映画はおでんと辛子の味
そういえば、私の父は映画好きであった。
幼少の頃、私はそんな映画好きの父に伴われ、映画館でよく映画を見たものだった。
新作封切りの館は勿論だが、殊によく連れて行かれたのは、古い映画の再上映を主に行う「名画座」と呼ばれる所だった。
その「名画座」では、父が若いころに見た懐かしの、或いはそれよりもっと古いもの、そんな、私がオンタイムでは知りえる筈のない古い映画を沢山見た。
まだ幼い子供の私には、その内容が難しかったり、洋画であれば字幕が読めず、仮に読めたとして追いつけず、内容などちっとも頭に入らないので、正直、それらは退屈なものだった。
それでも、嫌がらず寧ろ楽しみについて行ったのは、そこでの飲食だ。
特に私の気に入ったものは、カップに入ったおでんの、卵やコンニャク、白滝で、毎回それをおねだりした。辛子をタップリ塗ってそれを頬張りながら、意味の分からない画面を見続けたものだ。
そんな父と私の「名画座」詣でも、私が小学の頃で終わる。
先日知り合いに映画のチケットがあるので、一緒にどうか? とお誘いいただいた。
それで昨日、その方に伴われる形で、本当に久し振りに映画館に映画を観に行った。実に何十年振りであろう。
広くキレイで真新しいその映画館に、私は尻の座りの悪さを感じながら、最新技術の上映会に挑んだ。館内が暗くなり、目の前の大画面に映像が映された時、昔日の映画鑑賞体験が思い起こされた。
映画が引けた後、私たちはその映画館近くに酒を求め、映画と、そして辛子をタップリ塗った「おでん」を肴に杯を重ねた。