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家族歴が示す大腸癌リスクと効果的な予防策:あなたと家族を守るために知っておくべきこと

要約

大腸癌は日本で主要な死亡原因の一つであり、食生活の欧米化や高齢化に伴い罹患リスクが増加しています。特に「家族歴」は重要なリスク因子で、一親等内に大腸癌患者がいる場合、一般人口と比べて発症リスクが1.72~2.25倍に高まります。さらに、複数の家族が罹患していたり、若年で発症している場合はリスクが2.75~4.25倍、場合によっては5倍以上になることもあります。これに対抗するためには、定期的な大腸内視鏡検査や便潜血検査の実施、バランスの取れた食事や適度な運動、飲酒・喫煙の制限など生活習慣の見直しが有効です。また、家族間で情報を共有し、早期検査を促すことも重要です。特に遺伝性大腸癌症候群が疑われる場合は、専門医による遺伝カウンセリングや詳細な検査が推奨されます。早期発見は治療予後を大きく改善するため、家族歴がある方は積極的にリスク管理を行うことが求められます。本コラムでは、家族歴による具体的なリスク評価と効果的な予防策について詳しく解説しています。

1. はじめに

大腸癌(結腸癌と直腸癌を総称)は、日本においても死亡原因の上位を占めるがんの一つです。食生活の欧米化や高齢化などの要因とともに罹患者数が増加し、「国民病」と言っても過言ではないほど多くの方が罹患リスクを抱えるようになってきました。一方で、大腸癌は早期発見・早期治療が可能であり、大腸内視鏡検査などの検診によってより早い段階で診断できる可能性があります。

しかし、大腸癌のリスク要因は多岐にわたるため、誰にとってどの程度の検診が必要なのかは必ずしも一律ではありません。その中でも「家族歴」は、遺伝的要因や同じ生活習慣の共有といった側面から大きく注目されているリスク因子です[1-3]。本コラムでは、大腸癌の家族歴がある方のリスクが、具体的にどの程度高まるのか、そしてそのリスクに応じた検診や対策について詳しく解説します。

実際、「家族に大腸癌の方がいるから、自分も検査を早めに受けたほうがいいのでは?」と悩むケースは少なくありません。家族歴がある方の中には、「どれぐらい自分も危険なのか」「何歳から検査を始めたらいいのか」といった具体的な疑問を抱くことが多いでしょう。この記事を読んでいただくことで、大腸癌の家族歴がある場合に押さえておきたいリスク評価と、そのリスクを下げる方法の全体像をつかんでいただければ幸いです。

2. 大腸癌の家族歴がある場合のリスクとは?

2-1. 大腸癌リスクにおける「家族歴」の重要性

大腸癌の家族歴があるということは、単に「がんにかかった親族がいる」という事実にとどまらず、遺伝的要因を含んだ複合的なリスクが存在する可能性を示唆します[1-3,7]。ここでいう「家族歴」とは、主に以下のような要素を考慮して評価されます。
• 一親等内(両親・兄弟姉妹・子ども)に大腸癌患者がいるかどうか
• 大腸癌患者となった家族が複数いるかどうか
• その家族が若い年齢で大腸癌を発症しているかどうか

上記のような複数の要素が重なるほど、大腸癌の罹患リスクは上昇します。なぜなら、大腸癌の約35%程度は何らかの遺伝的要因が関与していると指摘する報告もあるほか[4]、生活習慣・食習慣の類似も集積するため、家族単位でがんリスクが高くなる可能性が示唆されているからです。

2-2. 相対リスク(Relative Risk)

