見出し画像

国際秩序の3つのモデル

イントロダクション

こんにちは、こんばんは、おはようございます。
Renta@マレーシアから国際関係を考える人です。
このnoteにたどり着てくださって、
ありがとうございます!
今回のテーマは、国際秩序の3つのモデル
です。
国際関係論は、ヨーロッパの思想家や学者に知的伝統の多くを負っています。そこで、
このnoteでは、国際情勢や国際秩序を捉えるために有用なモデルを紹介したいと思います

使ったテキストは、細谷雄一著「国際秩序-18世紀ヨーロッパから21世紀アジアへ-」です

よってこのnoteを読むメリットは以下で
ございます

  • 現在の国際秩序の理解に役立つ3つのモデルについて知ることができる

  • 18世紀~19世紀のヨーロッパ史や20世紀の世界史を構造的に理解することができるようになる

3つのモデルとして

  1. バランスの体系

  2. コンサートの体系

  3. コミュニティの体系

を紹介していきます。それぞれ

  • 定義

  • 体系を支える原理

  • 時代背景

  • 体系を具体化したもの

  • 批判

という形式で紹介していきます。

国際秩序の3つのモデル

バランスの体系

では早速、バランスの体系から説明して
いきます。バランスの体系の定義は
「大国同士が牽制し合うことで、
強すぎる大国の登場を防いでいる状態」
です。
国際関係論を知っている方なら、勢力均衡
とかバランスオブパワーという言葉が
思い浮かぶかもしれません。
バランスの体系とは、これらとほぼ同じ意味です

バランスの体系を支える原理は以下です

  • 環境要因:アナーキーな国際秩序

  • 人的要因:嫉妬深い競争心、恐怖

アナーキーな国際秩序とは、世界政府というものが世界には存在しないことです。
つまりすべての国が潜在的な敵国である状態を指します。
というのもいつ攻撃されるかわからないし、攻撃しても助けてくれる警察はいないからです。

これに加えて、人間には嫉妬とか競争心や
恐怖といった感情が備わっています。

ゆえに、「他国よりも安全でありたい、強くありたい、偉大でありたい」
という考えが生まれ、自国の強大化を
目指します。
しかし他国も同じことを考えているので、
大国同士が互いに牽制し合うことに
なります。

結果として、相手より圧倒的に強くなることはできません。
これによって、強すぎる国の登場を防ぐのがバランスの体系です。

バランスの体系の時代背景は以下のように
まとめられます。

  • 18世紀

  • 理性の時代

  • 戦争=王様のゲーム

バランスの体系を提唱したのは18世紀の知識人であるヒュームです。
18世紀というとまだ王族、貴族による政治力が強い時代です。国民国家が誕生する前なので、ナショナリズムというものが存在していません

また、18世紀は、理性を尊重する時代でした。
各国にNo.1国家になりたいという欲求は
あったが、常にそれを狙っていては戦争の
引き際がわからなくなります。そのため、
ほどほどのところで打ち止めにする理性が
あった
のです。

ゆえに、戦争は王様たちのの領土取りゲームに過ぎなかったといえます。

少し批判的な見方をすると、ナショナリズムの欠如と理性重視が、ヒュームが唱えた
バランスの体系の肝になっていました。
これは、ナショナリズムの熱情が突き動かした20世紀の2つの大戦とは異なります。

コンサートの体系

次にコンサートの体系を説明します。
コンサートの体系の定義は
「大国間の利益の調和によって秩序が保たれる状態」だと捉えてください。

コンサートの体系を支える原理は以下です。

  • 環境要因:共通の文化や価値観

  • 人的要因:同感と義務

コンサートとは調和を意味します。
調和を達成するために必要なのは、
共通の利益や価値観を有していることです。
秩序を作る際には、共通している利益や価値観を守ることが出発点になります。

コンサートの体系を唱えた1人であるバークは「キリスト教、君主制的統治原理、ローマ法の遺産、ゴート的習慣」をヨーロッパの
共通の価値観に挙げています。

ではなぜ共通している利益や価値観を秩序の出発点にできるかというと、
人間は同感する能力を有しているからです。
つまり、他人の運不運に対して何かしらの
感情(主に弱者には哀れみ、強者には嫉妬)を抱くものです。

このような同感から、
少なくとも他人に非難されないように努力します
共通している利益や価値観を破って自分の
利益を追求することは、他人の非難を招くでしょう。ここから義務の感覚が生まれ、秩序が生まれます。
もちろん人間は自己利益の最大化を
求めもするので、
秩序内で自己利益を最大化する
ということになります。

