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エッセイ『forget me note 第8話』
僕「ゆくん、今日はどんなお話が聞きたい?」
君「別にねーけどしんやは何を話したいんだい?」
僕「う、なんかゆくん今日は棘あるね。なんかあった?」
君「さぁね。自分の胸に聞いてみたら?」
僕「昨日僕がゆくんをないがしろにしてしまったかな?
だとしたら、今後はできる限り気をつけます」
君「しんやは私と薬物どちらが大切なの?」
僕「それはゆくんに決まってるよ! 当然でしょ」
君「だけどしんやまだ薬物やりたいんでしょ?」
僕「そりゃやりたいよ!
やりたくてやりたくてたまらないくらいやりたいよ!
でもそれじゃ人生ぶっ壊れるって判断したから
グループホームにお世話になることにしたんだよ」
君「しんや苦しんでるの?」
僕「毎日苦しんでる訳じゃないけどね。
ときたま抗いがたいフラッシュバックとビッグウェーブがくるよ」
君「自業自得とはいえ、しんやの人生を思うと、
私は悲しくてやりきれなくなるよ。
しんやが何が楽しくて生きているのか分からない」
僕「僕の人生は40代を迎えた時点でもう余生だから」
君「昔私に言ってたよね。青春は心の在り方次第だって。
私は今でもそう思ってるよ。
しんやの人生もそうあってほしいよ」
僕「理性では解るよ。だけど薬物の快楽はぶっちぎりなんだよ。
何処にも逃げ場なんてない。他者とつながること、
見守りがあってしか、もうひとりでは乗り越えられないんだ。
だから僕はグルホから出てゆくという選択肢はない」
君「しんやは旅行したいとかライブに行きたいとか
女の子と遊びたいとか温泉に入りたいとか自由になりたいとか
とにかくなんでもいいから健全な趣味や生き方をもつ気がないの?」
僕「それら全てを秤にかけても薬物が勝つ。
唯一秤に拮抗しうるのがゆくんの存在なんだよ。
これ以上君をがっかりさせたくないから、
せめて薬物だけは断ちたいと思っているんだよ」
君「……、そう。しんやが私にしあわせでいてほしい
そう思ってくれてるのわかるから、
私もしんやにしあわせになってほしいんだよ」
僕「大丈夫だよゆくん。君を愛したいと思えているうちは
がんじがらめで身動きとれないとしても
薬物だけは遠ざけていられる。グルホならね」
君「なんで薬物なんてやっちゃったんだよ、バカ!」
僕「そうだね。その通りだ。ごめん、ありがとう、愛してる」
君と僕「つづく!」
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