Jerry Christmas Everybody (上)
(上)
先日、私の前に一足早くクリスマスがやってきた。
私の病室の窓外には幼稚園の庭が見える。
今月初頭、その園庭の中程にクリスマスがやってきた。
高さ2m程度の小さなモミの木が運び込まれたのだ。
そしてそれは、数日掛けて園児たちお手製のモニュメントやモールを身に纏った。
クリスマスが近い。
そして私の死期も近い。
私は今ペインケアを含めたターミナルケアを受けている。
年は越せるだろうが、どのみちそう長くない命である。
そこで、ここに私の幼少からの秘めた話をしておこうと思う。
他言無用と誰かに念押しされた訳でもなく、何とはなしに今の今まで誰にも話さずにいた、そんな話だ。
こんなもの、冥土に持って行っても仕方がない。
死に行く者の置き土産とでも思ってお読みいただければ光栄に思う。
それは、私が子供時分の事だから、もう何十年も昔のことだ。
その日はクリスマスイブだった。
空がクリスマスを過剰演出していた。
朝から降り出した雪が、昼前には薄らと屋根を木々を地面を其処彼処を白く飾り立てた。皆はこの空からの粋なプレゼントに喜んでいた様子だった。
「ホワイトクリスマスだね」
恰もそれがこの日の合言葉であるかのように、誰も皆鸚鵡返しにそう発した。
そんな日の夜中、実家の二階自室でひとり眠っていた私は、物音に目を覚ました。ベッドの向かいの窓、雪明りの逆光の中に人影を認めた。
やべえ!
私の覚醒に気が付いたのだろう、その人影は少し狼狽えていた。
私は寝起きに頭が呆けていたためか、不思議と恐怖を覚えなかった。
そして、そこで何をしているのかと、その人影に問うた。
見られちゃったなあ、そう言ってそれは私の方に向き直った。
薄暗がりに慣れてきた私の目に飛び込んできたものは、一人のサンタクロースの姿であった。
参ったなあ。これでクビ決定だ。