夏にようかい
液状化現象。
あれ、地質学的な現象だとばっかり思ってたけど、どうやら我が身に起きそうだわ。
断言する。私、溶けちまう。このまんまじゃ、この夏溶解する。
はい、どうもです。
堪んないですよ実際、やってらんないつうの、暑くて。
こちとら夏に用はねえの、だからさっさとどっか行けや、暑苦しい。胸糞悪いわ。
まあ、こんな感じで今日も墓地墓地やっていくんで宜しく。
さて、夏真っ盛り。
昭和平成時代なら、もう夏て言ったら、心霊だ宇宙人だ怪異だ妖怪だあて、どこのテレビ局でも馬鹿の一つ覚えみたいにやってましたよ。
やってたんですよ、今どきの令和キッズは知らねえのかもしれねえけど。
ジジババはそういうの見て育ったの。延々垂れ流される、今にして思えば、糞下らねえゴミ見てえ法螺話に、真剣になって見入ってたんだよ。
だから大人は総じて糞しか居ねんだわ。ゴメンね。
おや? て思ったそこの貴方、中々鋭いよ。
今回、妖怪です。はい。
溶解する夏だけに……。
どう? しょうもない? でもちょっと寒くなったでしょう?
「目目連」
これ、ご存じですか?
「もくもくれん」て読みます。妖怪です。
何て言うのか知らねんだけど、アレ、あの障子のマス? でいいの? わかんねえけど、あれね。あれ系の怪異。
夜中に妙な気配感じて目え覚ますんだって。それで不図、障子に目をやると、そのマス一つひとつにご丁寧に目玉が並んでる。それで、そいつらがギョロッてこっち見て来るらしい。
普段なら、手前何見てんだカス、ガン呉れてんじゃねえぞコノヤロウ、てソッコー食ってかかるガラ悪い輩でも、流石に腰抜かすよ、こんなの。ギョッとするわ。
けど其丈。他には何にもないの。見て来る丈なんだと。はい。
これ「障子に目あり」じゃん。完全に。ねえ?
そこで閃きました、私。
「障子に目あり」が「目目連」なら「壁に耳あり」系もあるんじゃねえ? て。
「耳耳連(じじれん)」。
あるでしょう? これ。探しました。無かったです。無いのかよ、驚き。居ないようです。
てか、何でねえの? て言う。「障子に目あり」で「目目連」なんだろ? 「壁に耳あり」つってんだから「耳耳連」も用意しとけや、て言う。何だろ、この、モヤモヤ。
そこで、最終手段ですよ。
青森からイタコ連れてきまして、中野の哲学堂行ってきました。
何で? て、何でじゃねえよ。「妖怪」て言ったら「井上円了」先生だろ? 円了先生て言ったら「哲学堂」じゃねえかよ。
兎に角、行ってきたの。
何しに? て、イタコだぜ? やることひとつだろ? 口寄せ。これね。
何で「耳耳連」ねえのか、円了先生に聞きに行ってきたんだよ。
イタコさんに「こんな訳で、おねがいします。」て言ったら、「はいい」て。
そんでお見えになりましたよ、円了先生、冥土から遥々。そこで開口一番。
なんかようかい?
え? ちょっと待って。さむ、寒すぎ。なになに? どうした? て。
イタコさん見たら、一瞬、これ一寸やっちゃった? みたいな顔して。うわマジかあ、てなった。
もう、どうでもよくなっちゃったよ「耳耳連」とか。何だよ、もういいわ、て。
それで、帰ってきたて言う話ね。
いやあ、一寸した暑気払いになったわ、実際ヒヤッとした、アレには。今こうして思い返しても寒いもん。