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Smells like roots' spirit

物心ついた時にはもう好きだった。
臭(くさ)いと知りつつも、その臭いを嗅いでいると、何故だか気持ちが落ち着くのを感じていたから。

私はドブ川の臭いが好きだ。

鮭は川で生まれ、海で育ち、軈て生まれた川に帰る。その際鮭は己の生まれた川の臭いを頼りに、その川へ、謂わば帰郷するのだという。
鮭は己の生まれた川の臭いを覚えているのだ。
これは正に鄕臭とでも呼ぶべきものであろう。

私のドブ川の臭いに対する愛着も、畢竟この鮭の行動にかわる所がないように思う。

私は3歳までの期間を、都会の臭いドブ川の傍のアパートで育った。ある時親からそう聞いた。
一体何故私が、選りにも選ってあんなにも臭く不衛生なドブ川の臭いなんかを好むのか分からずにいたのだが、その時、判然としたのだ。

鄕臭に誘われている。そう言う事なのだろうと。

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