大腸癌の家族歴がある場合、どれぐらいリスクが上昇するのでしょうか。相対リスク(RR)は、ある集団のがん発症リスクを、リスク要因のない集団と比較した時に何倍になるかを示す指標です。
• 一親等内の家族が1人罹患している場合
一般的な発症リスクを1とした場合、一親等内に大腸癌の家族歴があるだけで、およそ1.72~2.25倍に高まると報告されています[1-3,7]。たとえば「両親のどちらかが大腸癌だった」「兄弟姉妹のうち1人が大腸癌だった」というケースが該当します。
• 一親等内の家族が2人以上罹患している場合
この場合はリスクがさらに上昇し、2.75~4.25倍になると示唆されています[1,2,7,8]。これは、一親等内に限らず若くして罹患した方がいるケースなども含めると、よりリスクが高まる可能性があります。
• 年齢要因(若年発症の家族)
大腸癌患者が若くして罹患している場合、その親族のリスクは高まります。特に45歳未満で大腸癌を発症した一親等内の家族がいる場合、相対リスクが5.37倍程度に達するといった報告もあります[2,5]。このように「若年性大腸癌」の家族歴がある場合は、より注意が必要です。

2-3. 絶対リスク(Absolute Risk)

相対リスクが上昇しているということは、具体的にはどれほどの人が大腸癌にかかる可能性があるのでしょうか。これを示すのが絶対リスクです。
• 一親等内に1人罹患者がいる場合の生涯リスク
一般的な50歳時点での大腸癌の累積リスクを1.8%とすると、一親等内に大腸癌罹患者がいる人では3.4%まで上昇するとされています[1]。ただし、このパーセンテージは研究によって多少異なる場合があります。
• 一親等内に2人以上罹患者がいる場合の生涯リスク
そのリスクは6.9%まで上昇するという報告があります[1]。さらに、家族歴が複数あるうえ、いずれも若年発症であったケースでは、研究によっては10%を超えるとの指摘もあります。
• 家族が50歳未満で診断された場合
一親等内の家族が若年(50歳未満)で大腸癌を発症していると、その親族の絶対リスクが85歳までに11%に達する可能性も報告されています[7]。若年性発症という条件が合わさると、想像以上に高い罹患リスクとなるわけです。

こうした研究結果は、大腸癌の家族歴がある方がどの程度注意を要するのかを数値的に裏付けるものと言えます。また、「どの家族が」「何歳で」罹患したかによってリスクは変わり、複数の家族歴を抱える人ほど注意が必要であることがわかります。

3. リスクを下げるためにできること

3-1. 定期的な検診・内視鏡検査の重要性

最も確実なリスク低減策は、定期的な検診および大腸内視鏡検査です。家族歴がない一般集団においては、大腸癌検診は概ね40~50歳代から開始することが推奨されるケースが多いですが、家族歴がある場合はより早期から検査を始めることが重要とされています[4,6]。
• 便潜血検査(FIT:Fecal Immunochemical Test)
毎年1回程度の便潜血検査を行い、陽性の場合には早期に大腸内視鏡検査へ進むという流れが一般的です。ただし、家族歴がある場合、はじめから内視鏡検査を勧められることもあります。
• 大腸内視鏡検査
大腸内視鏡検査では、腸内のポリープや早期がんを直接観察でき、必要に応じてポリープ切除などをその場で行うことが可能です。ポリープの段階で切除できれば、将来のがん化リスクを下げられるメリットがあります。
家族歴がある場合は、ガイドライン上でも「集中的なスクリーニングを行うことが推奨される」と明記されることが多く[4]、一般人よりも高頻度かつ若年から検査を受け始めるよう勧められています。

3-2. 生活習慣の見直し

大腸癌の発症には、遺伝的要素だけでなく生活習慣・食生活なども深く関わっていると考えられます[2,3]。家族歴がある方は、次のような生活習慣を見直すことで相対リスクを低減できる可能性があります。
• バランスの良い食事の摂取
食物繊維やビタミン、ミネラルを多く含む野菜・果物を積極的に取り入れ、過度な脂質や赤肉の摂取を控えることが推奨されます。
• 適度な運動習慣
運動不足は肥満や腸内環境の悪化などを招き、大腸癌リスクを上昇させる可能性があります。ウォーキングや軽いジョギングなど、無理のない範囲で継続的に体を動かすことが大切です。
• 過度の飲酒・喫煙の制限
飲酒や喫煙は多くのがんのリスクを高める要因であり、大腸癌についても例外ではありません。特に喫煙は早期から始めれば始めるほどリスクが上昇しやすいとされています。

