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父の記憶の最期は笑顔でサヨナラしたかった。


このコト↓


その日は、お笑いライブを楽しんでいた。推しも勿論ご出演。
いつもの如く、感謝の気持ちでいっぱい。
全員面白かった!いっぱい笑わせて下さってありがとう。本当に楽しかった!

この楽しさや感想を記録しようとスマホの電源入れると、ライン通知。
驚く程の数。
母からだ。

父は入院している。
ずっとガンと闘っている。
不安がよぎる。

たまに新幹線に乗って会いに行っていた。
毎回少しずつ痩せていく父。
会いに来たよと言うと、いつも少し嬉しそうにしてくれた。

その父の病状が急変したらしい。

頭が混乱する。

ねぇ。
お医者様に言われた余命、まだまだ先だよね?


とりあえず、帰路につく
電車で母の連絡をひとつひとつ読む。
要約すると、熱を出して肺炎を併発し、危篤状態とのこと。

え?危篤…?

あわてて返信する。


家に着いたよと連絡したら、母からビデオ通話。病院の許可を頂いたとのこと。

これを認めて頂いたということは…。

目がギョロっとした父が映る。酸素マスクをしていても呼吸が苦しそう。意識はある。

新幹線も、もうとっくに無い時間。
明日行くからね。待っててね。何度も伝える。

仕事をどうお願いするか頭をよぎる。
喪服出したり数珠用意したり。
今回そのセットは持って行かないが、スーツケースにまとめておく。
こんな準備無駄になって欲しい。
向かうほうの荷物には、万が一に備えて黒い服を入れる。それに多少色のあるものを重ねる。

泣けない。
何故か泣けない。
喜怒哀楽全部がどこにも見つからない。
どっかいっちゃった。
淡々と実家に向かう準備をする。


翌日。
新幹線で実家へ向かう。
車窓に流れる景色は無機質。

父の記憶には、笑顔を残したいのに。
泣けないし、笑えない。
表情も迷子。

いつもなら怒も哀に変わるぐらい泣くのに。
嬉しくても泣くのに。
ちょっとしたことでも笑うのに。
いつも笑顔がモットーなのに。

感情が無機質。
スマホ開いても、何も見る気がしない。


かなりの時間、息苦しさが続いてる。


ふと、推しのnoteにあったエッセイを思い出した。

『じいちゃん』

コレ、お見舞いの話しだったな…。

ブックマークしてあったページから開いてみる。
前に読んで泣いたのよね…。
流石に今は無理かもしれないな…。

全く期待せずにスクロール。


…素直な言葉が驚く程すっとココロに入り込んできて、どんどん無防備になる。
少しずつ、凍結されていた感情が溶けて、ほどけていく。
奇妙な感覚が私をふわっと柔らかく包み込んで来る。
何故か、自然とぼろぼろ涙が出て来た。
心に響くってこういう事を言うんだろう。
今の私にとても優しい。

おかげで、ちゃんと理想的に静かに涙を沢山流す事が出来た。

…人は泣く事で、ストレスが緩和すると、どこかで見たなぁ。
本当にその通りだと思う。

少しずつ、色々な感情が元に戻って、周りに色がついてくる。

多分だけど、
ショックが強すぎて、防御反応として全ての感情のブロックが起きていたような気がする。
とても苦しかった。
それをひとつ崩してもらえた。そこから綺麗にほぐれ、気持ちが少し動き出したのかもしれない。

父に笑顔を。
それが叶うような気がする。


駅に到着後、
母と合流し、お見舞いに行く。

病室に入るために、ビニールの割烹着にニトリル手袋。フェイスシールドにマスク着用。
いわゆる防護服。
顔がそんなに出ていない。
これならちょっとぐらい泣いても分からないかも…。いやそれは父には伝わっちゃう気がする。
深呼吸をして、ノックして病室へ。

お父さん。来たよ。

声に反応して目を開ける父。
じっと私を見つめてまた閉じる。
会いに来たよ。解る?
頑張ってるねお父さん。
お父さんは凄く頑張ってる。

多分、くだらない話を一方的に沢山した。
何を話したかぼんやりとしか覚えてないけれど…。

ん、ん、って返事をしてくれている気がしたことは覚えている。

無言になると酸素の機械の音がシューシュー病室に響く。

明日も来るからね。ゆびきりげんまん。
上げられない手へ薄い手袋越しに小指をつける。
父の手は、あまり血が通ってないらしく、
夏なのにひんやり冷たかった。

嫌な予感を振り払おうと外を見る。

病室の窓から見える空は、異常なほど、青かった。
青すぎるぐらい。

ひと夏しか生きられないセミの鳴き声が、外ではうるさいぐらいだったけど、ピッタリ閉まった窓越しには、かすかに聞こえた程度だった。

病室から出る時
私はちゃんと笑顔でいられただろうか?

