![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/165282192/rectangle_large_type_2_30b5d3275b914da6f141d2753b90a032.png?width=1200)
腸内細菌を深掘り!FirmicutesとBacteroidetesの役割と健康効果
要旨
近年、腸内フローラは健康維持に重要な役割を果たし、特にFirmicutes門とBacteroidetes門が全体の約9割を占め、そのバランス(F/B比)は肥満や代謝疾患、炎症性腸疾患などに関与すると報告されています。Firmicutesは短鎖脂肪酸産生やエネルギー収穫増大を通じて肥満傾向との関連が示唆され、一方でBacteroidetesは食物繊維分解を介して代謝バランス改善や炎症抑制に寄与すると注目されています。ただし、F/B比は必ずしも決定的指標ではなく、個人差や食習慣、地域差による解釈の難しさも指摘されています。プロバイオティクスやプレバイオティクス、発酵食品摂取、適度な運動、ストレス管理などによる腸内環境改善の試みが行われ、さらなる研究は個別化医療や新たな治療戦略の可能性を示しています。今後、腸内細菌叢の解析技術発展により、肥満、IBD、糖尿病、精神疾患など多様な疾患への新規介入法が提案され、より精密な食事・生活習慣指導や菌叢調整戦略が期待されています。こうした知見は腸内フローラを味方につけ、健康的で活力あふれる日常を目指す上で重要な指針となり、さらなる研究進展が期待されています。本稿では医学論文を引用しながら解説します。
はじめに:腸内フローラの重要性
近年、「第2の脳」とも称される腸内環境は、ヒトの健康と密接な関係を持つことが明らかとなっています。腸内には数百~数千種もの微生物が生息し、これらは総称して「腸内フローラ(腸内細菌叢)」と呼ばれ、消化・吸収のみならず、免疫調整や神経系を介した精神的健康、代謝バランスの維持など多岐にわたる生理機能に関与しています[1-4]。腸内細菌のバランスが崩れた状態(ディスバイオーシス)は、肥満や糖尿病、炎症性腸疾患、さらには精神疾患や神経変性疾患までも引き起こし得ることが報告されており、その研究は医学・栄養学両面から注目を集めています[2,4,8]。
腸内細菌叢を形成する主要プレーヤー:FirmicutesとBacteroidetes
ヒトの腸内フローラを構成する主要な菌門として知られるのが、Firmicutes門とBacteroidetes門であり、これら2つが全体の90%以上を占めるとされます[1-3,8]。近年、これらの菌群バランスは肥満、代謝疾患、炎症疾患と密接な関連があることが示唆されています。
Firmicutes門の特徴と役割
Firmicutes門にはClostridium属やLactobacillus属などが含まれ、食物繊維を発酵させて短鎖脂肪酸(SCFA)を産生し、腸内のpH維持や病原性細菌の抑制に貢献します[3]。これらは脂質・胆汁酸代謝にも関与し、エネルギー代謝の恒常性維持に重要な役割を果たします[3,5]。一方で、多くの研究はFirmicutesと肥満傾向との関連性を指摘しており、Firmicutesが優勢な腸内環境(F/B比増加)が食事由来のエネルギー収穫を高め、体脂肪蓄積に寄与する可能性が示唆されています[2,4,6,8]。一部のFirmicutes種(例:Clostridium leptum群やLactobacillus属)が脂肪貯蔵と関連する報告も存在します[2]。さらに、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の病態悪化にもFirmicutesが関与する可能性が動物モデルで示されており[9]、代謝性疾患の発症・進展における役割が注目されています。
Bacteroidetes門の特徴と役割
Bacteroidetes門にはBacteroides属やPrevotella属が含まれ、主に難消化性多糖類や食物繊維を分解し、多様な代謝産物を生成することで腸内恒常性をサポートします[1-4]。Bacteroidetesが豊富な腸内環境は、比較的に「痩せ型」や代謝バランス良好な状態と関連する報告があります[2,4,6]。また、炎症性腸疾患(IBD)患者ではBacteroidetesが減少することが知られており、腸管免疫系との相互作用を介して炎症制御にも関与すると考えられています[4]。さらに、1型糖尿病患者におけるBacteroidetes増減とTLR(Toll様受容体)発現変化を指摘する研究もあり[7]、免疫調整面での役割が一層注目されています。
F/B比が示す腸内バランスと健康への影響
FirmicutesとBacteroidetesの比率(F/B比)は腸内環境バランスを評価する上で重要な指標とされています。一般的にはF/B比の上昇が肥満傾向と関連することが報告されており[2,4,8]、高脂肪食摂取やストレス、生活習慣の乱れなどでF/B比が増加すると肥満リスクが高まる可能性があります[1-4,8]。しかし、近年の研究ではF/B比が必ずしも肥満の決定的バイオマーカーではないとする議論も展開されており[8]、地域や人種差、食習慣、個体差などによって解釈が難しいことが示唆されています[6]。加えて、プロバイオティクスやシンバイオティクス(プロバイオティクス+プレバイオティクス)の摂取によってF/B比を改善し、体重管理や炎症制御を図る試みが行われており[4,10]、こうした介入による腸内環境改善が期待されています。
ディスバイオーシスと多様な疾患との関連
ディスバイオーシスとは、腸内フローラ多様性やバランスが崩れた状態を指し、肥満、メタボリックシンドローム、IBD、糖尿病、自閉症スペクトラム、うつ病、神経変性疾患など幅広い疾患リスクと関連しています[2,4,8]。たとえば、肥満モデル動物において抗生物質投与でFirmicutesとBacteroidetesを変化させた結果、インスリン抵抗性が改善し、GLP-1分泌上昇による代謝改善がみられる研究も報告されています[5]。これらは、腸内菌叢調節を介した新たな治療戦略の可能性を示唆しています。
その他注目すべき腸内菌群
Actinobacteria門:ビフィズス菌(Bifidobacterium属)が代表格で、便通改善や免疫調整作用が期待されます[3,4]。
Proteobacteria門:大腸菌(Escherichia coli)などが属し、有益・有害双方の可能性があり、炎症との関連性が議論されています。