3-3. 家族との情報共有

家族歴がある場合、同じリスクを抱えている可能性が高い家族も多いでしょう。家族全員が一丸となって情報を共有し、早めに検査を受ける体制を整えることが望ましいです。なかには「自分だけ受診すればいい」と考える方もいますが、同じ環境や遺伝子を共有している家族にとっても重要な話題であることを認識しておきましょう。とくに若年で大腸癌を発症した家族がいる場合は、兄弟姉妹や子どもにも早期の検査を検討するよう声をかけることが大切です。

4. どんな人が特に注意すべきか

4-1. 若年で発症した家族がいる場合

大腸癌は50歳以降の発症率が高いというイメージがありますが、近年では40代、場合によっては30代で見つかる事例もあります。家族の中で50歳未満で大腸癌を発症した人がいる場合、リスクが一段と高くなることが示唆されています[2,5]。
また、上記のように若年発症の大腸癌が一親等内に存在すると、絶対リスクも11%に達し得るという報告もあります[7]。こうした背景から、若い世代での検査受診を促すことはきわめて重要です。

4-2. 複数の家族が大腸癌を発症している場合

「父も母も大腸癌を経験」「兄弟姉妹2人が大腸癌を発症している」など、複数の家族歴が重なる場合は、相対リスクが2.75~4.25倍に跳ね上がるとされています[1,2,7,8]。とくに、同じ家系で若い年齢の複数人が罹患している場合は、遺伝性大腸癌症候群(リンチ症候群や家族性大腸腺腫症など)が疑われるケースもあり、さらに専門的な検査や遺伝カウンセリングが推奨されます。

4-3. 親族にリンチ症候群などの遺伝的疾患がある場合

家族歴と似た概念として、特定の遺伝子変異によって高確率で大腸癌を発症する「遺伝性大腸癌症候群」があります。代表的なものにリンチ症候群(HNPCC)や家族性大腸腺腫症(FAP)があります。
これらの疾患は全体の大腸癌のうち数%を占めるとされ[4]、該当する場合は通常よりもはるかに若い年代から大腸内視鏡検査などを行う必要があります。もし、近親者がこうした遺伝性の大腸癌症候群と診断されている場合は、自身のリスク評価も専門医のもとで早急に行うようにしましょう。

5. 検査の受け方・かかるべき医療機関

5-1. どの診療科に相談すればよいか

大腸癌のスクリーニングに関しては、一般的に消化器内科あるいは消化器外科が担当科となります。大腸内視鏡を扱う専門医が在籍している病院やクリニックを選ぶと、より適切な検査や診断を受けられる可能性が高まります。
また、家族性の大腸癌が強く疑われる場合や、若年性発症の多発例など明らかにリスクが高いケースでは、遺伝カウンセリングを行う医療機関や専門外来を探すのも一つの手段です[4]。

5-2. 検査の流れと頻度
1. 問診・便潜血検査: 最初は問診による家族歴の確認を行い、便潜血検査を受けることが多いです。
2. 大腸内視鏡検査: 便潜血検査が陽性の場合や、すでに家族歴からリスクが高いと判定された場合には、大腸内視鏡検査をすすめられます。
3. フォローアップ検査: ポリープが見つかった場合は切除し、その後の定期的なフォローアップが推奨されます。家族歴や検査結果によっては毎年、もしくは2~3年おきに検査を行うなど、スクリーニング間隔を短くする場合もあります。

家族歴のある方のスクリーニング開始年齢については、ガイドラインや研究によって微妙に異なりますが、「一親等内に若年発症の家族がいる場合は40歳より早い段階、もしくは発症した家族の年齢より10歳若い年齢から検査を始める」などの基準を示している場合もあります[4,6]。いずれにせよ、早めの受診と専門医への相談がリスク管理には欠かせません。

