地政学者マハンの紹介

イントロダクション

こんにちは、こんばんは、おはようございます!Renta@マレーシアから国際関係論について考える人です!

今回のテーマはアルフレッド・セイヤー・マハンというアメリカの地政学者についてです。

そもそも地政学はどんなものか?ということを学問的に知りたい方はこちらのnoteをご覧ください。


マハンの地政学理論

それでは、マハンの地政学理論を見ていきましょう。

マハンの3つの主張

Mahan a geopoliticianという論文のイントロでマハンの主張が3点にまとめれています。

  • 海洋貿易は大国の経済的繁栄にとって重要である

  • 自国の貿易の保護及び敵国の貿易の妨害にもっとも役立つのは、海上覇権を維持できる艦隊を持つことである。巡洋艦によるパトロールでは、これは達成できない

  • 海上覇権を握っている国家は軍事的強国を打ち負かすことができる


同時代のイギリスの地政学者であるマッキンダー風に言えば、「海洋を制する者は、世界を制する」でしょうか。
そのマッキンダーの地政学理論についてはこちらのnoteに書きました。

海上権力史論

なぜ海洋を制する者が世界を制するのか、その流れは以下です。

  • まず、海洋国は自国が海に囲まれているため国土防衛が比較的楽に達成可能です。よって、自分のリソースを最大限海洋貿易や領土拡張に向けることができます。

  • その結果、海洋国は強力な海軍を持つことができます。この海軍が海洋国の戦略のカギを握るようになります。

  • 強力な海軍と戦略を得た今、実際に敵国を包囲するための拠点を獲得することができます。また、世界中に拠点を確保できるので、国際貿易の保護も行うことができます。

  • 国際貿易の保護を逆に言えば、国際貿易に依存している国をいつでも壊滅させることができることを意味します。貿易に依存しない国はほとんどないので、海洋を制する者は世界を制するのです。

それでは、どのような地理条件を持った海洋国が有利なのか?マハンは

  • 沿岸:湾の形及び海岸線の長さ、良質な港

  • 内陸:経済活動が盛んかどうか

  • 海や河川:領土が河川や海によって分断されているかどうか

沿岸は分かりやすいですね。そもそも船がたくさん出入りできる形や大きさじゃないと、海洋国の前提である海軍を持つことが出来ません。仮に持つことが出来ても、通商船を保護できる規模じゃなかったら意味がありません。

次に内陸の話です。ここで、地政学の隠れた前提として「島国は大陸よりリソースがない」ということを抑えておく必要があります。島国と大陸では、当然大陸の方が大きいのでリソースが豊富です。ここでいうリソースとは、国民を養っていくことが出来る食料やエネルギー、また文化的な生活を営むための産業のことを指しています。もし、これらが自国内(内陸)で生産しきれるならば、海軍を持つ必要性はあまりありません。そもそも他国と貿易する必要が無いためです。

最後に、河川や海による国土の分断について。河川や海によって国土が分断されている場合、その国家では海軍力が発達しやすいです。というのも、分かれてしまった国土を繋げたり守ったりするために、海軍力が日常的に使われるようになるからです。

このように、マハンは地理が国家に与える影響(特に海によるもの)を重視しました。ランドパワー重視のマッキンダーとは対極です。


マハンへの批判とその擁護

マハンの地政学理論は当然批判されてきました。この節では2つの世界大戦を通してなされたマハンへの批判を紹介し、マハンの理論の一応の擁護も紹介します。

まずは第一次世界大戦を通した批判です。

第一次世界大戦の海戦では、戦艦はあまり活躍しませんでした。新たに開発された潜水艦が、数々の戦艦を沈め大活躍したからです。また、最終的に敗戦国になったものの、アメリカの途中参戦がなければ勝利していたであろうドイツの存在も、マハンの地政学理論への批判として効力を持ちます。というのも、第一次世界大戦においてドイツはほとんど陸上で戦っていたからです(敵国のフランスとロシアに挟み撃ちされていたため)。

この批判に対してマハンの理論を擁護すると、そもそも地政学は地理と技術のダイナミックな関係を重視します。潜水艦や空母がある現代でも、海洋を制しているアメリカが覇権国です。ただし、その覇権を握るための技術がマハンは戦艦だと思ったけれども、技術の発展によって変化してきたにすぎないと思います。

また第一次世界大戦の主要参加国は、英仏露独墺米です。そして主戦場がヨーロッパ大陸です。英米以外はヨーロッパ大陸にある国なので、ランドパワーが勝利に貢献してくるのは当然だと思います。

次に、第二次世界大戦を通してなされた批判です。
これは、地政学理論が戦争発生の原因なのではないか?というものです。
というのも、地政学(特にマハンやマッキンダー、そして後々紹介予定のハウスホーファーやスパイクマンの理論)はどうしても「世界を制する」というテーゼで語られます。世界を制するための戦略を練るための理論を複数の国家が持つと、当然衝突は起きやすくなります。誰が世界を制するか、ということが問題になるからです。この批判が第二次世界大戦を通してなされた理由の1つに、ナチスドイツがあるのかなと思います。というのも、ヒトラーは「我が闘争」の中で地政学に言及しており、その元ネタはハウスホーファーというマッキンダーに影響を受けた地政学者です。これによって、地政学という「悪魔の学問」で、第二次世界大戦という惨禍が引き起こされてしまったという言説が流行りました。この批判はその流れを反映したものなのかもしれません。

といっても、地政学が第二次世界大戦のすべての原因と言われると、疑問に思います。というのも、第二次世界大戦は1929年の世界恐慌によって世界中にフラストレーションが溜まって、その原因を外部に求めたことによって起きたという側面があるからです。
だから、地政学が第二次世界大戦のすべての原因というよりは、世界中に不安感があった中でそのイデオローグとして使われてしまったのではないか?と考えることが出来ます。そしてもしそうであるならば、是正すべきだったのは、地政学というよりは当時の政策ということになります。

まとめ

マハンの理論は海洋重視なのですが、主に技術の発展に関する時代的制約がありました。しかし、これは地理と技術のダイナミックな関係を重視する視点があればマハンの理論の有用性は損なわれないと思います。次回のnoteでは、マハンおよび地政学全体が地理決定論的だという批判に対して、マハンの言説に基づいて擁護します。最後までお読みいただきありがとうございました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?