さて、このコンサートの体系はバランスの
体系と同時期に提唱され始めました。
提唱者はまたもやヒューム、バーク、そしてアダムスミスです。
なので、時代精神もバランスの体系と同じですね。

そしてコンサートの体系を具体化しものは、外交会議です。
外交会議とは、「すべての大国が定期的に集まって、国際問題を議論する場」です。
具体例としてはナポレオン戦争後のウィーン体制や戦間期の国際連盟があげられます。
定期的に集まって問題を議論することで利益の調和を目指したのが外交会議です。

コンサートの体系を批判的な見方をすれば、コンサートの体系はバランスの体系なくしては強固になりづらいということです。

なぜならば、いくら同感や利益の調和と
唱えたところで、一国がとてつもなく
強ければ侵攻して終いだから
です。

まずは勢力のバランスを確保する。「お互い強いんだから話し合いで決めた方が得じゃねえ?」という状態を作ったうえで、
外交会議で沿って利益を調整していく、というのが現実的なコンサートの体系であり、ウィーン体制はまさにその原理に沿って動いていました。

コミュニティの体系

最後にコミュニティの体系について説明します。

コミュニティの体系の定義は「条約や国際法に基づいた諸国家連合内で、議論を通して平和が創設される」だと捉えてください。

コミュニティの体系を可能にする原理は以下です。

  • 環境要因:法の支配、平和連合

  • 人的要因:理性

法の支配とは、王様でも国民でも貴族でも、決められたルールのもとで政治を行わなければならない、ということです。

平和連合とは、立憲主義的な国秩序を作るために、国家が作る連合です。
当然、平和連合でも法の支配を作ろうと考えますが、ここでいう法は
条約や慣習国際法になります。

コミュニティの体系の最初の提唱者は哲学者カントなのですが
コミュニティの体系の時代背景はバランスの体系、コンサートの体系と若干異なります。カントはフランス革命の血みどろを目の当たりにして
自身の国際秩序の構想を書き上げました。
だから、フランス革命前に流行していたバランスの体系やコンサートの体系には批判的な態度を取ります。
結局、バランスやコンサートだけでは秩序は保てない。
法の支配のもと、理性的な議論を通して平和を創設、維持するというロジックです。

そして、コミュニティの体系が具体化したものとしてEUをあげることができます。
というのも、EUは国家が持っている主権を
一部委譲させて、選挙で選ばれた代表や官僚たちの議論によって運営されているからです。そしてこれらの決まりごとは基本条約に示されています。
もちろん、ユーロによってドイツ一人勝ち
などの問題はありますが。

さて、コミュニティの体系を批判的に見ると、皮肉にもバランスの体系とコンサートの体系によって支えてもらう必要があるということです。
なぜなら、

  • 国際法や条約は力が強すぎる国家は守る動機を持たない→バランスの体系

  • 共通の価値観や利益をある程度有してないと、議論による平和は難しい
    →コンサートの体系

ルールに基づいた国際機構という意味では
国際連合もコミュニティの体系が具現化したものと言えます。しかし、米軍の駐留に
よってバランスが保たれ、共通の文化を
有するEUとは違います。国際連合は様々な
価値観を持つ国が集まっており、主要な大国(例えば米中露)の間でバランスが取れているか不明だからです。

結び

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
うまくいっていた制度や構想というものは、その時代や場所の隠れた前提に助けられていることが多いです。それが3つのモデルへの
批判に繋がりました。

私個人の意見としては、3つの体系すべてを
合わせた国際秩序が望ましい
のかなと思っています。それもバランス→コンサート
→コミュニティの順で。
つまり、以下のようなことです

  • まずはバランス:人間一般の感覚である恐怖を使う

  • 次にコンサート:恐怖で時間稼ぎしている間に、外交を行う。目的は共通利益や価値観(要は落としどころ)を見つけ、醸成すること

  • 最後にコミュニティ:恐怖と価値観の共有ができたら、コミュニティ(立憲主義的な国際機構)を作り、法の支配に基づいた平和を創出、維持する

冒頭に書いたように、3つの体系は近代史の理解に非常に役立ちます。
次回以降のnoteで、これらの体系を使って近代史をざっと見る連載も書く予定ですので、お楽しみに!

参考文献:細谷雄一著「国際秩序-18世紀ヨーロッパから21世紀アジアへ」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?