6. おわりに

6-1. 早期発見の意義と予後

大腸癌はステージによって治療法や生存率が大きく変わり、早期発見・早期治療が非常に重要とされます。家族歴がある方の場合、通常よりも高いリスクを抱えている一方、定期的な検診によって初期のポリープのうちに除去できる可能性も高まります。
また、家族歴を有する大腸癌症例の中には、診断後の予後に関する研究も存在し、「大腸癌の部位や病期などによっては家族歴のあるなしで予後が変わる」という報告も見受けられます[9]。家族歴があるということは、一概に悲観すべきことではなく、逆に「注意深く見守られる可能性が高い」とポジティブに捉えることもできます。

6-2. 家族で共有すべき情報と心構え

大腸癌の家族歴がある場合は、「身近な家族が大腸癌だったから、もしかして自分も……」と過度に不安を抱いてしまうことも珍しくありません。しかし、不安を抱えるだけではなく、正しい知識を得て適切な検査を受けることが最善策です。
とくに、家族歴の有無を医師に正確に伝えることは、検査や治療方針を決めるうえで非常に重要です[10]。家族構成が複雑であったり、離れて暮らしている家族の病状が分からなかったりするケースもあるかもしれませんが、可能な限り情報を整理しておくとスムーズに受診が進みます。

6-3. まとめと今後の展望
• 家族歴がある方の大腸癌リスクは、一般人口と比べて1.72~2.25倍、複数人いる場合で2.75~4.25倍、若年発症を含む場合はさらに上昇する。
• 家族歴に応じて検診開始時期を早め、検査頻度を増やすことが推奨される。
• 生活習慣の改善や情報共有もリスク低減に有効であり、定期的な検診と併せて積極的に取り組むことで、発症を防いだり、早期に治療を開始できる。

大腸癌の治療・診断技術は日進月歩であり、内視鏡技術や分子標的治療薬、免疫療法など、新たな選択肢が増えています。今後、家族歴や遺伝的背景を踏まえた個別化医療の発展も期待され、より精密にリスクを評価し、より適切なタイミングで検査を行うことが可能になるでしょう。家族歴がある方こそ、こうした新しい情報にアンテナを張り、主治医や専門医と相談しながら最適なケアを受けていただければと思います。

引用文献
1. Butterworth, A. et al. “Relative and absolute risk of colorectal cancer for individuals with a family history: a meta-analysis.” European Journal of Cancer, 2006.
2. Fuchs, C. et al. “A prospective study of family history and the risk of colorectal cancer.” The New England Journal of Medicine, 1994.
3. Parsa Mehraban Far, et al. “Quantitative risk of positive family history in developing colorectal cancer: A meta-analysis.” World Journal of Gastroenterology, 2019.
4. Monahan, K. et al. “Guidelines for the management of hereditary colorectal cancer from the British Society of Gastroenterology (BSG)/Association of Coloproctology of Great Britain and Ireland (ACPGBI)/United Kingdom Cancer Genetics Group (UKCGG).” Gut, 2019.
5. Wong, M. et al. “Lower Relative Contribution of Positive Family History to Colorectal Cancer Risk with Increasing Age: A Systematic Review and Meta‐Analysis of 9.28 Million Individuals.” The American Journal of Gastroenterology, 2018.
6. Henrikson, P. M. Nora B. et al. “Family history and the natural history of colorectal cancer: systematic review.” Genetics in Medicine, 2015.
7. Roos, V. et al. “Effects of Family History on Relative and Absolute Risks for Colorectal Cancer: a Systematic Review and Meta-Analysis.” Clinical Gastroenterology and Hepatology, 2019.
8. Johns, L. et al. “A systematic review and meta-analysis of familial colorectal cancer risk.” American Journal of Gastroenterology, 2001.
9. Chong, D. et al. “Association of family history and survival in patients with colorectal cancer: a pooled analysis of eight epidemiologic studies.” Cancer Medicine, 2016.
10. St. John, D. et al. “Cancer Risk in Relatives of Patients with Common Colorectal Cancer.” Annals of Internal Medicine, 1993.

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