脱いだ防護服の中は顔まで汗でびっしょりだったから涙が出ていたかどうか解らない。


三日そんな状況が続いた。
単なる自己満足かもしれないけれど、
父の記憶の中で
ちゃんと毎日、最後は笑顔でサヨナラ。
また来るね。

父は奇跡的に少し持ち直した。

仕事のためとりあえず東京へ戻った翌々日、また実家へ戻ることになった。
今度は先日用意したスーツケースを持って。

娘と一緒に見舞って、急な衰弱ぶりに思わず父の前で泣いた、

その夜の事だった。

深夜に病院からの電話。
大至急向かった。

病室に通されたが、
防護服は着なくて良いと。そこで全て察した。

間に合わなかったんだ…。

父は苦しそうな顔ではなく、何かホッとしている気がした。
ベッドサイドモニターの数値が既に全部0を示していた。

お医者様から死亡宣告。
母と私は、娘に支えられてようやく立っていた。

何故か父の亡き骸は怖くなかった。

もう、泣けないなんて事は無い。
むしろ、涙が溢れて止まらず、
号泣したあと、枯れるまで静かに泣き続けるという経験をした。

そこからが、かなり忙しかった。
母の手伝いをしたに過ぎないが、怒涛のように葬儀、手続き等やることが沢山。
それがむしろありがたかった。

疲労困憊の母を残して帰るのは、後ろ髪を引かれる思いだったが、慶弔休暇も終わったので東京へ帰ってきた。

あっけなく日常は戻ってきた。

土日、体が異常にだるい事にようやく気づき、発熱していたので必要以上に眠った。
疲労が自分にも限界まで溜まっていた事に、その日まで気付かなかった。
横になりながら枕元に置いてある相方さんのエッセイに手を伸ばした。お母様がお亡くなりになった時のお話があったな…。

泣けるし笑える。
うん。感情は正常。

なんとなく、私も父へ長文メールを作成してみた。
結局、送信はしなかったけれど、伝えられなかった思いが吐き出せた気がする。これって凄く大切な事かもしれない。
裏表紙側の帯に「みんな幸せになってね!」とあるのを暫く眺めて、心がまた一つ軽くなった。

毎日があっという間に過ぎる。
毎日暑い。
スマホに熱中症警戒アラートが連日来る。

あの日と同じで空は異常に青い。



最期は笑顔でサヨナラ出来なくてごめんね。
私達はどう生きようか?
…もうそろそろホントに笑わなきゃね。
天国でお父さんもそう思ってくれるかな?




文中のnoteはこちらです↓

国崎☆和也さんの本、『へんなの』には、この後日談にあたる「じいちゃん」が。
今の私、このお話がめちゃくちゃ泣けるんです。

この本は振り幅が大き過ぎて、ザ・芸人さんなものと、ノスタルジックなものと、泣けるものが大混乱しています。そこがまた魅力。
表現が素直で、本がお嫌いな方にも読みやすいのですが、最後だけがお子様には…。見たら解ります。
読んだ後も、あるものを見つければ、かなり長く楽しめる一冊です。
ホント、エンターティナーです。

文中の相方さん、伊藤幸司さんの本、『激ヤバ』の表題作「激ヤバ」も泣けて笑えます。芸人さんらしさ絶妙です。
テレビ等で拝見している伊藤さんとは別の一面も知る事ができて、とても愛しくなります。
文章が驚く程面白くて構成がお上手だなと私は思います。


お名前をお出ししたのは、本のレビューだと思ってお許し下さい…

笑うほうも、またお力お借りしようと思います。
誠に勝手ではございますが、宜しくお願い致します。

ランジャタイさんに心より感謝と御礼申し上げます。

ありがとうがいくつあっても足りません。


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