Verrucomicrobia門:Akkermansia muciniphilaが代表的で、腸粘膜保護、代謝バランス改善への関与が報告されています[8]。
プロバイオティクスとプレバイオティクスの有効活用
プロバイオティクス:有益な菌種(LactobacillusやBifidobacterium)を補充して腸内環境を改善する手法であり、ヨーグルトやサプリメントなどで手軽に取り入れられます[4,10]。
プレバイオティクス:有用菌のエサとなる食物繊維やオリゴ糖を摂取することで、既存の善玉菌増加を促すアプローチです。玉ねぎ、にんにく、バナナなどは日常食材として有効です[3,4]。
生活習慣の改善と腸内環境
多様な食材や発酵食品の摂取、適度な運動、ストレス管理は、腸内環境改善に寄与します。マインドフルネスやリラクゼーション法でストレス軽減が図れれば、腸内細菌叢にも好影響が期待できます[1-4]。
腸内細菌研究の最前線:個別化医療への道
次世代シーケンサー(NGS)の進歩やHuman Microbiome Project、MetaHITなどの国際プロジェクトを通じ、腸内細菌叢の解明は飛躍的に進んでいます[8]。これにより、個々人の腸内特性に応じた個別化医療や栄養学が展望され、肥満、IBD、糖尿病、さらには精神疾患に対する新たな治療介入方法が提案されつつあります[1-10]。
まとめ:腸内フローラを味方に健やかな毎日を
FirmicutesやBacteroidetesをはじめとする多種多様な腸内菌群は、私たちの健康や体質、疾患リスクに深く関わっています。F/B比の変動は肥満や炎症性疾患などとの関連が指摘される一方、その解釈には慎重な姿勢が求められます。今後、腸内細菌叢研究のさらなる進展は、より的確な食事・生活習慣指導やプロバイオティクス/プレバイオティクス戦略の構築、さらには個別化医療の実現に繋がることが期待されます。腸内フローラを味方につけ、より健やかで活力あふれる日々を目指していきましょう。
引用文献
[1] Nkosi, B.V.Z. et al. Contrasting Health Effects of Bacteroidetes and Firmicutes Lies in Their Genomes. Int. J. Mol. Sci. 2022.
[2] Indiani, C.M.D.S.P. et al. Childhood Obesity and Firmicutes/Bacteroidetes Ratio in the Gut Microbiota: A Systematic Review. Childhood Obesity, 2018.
[3] Sun, Y. et al. Gut firmicutes: Relationship with dietary fiber and role in host homeostasis. Crit. Rev. Food Sci. Nutr. 2022.
[4] Stojanov, S. et al. The Influence of Probiotics on the Firmicutes/Bacteroidetes Ratio in the Treatment of Obesity and Inflammatory Bowel disease. Microorganisms 2020.
[5] Hwang, I. et al. Alteration of gut microbiota by vancomycin and bacitracin improves insulin resistance via glucagon‐like peptide 1 in diet‐induced obesity. FASEB J. 2015.
[6] Karačić, A. et al. The Association between the Firmicutes/Bacteroidetes Ratio and Body Mass among European Population with the Highest Proportion of Adults with Obesity: An Observational Follow-Up Study from Croatia. Biomedicines 2024.
[7] Demirci, M. et al. Bacteroidetes and Firmicutes levels in gut microbiota and effects of hosts TLR2/TLR4 gene expression levels in adult type 1 diabetes patients in Istanbul, Turkey. J Diabetes Complications 2020.
[8] Magne, F. et al. The Firmicutes/Bacteroidetes Ratio: A Relevant Marker of Gut Dysbiosis in Obese Patients? Nutrients 2020.
[9] Chen, Y-H. et al. Gnotobiotic mice inoculated with Firmicutes, but not Bacteroidetes, deteriorate nonalcoholic fatty liver disease severity by modulating hepatic lipid metabolism. Nutr Res. 2019.
[10] Kassaian, N. et al. The effects of 6 mo of supplementation with probiotics and synbiotics on gut microbiota in the adults with prediabetes: A double blind randomized clinical trial. Nutrition 2020.
※この記事はここまでが全ての内容です。
最後に投げ銭スタイルのスイッチ設定しました。
ご評価いただけましたらお気持ちよろしくお願いします。
入金後、御礼のメッセージのみ表示されます。
ここから先は
¥ 100
Amazonギフトカード5,000円分が当たる
このコンテンツの内容が参考になりましたら、コーヒー代程度のチップでサポートしていただけると幸いです。