夜咄

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記事一覧

ひとり夜咄6 「逝った友」

ひとり夜咄6 「逝った友」

あの日から十年の歳月が過ぎたのですね。ワタシもいつ来るかわからないが間も無くであろうその日を待つ身で当時の君に贈った弔辞を読み返しています。

秋なかばなのに、夏の息苦しさが居座る日でした。
突然鳴り出す携帯電話で、君の訃報に接っしました。
「馬鹿な、信じられない?」
驚きと喪失感が抑えられずに心のやり場が見つかりませんでした。
今年の五月の連休で、偶然に浅草のフェリー乗り場で遊覧船のチケットを求

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ひとり夜咄5 「サヨナラ」

ひとり夜咄5 「サヨナラ」

新月が明けて、なぜだか寂しい朝です。夏がサヨナラを言いそびれて夕方には大きな涙を流して帰って行きます。

キミにサヨナラを言って欲しかった。言えないことは誰でもあるけれどね。あれ以来、想い出して泣くことはもう止めようと誓っていたはずでした。涸れたはずの涙がまだ残っていました。
あの日キミはすぐに戻って来るからと瞳で言ったきり、四年も森(病院) に行ったり来たり長い病いの生活を重ねましたね。次第に動

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ひとり夜咄4 「新宿物語」

ひとり夜咄4 「新宿物語」

「新宿物語⑴/永遠」
気狂いピエロの最終場面の映像に映る詩の一節です。ひょっとした事から、ピエロ役の彼は、昔の恋人との一夜を過ごす。翌朝、部屋に死体が転がっている。
彼と彼女は殺人事件に巻き込まれ巴里から南仏、そしてイタリア地中海への逃避行の物語。逃亡の末に、すべての絡繰(からくり)を知り絶望感から、ダイナマイトを頭に巻いてピエロとして自ら爆死する最終シーン。地中海の海の水平線とともに
ランボーの

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ひとり夜咄3 「永遠の嘘をついてくれ」

ひとり夜咄3 「永遠の嘘をついてくれ」

病から回復して、残された日々を如何に過ごすか思案中の拓郎に
「拓郎を演じる事は卒業しよう」と言う愛妻。
「最後まで拓郎であり続けろ」と励ますみゆき。
拓郎は以前、みゆきの「ファイト」の歌を聞いた時の衝撃を思い出していた。
もう俺の時代は終わったのかと拓郎は思い詰めていた。
「俺にはもう、こんな歌は創れない」思い悩んだ拓郎はその曲をカバーして歌った。流石に、拓郎節は健在であった。
見事に自分の歌にし

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ひとり夜咄2 「ある女優の死」

ひとり夜咄2 「ある女優の死」

生きてよも明日まで人もつらからじこの夕暮をとはばとへかし

今、なぜこの話しを書き直す気になったのか。たぶん、それは彼女がこの世から神隠しに遭ったかのように、姿を消したのがこの神無月だったからなのです。
四月一日が彼女の誕生日で、一年前の四月に一度書き上げて発表したのですが、何故か今も、拭いきれない疑問は残ったままだったからです。四月は言いようのないザラっとした感触なのでした。尚、ここに載せる和歌

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ひとり夜咄1 「時間。ダブルブッキングの夜に」

ひとり夜咄1 「時間。ダブルブッキングの夜に」

久しぶりにドジを踏んだ。久しぶりと言うより初めてだろう。俺は妻と愛人の約束をダブルブッキングしていたのだ。この場合は妻を最優先しなくては筋が通らない。俺は愛人への言い訳を考えながら彼女のマンションに向かう。この場面でのお土産は気張ってケーキや花束なんては愚の骨頂で、深読みされてしまう。
そんな訳でいつものシャルドネを持参なのだ。

摩天楼の夜景を眺めながらシャルドネのグラスをテーブルに置いて、俺は

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《繊月抄記》⑴

《繊月抄記》⑴

「朝の覚悟」
秋眠、時を走る。
寝坊の朝でした。二度寝して、いま目覚めの時となりました。何故か秋を感じさせる気温が、ひと恋しくなるのか?無性に会話がしたくなるような朝です。
さあ、朝のルーティン珈琲淹れから整えます。《繊月抄記》

「一行の文章」
朝の空がやっと明るくなってきて、目覚めがハラリとやって来る。無意識のうちに動作が始まってるのだ。昨夜は晩酌無しで済ました事がもたらした爽快感なのかは不

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